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第1話 事件の始まり
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ここは剣と魔法の世界。
世界はモンスターとダンジョンと冒険にあふれ、人々は未知とロマンと一攫千金を求め狂喜する。
そんな世界のある街の一角。
澄み切った空は高く、赤く大きい月の光が輝く。
昼の暑さは和らぎ、風は夜の涼しさを運ぶ。
地上にはレンガで作られた家々。
石畳の道には家路を急ぐ人々の姿。
酒場もそろそろ閉まり始める時間帯。
人通りを外れた裏通りを、ひとりの女性が走っていた。
長く美しい、今宵の月と同じ真っ赤な髪を振り乱し、気の強そうな黒い瞳は後ろを気にするように時折、振り返る。すっと通った高い鼻、情熱あふれる赤い唇。背は高く魅力的なプロポーション。大人の色気を醸し出した美しい女性は、真っ黒なドレスを身にまとい、一心不乱に走っていた。
息を切らせる女性の後ろから、三人の男が追いかけて来る。
三人とも女性より頭ひとつ以上大きい。身長だけでなく、それ以上に筋肉がついているのが、服の上からでも見て取れる。
全員、武器を手に持っていた。
いかつい顔を見るまでもなく、暴力を生業にしている男たち。
見目麗しい女性一人を追いかけるには十分すぎる人数。
女性が後ろを気にしながら、角を曲がると弾力のある肉の壁にぶつかる。
身長は二メートルに達するほど背が高く、黒い服に包まれた厚い胸板。見上げると無精髭の中にある分厚い唇はタバコをくわえ、潰れた大きな鼻が見える。ほおに大きな刀傷。瞳は細く鋭い。黒い髪は短い坊主頭だった。
その男のイメージを一言で言うと山賊、それも首領クラスの人相の悪い男だ。
「ヒィィィ!」
女性は思わず悲鳴をあげる。
挟み撃ちなのか、後ろから男たちが迫る。
「あ、失礼」
くわえタバコの男はその人相に似合わず、丁寧にペコリと頭を下げる。
よく見ると武器ひとつ持っていなかった。
「てめえ! その女をよこしやがれ!」
後ろから迫る男たちが叫ぶ。
まるで、ぶつかった男が女性を横取りしたのかと、勘違いしているようだった。
「……追われているのですか?」
この人相の悪い男は、あいつらの仲間じゃない。女性はそう判断してからの行動は早かった。
「お願いします! 助けてください!」
そう言って、頬に刀傷がある男の後ろに回る。
男は坊主頭を掻きながら、女性と男たちを見比べる。
男達はそんな坊主頭の男に叫ぶ。
「なんだ、お前は! 怪我したくなきゃ、その女をこちらに渡せ!」
「嫌がっているじゃないか。大の男が三人で追いかけて……」
「うるせい! てめぇには関係ねえだろう」
男たちは各々の武器を構えながら、たしなめる坊主頭の男に襲いかかる。
一息ため息をつく。
「はぁ、仕方ねぇな」
坊主頭の男はそう言いながら、一歩踏み出す。
振り下ろす剣の柄を左手で受け止めながら、右手は襟を掴む。そして体をひねり、前斜め下へ引っ張る。男は自分が打ち込んだ勢いそのままに、地面に転がる。
それも仲間のいる方向に……。
男たちの一人がそれを受け止めると、二メートル近い大男は、ア然としているもう一人の男に音もなく近づく。掌底で顎を打ち抜くと同時に、先程転がった男の顎を蹴り抜く。攻撃を受けた男達は糸が切れた人形のように同時に倒れ込む。
「二人を連れて帰れるように、あんたを残した俺の配慮を無駄にしてくれるなよ」
顔に傷のある男は、その鋭い目で一人残った男をギロリと睨む。
手合わせするまでもない。違いすぎる実力の差。その気になれば二人とも、いや、自分を含めた三人とも一瞬で殺されてしまう。
そして、この風体。
「もしかして、あんた……」
男は何か気が付いたようで、黙って倒れた二人を介抱し始めた。
それを見た大男はその姿を油断なく見据えていた。
「さあ、今のうちに」
