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第16話 部屋で二人きり
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「では、部屋に案内していただけますか、結衣さん」
「うん……はいっ!」
お母さんに抓られて慌てて丁寧語で言い直す結衣。
夏実の要望で結衣は一人だけで彼女を自分の部屋に案内する事になった。
お母さんは娘が失礼をしないかと心配しているようだったが、夏実は安心させるように振舞っていた。
結衣は階段をのぼりながら緊張していた。
(どうしよう……神楽は呪いの痕跡を消したと言っていたけど、もし何かを見抜かれたら……)
こんな事なら葵にいてもらえば良かった。考えてみれば初めて部屋に招く友達が夏実だなんて。他の人にもいてもらえば呪いの気配も薄まったかもしれないのに。
でも、もう後には引けないのだ。背後からは夏実の視線が突き刺さってくる。
結衣は息を呑んで自分の部屋のドアを開き、初めての他人を自分の部屋に招き入れた。
「何もない部屋だと思うんですけど……」
「敬語はもういいわ。同い年なのに疲れるでしょ?」
結衣が緊張しながら何も怪しい物は見せないように意識していると、いきなりそんな事を言われた物だから驚いてしまった。
「大人の付き合いがあるから私も普段は偉そうに振舞っているけど、今は子供しかいないんだしさ。気楽にやりましょ?」
「ええ? あ……うん、そうだね」
緊張して身構えていたが夏実も結衣と同い年ぐらいだ。年相応の子供っぽい所はあるのかもしれない。
結衣が少し肩の力を抜くと、夏実は面白そうにフフンと笑って後ろ手にドアをしっかりと閉め、部屋のベッドへと腰かけた。
「ここが呪われた子の暮らしている部屋ね。見たところ呪いの痕跡は無さそうね」
「それはか……そういうこと分かるの?」
慌てて神楽が痕跡を消したと言いそうになったのを飲み込む。神楽の名前はこの町では禁忌なのだ。郷土研究部での経験が役に立った。
「私は祠堂悠斗の子孫だからね。物心ついた頃から呪いに対する修行をやらされているの。私としては今の平和になった世の中で厳しい修行なんていらないと思うんだけどねー」
「それはまあ……そうかもしれないよね。あはは……」
何か思ったよりも友好的なお坊さんで安心した。そう思ったのも束の間、不意に夏実の視線が鋭くなって切り込んできた。
「あなた、さっき玄関で私の事を夏実ちゃんって呼んだわよね? 私の事知ってたの? どこで聞いてきたのかしら?」
「それは葵が……」
少し考えて、言っても問題ないはずだと言う事にした。
「私のクラスメイトの星宮葵が、呪いのアイテムは夏実ちゃんから譲ってもらったって言ったの」
「ああ、あなた葵ちゃんの友達だったのね。世の中って案外狭いのね」
「でも、あの不気味な指は呪いが無かったって。それって酷くない?」
「あなた、そういうこと分かるの?」
「え? いや、それは……」
結衣はささやかながら何か反撃したいと思ったのだが、逆効果になってしまったようだった。
だが、夏実はそれ以上踏み込んでは来ず、軽く息を吐いただけだった。
「完全に嘘というわけではないのよ。人の思いの集まるところに呪いは生まれるものだから。あの指ってそういう見た目をしてるでしょ?」
「それはまあ確かに。私も葵も本当に呪いの指じゃないかと信じちゃってたよ」
「それじゃあ、誰があれに呪いはないって見破ったのかしら?」
「え!? それは…………うちには郷土研究部というのがあって……」
しどろもどろになって言い訳を連ねていると、夏実に手招きされたので近づいていくと、いきなり腕を掴まれて押し倒されてしまった。
「キャッ!」
「あなた、匂うのよね」
夏実の顔が結衣の匂いを嗅ぐかのように近づけられてくる。結衣は逃れようともがくが、腕を掴まれる力は強く、がっしり抑え込まれていて振りほどけなかった。
