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第一章
第27話 駆け出し冒険者達は勇者から仲間に誘われる
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「それで、オルちゃん。どうやってマリーちゃんを花火大会に連れ出すつもりなの?」
マリアーヌ達が帰ったあと、エルシーはコーヒーを飲みながら、オルコットに聞いてみた。
「え!? 当日、マリーの家に誘いに行くつもりだけど?」
「え!?」
あまりの無策にエルシーは驚いた。
確かに田舎の友人をお祭りに誘うのならばそれでもいいかもしれない。しかし、厳重に警備されている領主邸。それも、花火大会当日は貴族のパーティがある。たかだか平民の冒険者が、正攻法でマリアーヌを連れ出せるとは思えない。
それを告げるとオルコットは驚いていた。
トリステンはその妹の様子を見て、少し呆れていたところを見るとオルコットのように簡単には考えていないようだった。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「方法はあるけど、聞く?」
「聞く!」
「エル姉ちゃん、本当にそんな方法があるの?」
「まあね」
エルシーが言う方法とはこうだ。
花火大会の日にはギルドマスターも領主のパーティーに呼ばれている。そのギルドマスターは、各ギルドの勇者を連れて参加する。貴族達は極秘で冒険者に依頼する事がある。その場合、基本的に勇者クラスに依頼する。そのためギルドマスターはこういった機会に、貴族へ紹介をしておく。
「つまり、勇者にお願いして、一緒に連れて行ってもらうのよ。あの屋敷からは花火が綺麗に見えるらしいわよ」
「本当? そうか、マリーが街に来るのが難しければ、こっちから行けばいいのね。さすが、エル姉ちゃん!」
「ちょっと待って、らしいってどう言う事? エル姉ちゃんも勇者パーティだったから、行った事があるのじゃないの?」
「わたしは行った事がないわよ。だって、せっかくのお祭りよ。気取った貴族のパーティーより、大いに飲んで食べて騒ぎたいじゃない。行くのはいつもアルだけだったわよ。お蝶ちゃんもそう言うのは興味なかったし、バードナは女性がいる場所は無理でしょう。サクヤなんて連れて行ったら、大変な事になるわよ。二重の意味で」
あのヒップハンターは貴族相手でも見境なくお尻を触るようだ。恐るべし、ヒップハンターと意味もなく感心するトリステンであった。
「二重の意味って言うのは? お尻を触りまくって大騒ぎになるって言うのはわかるけどもう一つは?」
「黙って立っていると、あいつ超絶美形じゃない。男からは嫉妬を受け、女性たちはサクヤの奪い合いが始まるのよ。貴族からそんな風に目をつけられるって、どう考えても良い事ないでしょう」
「カッコいいのも、大変なんだね。確かに嫉妬するかもな」
「お兄ちゃんだって、かっこいいよ!」
「ありがとな、オル。でも今日のダンジョンのでのアレは無いと思うぞ」
「え、だってとっさに何も浮かばなくて」
その注目されすぎる顔を隠すために、気配を隠す術を身につけたサクヤが、今では蜃気楼の暗殺者なんて呼ばれていると言うのもおかしなものだと、エルシーは昔の仲間のことを思い出していた。
「ねえ、アルはいる?」
エルシーはギルドの受付嬢に声をかける。
「え、あんたの方から勇者を探すってどういった風の吹き回しなの? まさか勇者に頭を下げて、もう一度パーティに戻る気? トリステン君たちはどうするつもりなの?」
「まさか~、ちょっとアルに別のお願いがあって探しているのよ」
「本当に?」
マーヤのメガネがきらりと光る。
アルの方からパーティに戻ってくれと言われたとは言いづらい。マーヤちゃんのことだから、なんで断ったのかと怒るに違いない。それはいつもの叱るのではなく、わたしのことを思って怒るだから、困ってしまう。本当に今は、トリ君たち平和の鐘のメンバーが大事なのだから。エルシーはマーヤの優しさをよく知っていた。
「勇者ならちょうど今、ギルドマスターのところに来ているわよ。お祭り最終日のパーティーの話じゃない?」
「そうなの、ちょうど良かった。じゃあ、待たせてもらうわよ」