そしてそう言って、あっという間に二人を倒した男は、美しい女性の手を取って歩き始めた。
世界はモンスターとダンジョンと冒険にあふれ、人々は未知とロマンと一攫千金を求め狂喜する。
そんな世界のある街の一角。
澄み切った空は高く、赤く大きい月の光が輝く。
昼の暑さは和らぎ、風は夜の涼しさを運ぶ。
地上にはレンガで作られた家々。
石畳の道には家路を急ぐ人々の姿。
酒場もそろそろ閉まり始める時間帯。
人通りを外れた裏通りを、ひとりの女性が走っていた。
長く美しい、今宵の月と同じ真っ赤な髪を振り乱し、気の強そうな黒い瞳は後ろを気にするように時折、振り返る。すっと通った高い鼻、情熱あふれる赤い唇。背は高く魅力的なプロポーション。大人の色気を醸し出した美しい女性は、真っ黒なドレスを身にまとい、一心不乱に走っていた。
息を切らせる女性の後ろから、三人の男が追いかけて来る。
三人とも女性より頭ひとつ以上大きい。身長だけでなく、それ以上に筋肉がついているのが、服の上からでも見て取れる。
全員、武器を手に持っていた。
いかつい顔を見るまでもなく、暴力を生業にしている男たち。
見目麗しい女性一人を追いかけるには十分すぎる人数。
女性が後ろを気にしながら、角を曲がると弾力のある肉の壁にぶつかる。
身長は二メートルに達するほど背が高く、黒い服に包まれた厚い胸板。見上げると無精髭の中にある分厚い唇はタバコをくわえ、潰れた大きな鼻が見える。ほおに大きな刀傷。瞳は細く鋭い。黒い髪は短い坊主頭だった。
その男のイメージを一言で言うと山賊、それも首領クラスの人相の悪い男だ。
「ヒィィィ!」
女性は思わず悲鳴をあげる。
挟み撃ちなのか、後ろから男たちが迫る。
「あ、失礼」
くわえタバコの男はその人相に似合わず、丁寧にペコリと頭を下げる。
よく見ると武器ひとつ持っていなかった。
「てめえ! その女をよこしやがれ!」
後ろから迫る男たちが叫ぶ。
まるで、ぶつかった男が女性を横取りしたのかと、勘違いしているようだった。
「……追われているのですか?」
この人相の悪い男は、あいつらの仲間じゃない。女性はそう判断してからの行動は早かった。
「お願いします! 助けてください!」
そう言って、頬に刀傷がある男の後ろに回る。
男は坊主頭を掻きながら、女性と男たちを見比べる。
男達はそんな坊主頭の男に叫ぶ。
「なんだ、お前は! 怪我したくなきゃ、その女をこちらに渡せ!」
「嫌がっているじゃないか。大の男が三人で追いかけて……」
「うるせい! てめぇには関係ねえだろう」
男たちは各々の武器を構えながら、たしなめる坊主頭の男に襲いかかる。
一息ため息をつく。
「はぁ、仕方ねぇな」
坊主頭の男はそう言いながら、一歩踏み出す。
振り下ろす剣の柄を左手で受け止めながら、右手は襟を掴む。そして体をひねり、前斜め下へ引っ張る。男は自分が打ち込んだ勢いそのままに、地面に転がる。
それも仲間のいる方向に……。
男たちの一人がそれを受け止めると、二メートル近い大男は、ア然としているもう一人の男に音もなく近づく。掌底で顎を打ち抜くと同時に、先程転がった男の顎を蹴り抜く。攻撃を受けた男達は糸が切れた人形のように同時に倒れ込む。
「二人を連れて帰れるように、あんたを残した俺の配慮を無駄にしてくれるなよ」
顔に傷のある男は、その鋭い目で一人残った男をギロリと睨む。
手合わせするまでもない。違いすぎる実力の差。その気になれば二人とも、いや、自分を含めた三人とも一瞬で殺されてしまう。
そして、この風体。
「もしかして、あんた……」
男は何か気が付いたようで、黙って倒れた二人を介抱し始めた。
それを見た大男はその姿を油断なく見据えていた。
「さあ、今のうちに」
そしてそう言って、あっという間に二人を倒した男は、美しい女性の手を取って歩き始めた。
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