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第9話 ガドランド一家の金庫番
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「俺とウェインが魔獣屋に行ってくる。おっさんはちゃんとルカに説明しとけよ」
「何? どういうこと? クーちゃん、イチゴのジャムまだ残ってた?」
食事をしながらロレンツはガドランドに話しかけた。それを聞いた甘党のルカは、クリスからイチゴのジャムを受け取り、たっぷりとパンの上にのっけた。
「あ~、昨日の女性、アマンダにな、ちょっと金を貸したんだ」
「へ~、いくらくらい?」
ほっぺたに赤いジャムをちょっとつけながら、とりあえず話を聞きましょうと、ガドランドの言葉を待つ。
ガドランドは黙って指を二本立てる。昨日のアマンダがしたように。
「二万も貸したの? ガーさん馬鹿だな~それで逃げられちゃったと」
「いや、もうちょい上」
「二十万も!? ロッさん。ルカも取り返しに行く! 取り返したら、一割バックだからね」
ルカはパンを口に放り込んで、慌てて席を立つ。
「ルカ、まあ、落ちついておっさんの話を最後まで聞けよ。なあ、おっさん」
「すまん、ルカ。二千万だ」
ルカはそのまま、気を失ってしまった。
「だから、言わんこっちゃない」
ルカの性格をよく知っている弟子三人は昨日の時点でこうなるのは予想済みだった。
ルカはすぐ目を覚まし、師匠であるガドランドに噛み付く。
「ばっかじゃない! 昨日会ったばかりの人に二千万も渡すなんて!」
「いや、困っていたし、貸しているだけだから。それにあれはオレ個人の金だからな」
「そんなのあったりまえじゃない!! ルカが管理している金から一マルでも使ってたら、怒るからね。大体そんなに金が余っているなら、これからガーさんの負担金を増やすからね!」
金の恐ろしさ、大事さが身に染みているルカは興奮してまくしたてる。
四年前まで、ある盗賊団の下っ端をしていたルカは、たかだか十万マルのために、盗賊団の仲間から殺されかけたことがあった。その仲間はギャンブルでやばいところから借金をしていた。その返済に困り、自分の取り分を増やそうと、ルカを殺そうとしていた。
その時の盗賊団は商隊の護衛をしていたガドランドたちに皆殺しにされ、仲間から殺されそうになっていたルカは、勘違いからガドランドに助けられたという経緯を持つ。事情を説明した後、犯罪には手を染めないと約束して、ガドランドの弟子になった。
ルカが弟子入りした時には、ほかの三人はすでに弟子入りしていたが、金の管理については
非常にどんぶり勘定なのに驚き、腹を立てた。ガドランドは一流の冒険者だ。それゆえに請け負う仕事は危険が伴う代わりに、報酬も大きい。それを均等に分けて、適当に使ってしまう。何かあった時のための貯えなど何も考えていない。そのため、ルカが初めに提案したのが共同資金を作ることだった。月々定額の金をルカが徴収し、家で使う燃料や食料、家の改築資金、将来用の貯えをその共同資金から支払う。徴収日に必ず、帳簿と現金をみんなに見せる。それによって、ルカ自身の潔白さを証明しようとするが、毎月誰もまじめに見てくれないとルカは密かに不満を持っていた。
「ガーさん。その金を取り立てたら、二割もらうからね。一割は共同資金に入れて、一割はルカの手数料だから! いいね!」
そんなガドランド一家の金庫番の血圧が上がっていたころ、玄関のドアノッカーが鳴らされる。
クリスとロレンツが朝食の片づけをして、ルカがガドランドにまだいろいろと文句を言っているので、しょうがなくウェインが玄関に出て対応する。
「はい、どちら様ですか」
「保安官のジェームズだ」
ドアの向こうで、ドスのきいた声が響く。
