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第15話 保安官のガサ入れ

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 タレニアが先頭で店に乗り込む。

「こんにちは、店長さんはいますか?」

 タレニアは慣れた感じで店長を呼ぶ。さすがは自分の縄張りにある店である。

「おお、保安官。ちょうどいうところに来てくれた!」

 太った店長が、渡りに船と言わんばかりにタレニアの来店を喜んでいる。

「どうかしましたか?」
「さっき、金を盗まれたんだ。一千万マル以上もっていかれた。犯人はわかっているんだ。魔法使いとハーフリングの二人連れだ。客のフリをして、金を盗みやがった」
「一千万マルたー! 結構な金額ですな。よくそんな金を店に置いてますのう」
「魔獣の仕入れもあるのですよ。保安官、こちらは?」

 店長は見慣れない二人を不審そうに見ている。ロレンツとルカのおかげで、用心深くなっているようだった。

「あら、ごめんなさいね。こっちは保安官のジェームズ。こちらのイケメンはその助手さんよ。それで二人の特徴は?」
「ちょっと、まっていただけますか? 本当にお金を盗まれたのですか? 勘違いではなく?」

 二人に特徴を聞くまでもなく、ロレンツとルカだと、ウェインにはわかっていた。そして、これがルカからのサインだとも。

「何言っているんだ。私は帳簿と金額とちゃんと見比べてるんだ」
「そうですか。保安官、それではまず、その帳簿と現金を確認してはいかがですか?」

 ここで店長の顔色が変わる。当然、店長の言う帳簿とは人身売買用の帳簿の方である。品名を変えているとは言え、その金額から保安官に不審感を与えるには十分すぎる額だ。

「ああ、そうだな。店長さんよ。帳簿を見せてもらっていいか?」
「あ、え、いや、それはちょっと」
「何か見られてまずいものでもあるんかね」
「ちょっと、まってください」

 そう言って店長は一度、奥へと引っ込んだあと、何事もなかったように戻ってきた。

「どうもお騒がせしてすみません。どうも店の者が数え間違えていただけみたいで、お金はありました」
「そう、それは良かったわね。じゃあ、そこの奥の部屋を見させていただこうかしら?」

 店長が奥に引っ込んだとき、ウェインはルカの案内糸を見つけていた。
 森やダンジョンではぐれた時に、自分たちの行き先を知らせるために要所要所に色糸で目印をつける。その案内糸が、店長が奥へと入ったドアに付けられていた。それをジェームズとタレニアに話しておいた。

「裏は、ただの事務所とバックヤードですよ。なにの用があるのですか?」
「ああ、ちょいと防犯上の視察じゃよ」

 そう言ってジェームズは無理矢理、奥へと続くドアを開ける。事務所らしくテーブルの上に書類が散乱している部屋。その奥に鍵のかかったドアを見つける。

「ここも開けていただけるかしら?」
「保安官、そろそろいい加減にしてくださいよ。ここはただの倉庫ですよ」
「あら、開けてくれないの? じゃあ、いいわ」

 タレニアはそう言うと、ポケットから針金を出す。その針金は生き物のように鍵穴に入ると、カチャリと鍵を開けた。
 その調子で次のドアを開けると、ルカたちが案内された、奴隷たちがいる牢屋部屋が現れた。

「何かしら? これは?」

 タレニアがそう言うより先に太った店長は、店の外に向かって逃げ出していた。

「逃がさないわよ!」

 タレニアは腕に巻きつけていたロープを投げると、まるで蛇のように店長を追いかけて、両足に巻きつく。
 店長は足を取られてバタッと倒れ、なんとかロープを解こうと、もがき暴れる。

「な、なんだ。これは!」
「大人しくしなさいよ」

 タレニアはもう一本のロープを使い、店長を後ろ手に縛り、拘束する。

「お前さんの言う通りだったのう」
「しかし、タレニアさんのロープはすごいですね」

 ウェインは素直に感心する。保安官として犯罪者は捕まえる対象であって、傷つける対象ではない。それを考えると、タレニアは市民にとっても犯罪者にとっても理想的な保安官なのかもしれない。
 いくつのロープを同時に扱えるのかは不明だが、敵に回るとかなり厄介な敵になるだろう。

「あら、あたしに惚れちゃった? 今はフリーだから付き合ってもいいわよ」
「これで私はお役御免ですかね」

 ウェインはさっさとその場を離れたのだった。
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