魔法剣士は師匠の夢を見る  ~黒猫獣人の甘い誘惑~

三原みぱぱ

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第十三話 ダンジョンマスターとの戦いは大変ですか?

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 頑丈な大きな鉄の扉が内側から開けられる。
 中からはテカテカと黒光りした肌を見せつけながら、スキンヘッドのマッチョな男が出てきた。

「まさかあんな倒され方をするとはな。また一から製作か。まあ、約束だ。我が相手をしてやろう。ついてこい」

 ダンジョンマスターのジェロはミズホたちが来た道を引き返した。

「あそこから先は我の研究所兼居住区だ。あそこをさっきのように壊されると困るんでな」

 そう言いながらまるで友人と買い物に行くように歩いて先ほどの広場に戻る。

「コマチ姫はどこよ。解放しなさい」
「威勢のいい子豚ちゃんだ。脂肪じゃなくて筋肉つけなさい。コマチ姫はちゃんと生きてるよ。それ!」

 ジェロは空中に向かって手を振ると、女の子が写し出される。
 背はクロフェより低く細身の体にほとんど膨らんでいない胸。幼さを残す顔には気の強さを表すように釣り上がった赤い瞳とツンと高い鼻。可愛らしい唇はキュッと閉じられている。
 ピンクの長い髪は黒地に赤い刺繍がされたリボンでツインテールにまとめられている。
 白い細い足には黒いニーソックスを履き、手には肘まである黒い手袋をつけていた。
 そう、身につけているのは二つのリボン、ニーソックスと手袋のみ。
 そして出産台のような椅子の上に手足を拘束されて座らされていた。
 つまり胸だけでなく、股も丸見えの状態であった。

「な、え、どうしたの? 見られているのわたくし? いや~見て! じゃなくて見ないで!」

 ミズホたちが見ていることが向こうからもわかるらしく、顔を紅葉させてコマチ姫は叫ぶ。

「まあ、このように人質は元気ですよ。さて……あなた仲間になりませんか? あなたとならこのダンジョンを出て、街の一つも手に入れられることができそうです。そこを足がかりに国を取るのもいいですね」
「何馬鹿なことを言ってるの。コマチ姫を解放しなさい」
「子豚がぶうぶうとうるさいですね。我はそこの金色の髪のあなたに話しをしているのですよ」

 スキンヘッドのジェロはソリエを無視してミズホへ話しかける。
 美しい青い目で黒光りのダンジョンマスターを見て答える。

「いいですよ」
「……ミズホ様」

 クロフェは心配そうにミズホを見る。

「あなたが勝ったら仲間になりましょう」

 ミズホはそう言って日本刀の柄に手をかける。

「やはりそうなりますか! いいでしょう。結果は見えていますがね。では始めましょうか」

 そう言ってジェロは体を黒くテカらせながら、白い歯を見せてニッコリ笑う。右手で左手首を掴み、斜めに構えテカテカの筋肉を魅せつける。俗に言うサイド・チェストのポーズだ。

 ミズホは腰を軽く落として、光一閃の構えをとる。

 一撃で決着がつく。クロフェもソリエもそう思っていた。
 クロフェが無意識に瞬きをした瞬間、美しい金色の髪をふわりと後ろにたなびかせた魔法剣士が黒光りしたスキンヘッドのボディビルダーの後ろにいた。

「滑った!?」

 ミズホが呟くとジェロはポーズを崩して後ろを向く。

「今、何かしましたか? ああ、言い忘れましたが、我には剣も矢も効きませんよ。この体を覆う、液体が摩擦をほぼない状態にしているのですよ」

 ミズホは剣を水平に構える。
 その姿を見て呆れて両手を頭の後ろで合わせて足をクロスに構える、アブドミナル・アンド・サイのポーズを取るジェロ。
 次の瞬間、クロフェには何十本もの剣が真直ぐにジェロへ向かっていった。

 乱れ百桜花!

 この技を習得する試験として無数に舞い散る桜の花びらを突くことから名付けられた連続突き。
 しかし、全ての突きはそのテカって盛り上がった筋肉に当たるとつるりと滑り、傷一つつかない。

「わからないお馬鹿にはお仕置きが必要ですね」

 ジェロは余裕を見せながら、詠唱を始める。

「我が古の契約にもとづき降臨奉り、我に力を与え給え、誇り高き炎の精霊イフリート!」

 その詠唱にミズホは間合いを取ると、ジェロの目の前に大きな炎の塊が現れた。
 それは大きな渦を巻き次第に人の形を取り始めた。

 炎で出来た大きな人形!
 それがクロフェが見たイフリートのイメージだった。

「上位精霊!」

 ソリエがそのイフリートの熱気に当てられながら叫ぶ!
 四つある魔法体系の頂点に立つ上位精霊魔法。
 通常の精霊魔法のようにその力だけを借りるのではない、上位の精霊を使役しその力を借りる。
 その力は訓練された一個大隊をも壊滅させる力があると言われている。しかし、その大きな力のため、習得している者は稀である。

「クロフェ! 逃げるわよ。あんなの相手にしてたら命がいくつあっても足りないわよ」

 ソリエはクロフェの手を引っ張って広場の入り口へ急ぐ。

「でもミズホ様が……」

 クロフェはミズホを見ると刀を鞘に収めていた。

「大丈夫よ。ミズホ様は負ければ仲間になるって言う約束だから殺されることはないわよ。それよりも私たちの方が危ないわよ。あいつにとって私たちはただの邪魔者でしかないんですもの」

 ジェロの興味がミズホに向いている隙に二人はなんとか広場の外へ逃げることに成功した。
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