「いいけど、何も壊さないでよ」
「大丈夫だよ。俺がフォローするから」
依頼掲示板を見ていたトリステンはふたりの会話に入り込む。
それを聞いたやり手の受付嬢は呆れたように笑う。
「エルシー、あんた、もうどっちが年上か分からないじゃない」
「うるさいわね。わたしがダメなんじゃなくて、トリ君たちがしっかりしているだけなの」
おいおい、そうは言っても十歳以上、年下だろうに。その言葉をマーヤは飲み込んだ。
初めてギルドに来た時のトリステン兄妹は、田舎か出て来たての頼り無さそうな子供たちだった。
それが、みるみる内に冒険者としての落ち着きと貫禄を身につけている。いろいろな冒険者を見てきたマーヤも驚く成長速度だった。
頼りない仲間がいると周りがしっかりしてくるのだろうか? そんなことをマーヤが考えていると、マリアーヌがエルシーに話しかける。
「お姉さま、勇者様にどんな話があるのですか?」
昨夜のやり取りを知らないマリアーヌが不思議そう顔をする。
「それはね。マリーちゃん……」
「あ! 勇者が出てきたわよ」
栗毛の優しそうな男が、奥のドアから出てきた。
隣には人が良さそうな男が一緒に出てきた。年の頃は四十代後半の蝶子が好きそうな年。しかしその細い目は鋭かった。
「アル、ちょっと話があるのだけど……いい?」
「やあ、エルシー。パーティのこと考え直してくれたのか?」
「そうそう、パーティーのことだけど……」
「え!?」
「ん!?」
びっくりした顔でアルスロッドは、前髪に隠れたエルシーの瞳を見つめていた。
エルシーは頭の上にクエスチョンマークを三つ浮かべて首をかしげる。
「もしかして、勇者様は団体のこと、お姉様は宴会のことを言っているのでしょうか?」
見かねたマリーが助け船を出す。
二人はあー、と言いながら、ポンと手を叩く。
「パーティーってなんのことだ?」
「え、ええ。今年も花火大会の時に、ギルマスと一緒にパーティーに行くでしょう。それにわたしたちを連れて行って欲しいのよ」
「……ああ、その話か。今年は出ないよ」
「え!?」
「ん!?」
びっくりした顔でエルシーは、黄金色に輝くアルスロットの瞳を見つめていた。
アルスロッドはそれがどうしたの、と言った顔で首をかしげる。
「なんでよ~。毎年出ているじゃない。なんで今年だけ出ないのよ」
「ほら、エルシーもそう言っているのだから、考え直さないか?」
勇者の隣にいた人が良さそうなおじさんが、口を挟んできた。一見、人が好さそうなおじさんなのだが、この人物は荒くれものの冒険者を束ねる、怒らせると怖いギルドマスターだとエルシーは知っていた。
「ほら、ギルマスもそう言っているんだから、出なさいよ。そしてわたしたちを一緒に連れて行ってよ」
「いやいや、今まではドラゴン騎士団のリーダーとして、しょうがなく出ていたけど、今はパーティ自体が僕とサクヤだけだからね。出てもしょうがないよ」
「それでも、まだ、うちのギルドで一番実績があるのだから。とりあえず、形だけでも出てくれるだけでいいんだよ。今年は積極的に紹介しないから」
ギルドマスターはおそらく何度も、したであろう説得の言葉をくりかえす。
「ですから、ちゃんとパーティの形になったら、ちゃんと出席しますから……それより、エルシーはなんで今年に限ってパーティーに出たがるのだ? 毎年、あんな堅苦しいところに行ったら、お腹いっぱい食べられないから嫌だって言っていたじゃないか。それに緊張しすぎて、ドジばっかりするのが目に見えているとも言っていたよね」
「う! そうだけど……」
「そんなこと言っていたの? エル姉ちゃん、もったいない」
「だってトリ君、貴族って何言ってもオホホホって笑うのよ」
「それは偏見ですわ。お姉様」
「ごめんなさい」
エルシーは素直にマリアーヌに謝る。
「君らの仲が良いのは分かったから、どうして、今になって、パーティーに行きたいのかを説明してくれるかな?」
エルシーたちの仲の良いやり取りを聞きながら、アルスロッドは呆れ顔で問いかける。これまでエルシーは貴族のパーティーに出たがったことなどなかった。パーティーでドジをして、怒られるのが目に見えていたからだった。それをわざわざ、今の自分を頼ってまでパーティーに行きたいと言ってきた。その理由をアルスロッドは気になった。