ジェームズは昨晩、ガドランドが言っていた、面倒くさい保安官の筆頭。保安官の中でも荒事を得意とする武闘派である。
ガドランドを呼ぼうかと一瞬考えたが、用件を確認してからでも遅くないと思いなおし、ドアを開ける。
そこには身長百四十センチほどの小柄な男がいた。白く長いひげを蓄え、焦げ茶色の髪は後ろに三つ編みに束ねられたていた。ガドランドに負けず劣らず、岩のようないかつい顔にはいくつもの刀傷があった。一重で厚いまぶたの奥には鋭い眼光が光っている。武骨な体も岩のように筋肉質だった。その容姿からドワーフ族と一目でわかる。それも歴戦の戦士。
軽い革の防具の上には、保安官を示すバッチが光っていた。
「どうもジェームズさん。お久しぶりです。こんな朝早くに何か御用でしょうか? 師匠を呼びますか?」
「よう、ウェイン。ちょうどよかった。おめぇに話があったんだ。昨日の晩にいっちょ、やらかしたのおめぇらだろう」
昨晩の騒動では、だれも死んでいないはずだ。用心棒らしき男も、落とした右腕はクリスが止血をしていた。裏稼業らしい用心棒が、保安官に泣きつくなんてことはしないだろう。
「ええ、そうですよ。私たちの知り合いが襲われたので、仕方なく反撃したのですが、彼らから保安官になにか訴えでもありましたか?」
ウェインはあっさりと認める。ウェインは嘘がつけない。バカ正直なのである。長い付き合いのジェームズはそれをよく知っていた。そのため、ウェインに話を聞くのが一番手っ取り早いと考えていたのだった。
「いいや。何もないが、まあ、騒動があったら調べなきゃいけねえのが、保安官の仕事でな。ちょいと詰め所で話を聞かせろや」
ジェームズは有無を言わせず、とりあえずついて来いと親指でくいっと指示する。
「午前中は予定があるので、午後からうかがってはダメですか?」
ジェームズは無言で振り返る。ウェインの都合など聞いていない。ついてこないと、どうなるかわかっているなと、その顔は語っていた。
「わかりました。じゃあ、少しだけ待ってください。師匠に一言、言ってきます」
そうして、ウェインは保安官に連行されてしまった。
「何? どういうこと? クーちゃん、イチゴのジャムまだ残ってた?」
食事をしながらロレンツはガドランドに話しかけた。それを聞いた甘党のルカは、クリスからイチゴのジャムを受け取り、たっぷりとパンの上にのっけた。
「あ~、昨日の女性、アマンダにな、ちょっと金を貸したんだ」
「へ~、いくらくらい?」
ほっぺたに赤いジャムをちょっとつけながら、とりあえず話を聞きましょうと、ガドランドの言葉を待つ。
ガドランドは黙って指を二本立てる。昨日のアマンダがしたように。
「二万も貸したの? ガーさん馬鹿だな~それで逃げられちゃったと」
「いや、もうちょい上」
「二十万も!? ロッさん。ルカも取り返しに行く! 取り返したら、一割バックだからね」
ルカはパンを口に放り込んで、慌てて席を立つ。
「ルカ、まあ、落ちついておっさんの話を最後まで聞けよ。なあ、おっさん」
「すまん、ルカ。二千万だ」
ルカはそのまま、気を失ってしまった。
「だから、言わんこっちゃない」
ルカの性格をよく知っている弟子三人は昨日の時点でこうなるのは予想済みだった。
ルカはすぐ目を覚まし、師匠であるガドランドに噛み付く。
「ばっかじゃない! 昨日会ったばかりの人に二千万も渡すなんて!」
「いや、困っていたし、貸しているだけだから。それにあれはオレ個人の金だからな」
「そんなのあったりまえじゃない!! ルカが管理している金から一マルでも使ってたら、怒るからね。大体そんなに金が余っているなら、これからガーさんの負担金を増やすからね!」
金の恐ろしさ、大事さが身に染みているルカは興奮してまくしたてる。
四年前まで、ある盗賊団の下っ端をしていたルカは、たかだか十万マルのために、盗賊団の仲間から殺されかけたことがあった。その仲間はギャンブルでやばいところから借金をしていた。その返済に困り、自分の取り分を増やそうと、ルカを殺そうとしていた。