しかし、その答えはアルスロッドにとって予想外の答えだった。
「マリーと一緒にお祭りの花火を見るためです」
それまで黙って、成り行きを見守っていたオルコットが口を開いた。
「マリーはお祭りの間、家のことであたしたちと会えないのです。だったら、花火の時くらいは一緒に見たいって思ったのです」
「オルちゃん……」
マリアーヌはあれから、一緒に花火を見る話が出てこなかったので、社交辞令だと思っていた。
オルコットは真剣にあの約束を守ろうとしてくれている。もう、それだけでマリアーヌは胸がいっぱいになってしまう。
「だったら、マリアーヌ様に頼んで参加すればいいじゃないか?」
「それも考えたわよ。でも、マリーちゃんがわたしたちと一緒に冒険者をしていること自体が破格でしょう。そこにそのツテでパーティーに参加したら、わたしたちはマリーちゃんを利用しているみたいになるじゃない。下手したら、マリーちゃんはお父さんから、平和の鐘をやめろって言われるかもしれないじゃない」
「まあ、それもそうか。でも、君たちは僕を利用しようとしているけどね」
アルスロッドは意地悪そうな顔をする。
アルスロッドは自分のお願いを蹴っておいて、図々しく頼み事に来るエルシーに意地悪の一つも言いたくなったのだ。
「あ! ごめんなさい」
「確かにそうだ。すみません」
兄妹はアルスロッドの言葉に自分たちのワガママに気がつく。柔らかく、優しそうなアルスロッドの雰囲気についつい、お願いをすれば聞いてくれそうな気がしたのだ。
「だって、しょうがないわよ。そもそも、わたしをクビにしたのはアルじゃない。今更、みんなを放っておいてそっちに戻れないでしょう」
「でも、どっちにしろパーティーに連れていけるのは、パーティメンバーだけだよ。だったら、他のみんなもひっくるめてドラゴン騎士団に入るって言うのはどうだい? 今、メンバー不足で困っているからね」
アルスロッドの提案に三人は驚いた。憧れの勇者パーティからの誘い。
三人だけではなく、他の冒険者達もざわつく。
あんなガキどもよりも自分たちの方がよっぽど役に立つ筈だ。なんで俺たちが選ばれない。そんなつぶやきが聞こえてくる。
アルスロッドのその提案にエルシーが答えた。
マリアーヌ達が帰ったあと、エルシーはコーヒーを飲みながら、オルコットに聞いてみた。
「え!? 当日、マリーの家に誘いに行くつもりだけど?」
「え!?」
あまりの無策にエルシーは驚いた。
確かに田舎の友人をお祭りに誘うのならばそれでもいいかもしれない。しかし、厳重に警備されている領主邸。それも、花火大会当日は貴族のパーティがある。たかだか平民の冒険者が、正攻法でマリアーヌを連れ出せるとは思えない。
それを告げるとオルコットは驚いていた。
トリステンはその妹の様子を見て、少し呆れていたところを見るとオルコットのように簡単には考えていないようだった。
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「方法はあるけど、聞く?」
「聞く!」
「エル姉ちゃん、本当にそんな方法があるの?」
「まあね」
エルシーが言う方法とはこうだ。
花火大会の日にはギルドマスターも領主のパーティーに呼ばれている。そのギルドマスターは、各ギルドの勇者を連れて参加する。貴族達は極秘で冒険者に依頼する事がある。その場合、基本的に勇者クラスに依頼する。そのためギルドマスターはこういった機会に、貴族へ紹介をしておく。
「つまり、勇者にお願いして、一緒に連れて行ってもらうのよ。あの屋敷からは花火が綺麗に見えるらしいわよ」
「本当? そうか、マリーが街に来るのが難しければ、こっちから行けばいいのね。さすが、エル姉ちゃん!」
「ちょっと待って、らしいってどう言う事? エル姉ちゃんも勇者パーティだったから、行った事があるのじゃないの?」
「わたしは行った事がないわよ。だって、せっかくのお祭りよ。気取った貴族のパーティーより、大いに飲んで食べて騒ぎたいじゃない。行くのはいつもアルだけだったわよ。お蝶ちゃんもそう言うのは興味なかったし、バードナは女性がいる場所は無理でしょう。サクヤなんて連れて行ったら、大変な事になるわよ。二重の意味で」
あのヒップハンターは貴族相手でも見境なくお尻を触るようだ。恐るべし、ヒップハンターと意味もなく感心するトリステンであった。
「二重の意味って言うのは? お尻を触りまくって大騒ぎになるって言うのはわかるけどもう一つは?」
「黙って立っていると、あいつ超絶美形じゃない。男からは嫉妬を受け、女性たちはサクヤの奪い合いが始まるのよ。貴族からそんな風に目をつけられるって、どう考えても良い事ないでしょう」
「カッコいいのも、大変なんだね。確かに嫉妬するかもな」
「お兄ちゃんだって、かっこいいよ!」
「ありがとな、オル。でも今日のダンジョンのでのアレは無いと思うぞ」
「え、だってとっさに何も浮かばなくて」
その注目されすぎる顔を隠すために、気配を隠す術を身につけたサクヤが、今では蜃気楼の暗殺者なんて呼ばれていると言うのもおかしなものだと、エルシーは昔の仲間のことを思い出していた。
「ねえ、アルはいる?」
エルシーはギルドの受付嬢に声をかける。
「え、あんたの方から勇者を探すってどういった風の吹き回しなの? まさか勇者に頭を下げて、もう一度パーティに戻る気? トリステン君たちはどうするつもりなの?」
「まさか~、ちょっとアルに別のお願いがあって探しているのよ」
「本当に?」
マーヤのメガネがきらりと光る。
アルの方からパーティに戻ってくれと言われたとは言いづらい。マーヤちゃんのことだから、なんで断ったのかと怒るに違いない。それはいつもの叱るのではなく、わたしのことを思って怒るだから、困ってしまう。本当に今は、トリ君たち平和の鐘のメンバーが大事なのだから。エルシーはマーヤの優しさをよく知っていた。
「勇者ならちょうど今、ギルドマスターのところに来ているわよ。お祭り最終日のパーティーの話じゃない?」
「そうなの、ちょうど良かった。じゃあ、待たせてもらうわよ」
「いいけど、何も壊さないでよ」
「大丈夫だよ。俺がフォローするから」
依頼掲示板を見ていたトリステンはふたりの会話に入り込む。
それを聞いたやり手の受付嬢は呆れたように笑う。
「エルシー、あんた、もうどっちが年上か分からないじゃない」
「うるさいわね。わたしがダメなんじゃなくて、トリ君たちがしっかりしているだけなの」
おいおい、そうは言っても十歳以上、年下だろうに。その言葉をマーヤは飲み込んだ。
初めてギルドに来た時のトリステン兄妹は、田舎か出て来たての頼り無さそうな子供たちだった。
それが、みるみる内に冒険者としての落ち着きと貫禄を身につけている。いろいろな冒険者を見てきたマーヤも驚く成長速度だった。
頼りない仲間がいると周りがしっかりしてくるのだろうか? そんなことをマーヤが考えていると、マリアーヌがエルシーに話しかける。
「お姉さま、勇者様にどんな話があるのですか?」
昨夜のやり取りを知らないマリアーヌが不思議そう顔をする。
「それはね。マリーちゃん……」
「あ! 勇者が出てきたわよ」
栗毛の優しそうな男が、奥のドアから出てきた。
隣には人が良さそうな男が一緒に出てきた。年の頃は四十代後半の蝶子が好きそうな年。しかしその細い目は鋭かった。
「アル、ちょっと話があるのだけど……いい?」
「やあ、エルシー。パーティのこと考え直してくれたのか?」
「そうそう、パーティーのことだけど……」
「え!?」
「ん!?」
びっくりした顔でアルスロッドは、前髪に隠れたエルシーの瞳を見つめていた。
エルシーは頭の上にクエスチョンマークを三つ浮かべて首をかしげる。
「もしかして、勇者様は団体のこと、お姉様は宴会のことを言っているのでしょうか?」
見かねたマリーが助け船を出す。
二人はあー、と言いながら、ポンと手を叩く。
「パーティーってなんのことだ?」
「え、ええ。今年も花火大会の時に、ギルマスと一緒にパーティーに行くでしょう。それにわたしたちを連れて行って欲しいのよ」
「……ああ、その話か。今年は出ないよ」
「え!?」
「ん!?」
びっくりした顔でエルシーは、黄金色に輝くアルスロットの瞳を見つめていた。
アルスロッドはそれがどうしたの、と言った顔で首をかしげる。
「なんでよ~。毎年出ているじゃない。なんで今年だけ出ないのよ」
「ほら、エルシーもそう言っているのだから、考え直さないか?」