その時の盗賊団は商隊の護衛をしていたガドランドたちに皆殺しにされ、仲間から殺されそうになっていたルカは、勘違いからガドランドに助けられたという経緯を持つ。事情を説明した後、犯罪には手を染めないと約束して、ガドランドの弟子になった。
ルカが弟子入りした時には、ほかの三人はすでに弟子入りしていたが、金の管理については
非常にどんぶり勘定なのに驚き、腹を立てた。ガドランドは一流の冒険者だ。それゆえに請け負う仕事は危険が伴う代わりに、報酬も大きい。それを均等に分けて、適当に使ってしまう。何かあった時のための貯えなど何も考えていない。そのため、ルカが初めに提案したのが共同資金を作ることだった。月々定額の金をルカが徴収し、家で使う燃料や食料、家の改築資金、将来用の貯えをその共同資金から支払う。徴収日に必ず、帳簿と現金をみんなに見せる。それによって、ルカ自身の潔白さを証明しようとするが、毎月誰もまじめに見てくれないとルカは密かに不満を持っていた。
「ガーさん。その金を取り立てたら、二割もらうからね。一割は共同資金に入れて、一割はルカの手数料だから! いいね!」
そんなガドランド一家の金庫番の血圧が上がっていたころ、玄関のドアノッカーが鳴らされる。
クリスとロレンツが朝食の片づけをして、ルカがガドランドにまだいろいろと文句を言っているので、しょうがなくウェインが玄関に出て対応する。
「はい、どちら様ですか」
「保安官のジェームズだ」
ドアの向こうで、ドスのきいた声が響く。
ジェームズは昨晩、ガドランドが言っていた、面倒くさい保安官の筆頭。保安官の中でも荒事を得意とする武闘派である。
ガドランドを呼ぼうかと一瞬考えたが、用件を確認してからでも遅くないと思いなおし、ドアを開ける。
そこには身長百四十センチほどの小柄な男がいた。白く長いひげを蓄え、焦げ茶色の髪は後ろに三つ編みに束ねられたていた。ガドランドに負けず劣らず、岩のようないかつい顔にはいくつもの刀傷があった。一重で厚いまぶたの奥には鋭い眼光が光っている。武骨な体も岩のように筋肉質だった。その容姿からドワーフ族と一目でわかる。それも歴戦の戦士。
軽い革の防具の上には、保安官を示すバッチが光っていた。
「どうもジェームズさん。お久しぶりです。こんな朝早くに何か御用でしょうか? 師匠を呼びますか?」
「よう、ウェイン。ちょうどよかった。おめぇに話があったんだ。昨日の晩にいっちょ、やらかしたのおめぇらだろう」
昨晩の騒動では、だれも死んでいないはずだ。用心棒らしき男も、落とした右腕はクリスが止血をしていた。裏稼業らしい用心棒が、保安官に泣きつくなんてことはしないだろう。
「ええ、そうですよ。私たちの知り合いが襲われたので、仕方なく反撃したのですが、彼らから保安官になにか訴えでもありましたか?」
ウェインはあっさりと認める。ウェインは嘘がつけない。バカ正直なのである。長い付き合いのジェームズはそれをよく知っていた。そのため、ウェインに話を聞くのが一番手っ取り早いと考えていたのだった。
「いいや。何もないが、まあ、騒動があったら調べなきゃいけねえのが、保安官の仕事でな。ちょいと詰め所で話を聞かせろや」
ジェームズは有無を言わせず、とりあえずついて来いと親指でくいっと指示する。
「午前中は予定があるので、午後からうかがってはダメですか?」
ジェームズは無言で振り返る。ウェインの都合など聞いていない。ついてこないと、どうなるかわかっているなと、その顔は語っていた。
「わかりました。じゃあ、少しだけ待ってください。師匠に一言、言ってきます」
そうして、ウェインは保安官に連行されてしまった。
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