勇者の隣にいた人が良さそうなおじさんが、口を挟んできた。一見、人が好さそうなおじさんなのだが、この人物は荒くれものの冒険者を束ねる、怒らせると怖いギルドマスターだとエルシーは知っていた。
「ほら、ギルマスもそう言っているんだから、出なさいよ。そしてわたしたちを一緒に連れて行ってよ」
「いやいや、今まではドラゴン騎士団のリーダーとして、しょうがなく出ていたけど、今はパーティ自体が僕とサクヤだけだからね。出てもしょうがないよ」
「それでも、まだ、うちのギルドで一番実績があるのだから。とりあえず、形だけでも出てくれるだけでいいんだよ。今年は積極的に紹介しないから」
ギルドマスターはおそらく何度も、したであろう説得の言葉をくりかえす。
「ですから、ちゃんとパーティの形になったら、ちゃんと出席しますから……それより、エルシーはなんで今年に限ってパーティーに出たがるのだ? 毎年、あんな堅苦しいところに行ったら、お腹いっぱい食べられないから嫌だって言っていたじゃないか。それに緊張しすぎて、ドジばっかりするのが目に見えているとも言っていたよね」
「う! そうだけど……」
「そんなこと言っていたの? エル姉ちゃん、もったいない」
「だってトリ君、貴族って何言ってもオホホホって笑うのよ」
「それは偏見ですわ。お姉様」
「ごめんなさい」
エルシーは素直にマリアーヌに謝る。
「君らの仲が良いのは分かったから、どうして、今になって、パーティーに行きたいのかを説明してくれるかな?」
エルシーたちの仲の良いやり取りを聞きながら、アルスロッドは呆れ顔で問いかける。これまでエルシーは貴族のパーティーに出たがったことなどなかった。パーティーでドジをして、怒られるのが目に見えていたからだった。それをわざわざ、今の自分を頼ってまでパーティーに行きたいと言ってきた。その理由をアルスロッドは気になった。
しかし、その答えはアルスロッドにとって予想外の答えだった。
「マリーと一緒にお祭りの花火を見るためです」
それまで黙って、成り行きを見守っていたオルコットが口を開いた。
「マリーはお祭りの間、家のことであたしたちと会えないのです。だったら、花火の時くらいは一緒に見たいって思ったのです」
「オルちゃん……」
マリアーヌはあれから、一緒に花火を見る話が出てこなかったので、社交辞令だと思っていた。
オルコットは真剣にあの約束を守ろうとしてくれている。もう、それだけでマリアーヌは胸がいっぱいになってしまう。
「だったら、マリアーヌ様に頼んで参加すればいいじゃないか?」
「それも考えたわよ。でも、マリーちゃんがわたしたちと一緒に冒険者をしていること自体が破格でしょう。そこにそのツテでパーティーに参加したら、わたしたちはマリーちゃんを利用しているみたいになるじゃない。下手したら、マリーちゃんはお父さんから、平和の鐘をやめろって言われるかもしれないじゃない」
「まあ、それもそうか。でも、君たちは僕を利用しようとしているけどね」
アルスロッドは意地悪そうな顔をする。
アルスロッドは自分のお願いを蹴っておいて、図々しく頼み事に来るエルシーに意地悪の一つも言いたくなったのだ。
「あ! ごめんなさい」
「確かにそうだ。すみません」
兄妹はアルスロッドの言葉に自分たちのワガママに気がつく。柔らかく、優しそうなアルスロッドの雰囲気についつい、お願いをすれば聞いてくれそうな気がしたのだ。
「だって、しょうがないわよ。そもそも、わたしをクビにしたのはアルじゃない。今更、みんなを放っておいてそっちに戻れないでしょう」
「でも、どっちにしろパーティーに連れていけるのは、パーティメンバーだけだよ。だったら、他のみんなもひっくるめてドラゴン騎士団に入るって言うのはどうだい? 今、メンバー不足で困っているからね」
アルスロッドの提案に三人は驚いた。憧れの勇者パーティからの誘い。
三人だけではなく、他の冒険者達もざわつく。
あんなガキどもよりも自分たちの方がよっぽど役に立つ筈だ。なんで俺たちが選ばれない。そんなつぶやきが聞こえてくる。
アルスロッドのその提案にエルシーが答えた。
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