「夏実ちゃん何を!」
「腕を見せてもらえる?」
「何で腕を!?」
「そこまでは知らないか。神楽麻倶奈に呪われた者は腕に呪印が出るのよ」
「ひええっ!」
夏実はベッドで馬乗りになって結衣の身体を押さえつけながら腕を捻り上げてそこをまじまじと見つめた。
結衣は震えていたが、何も見せないように口を噤んで堪える。やはり今日はただでは済まないのだ。
夏実はしばらくじろじろと念入りに見つめた後で腕を離してくれた。
「呪印は無いようね。匂うのはそこか」
「え? 何を……きゃあああああ!」
安心したのも束の間、夏実は次に結衣の服の中へと手を突っ込んできた。
「キャアアアア! くすぐったい! 夏実ちゃん、何するの!」
「じっとしてて!」
「じっと何て出来るわけない!」
結衣は渾身の力で夏実の体を跳ねのけると逆にベッドへと押し倒した。
「キャッ!」
「夏実様お茶をお持ちしました。結衣、失礼のないように上手くやって……る……!?」
そこへお母さんがやってきて驚愕の眼で二人を見つめた。お盆に乗せられたお茶が波を立てたが何とかこぼさずにテーブルに置くと、怪物のように恐ろしく吠えた。
「結衣! あなた何をやっているの!!」
「お母さん! 私は何も……」
「いいから離れなさい! 夏実様、すみません。うちの娘が……」
「いえ、いいんですよ。呪いは必ず祓いますからどうか安心して待っていてください。移るといけませんからここにはしばらく近づかないでください」
「はい……よろしくお願いします……」
お母さんはまだここにいたそうだったが、夏実に促され渋々階段を降りていった。夏実が「ふう」と息を吐いてドアを閉め、今度は結衣が吠えた。
「もう! 夏実ちゃんから襲ってきたのにー!」
「でも、匂いの元は分かったわ。これよ」
「それは……!」
夏実に奪い取られた物はすぐに分かった。結衣が懐にしまっていた呪符だ。襲われても大丈夫なように肌身離さず持っていたのが仇となってしまった。
夏実は距離を縮めながら鋭く追究してくる。
「これは何?」
「それは葵が……」
言いかけて彼女の呪いのアイテムが知られている可能性に気付いて慌てて言い直した。
「うちの学校には郷土研究部というのがあって。この町の呪いの研究をしているの。そこで廃ビルの呪詛生物を退治しに行く事になって身を守る為に……」
「なるほど。それは確かに必要ね」
夏実はまだ疑い深そうにしていたが、結衣が困っているとそれ以上の追及は止めて呪符を返してくれた。
「勘違いしないで欲しいんだけど、私は呪いを調べに来たのであって、あなたを困らせに来たわけではないのよ」
「それはまあ……ありがたい話だと思っています……」
「それにしてはあなたの態度は迷惑そう。もしかしたらもう……この話はこの辺りにしておきましょう」
夏実は結衣から離れると窓際へ行ってカーテンを開けて結衣を手招きした。
結衣もそこへ行って窓の外を見ると、隠れながらこちらを窺っている黒い影が目に付いた。
「あれが見える?」
「呪詛生物だね」
実体化はしていないがあそこに潜んでいるのは呪詛生物だ。神楽が痕跡を消したから近づいてきたが、誘い込む罠かと警戒しているようだった。
「呪いがどうあれ、あなたが狙われてるのは確かなようね」
「私、狙われてるの!?」
それは出会った初日から神楽に言われた事ではあったが、改めて言われると身震いしてしまう。
今の結衣なら神楽がいなくても戦える相手ではあるが、夏実のいる前で力をひけらかすわけにはいかない。
あの怪しい影をどうしようかと考えていると、夏実が優しく微笑んできた。
「安心して。あれは私が退治してくるわ」
「え!? ちょ、ここ二階!」
夏実は構わず窓の桟を乗り越えると、武器を構えて呪詛生物へと跳びかかっていった。
「うん……はいっ!」
お母さんに抓られて慌てて丁寧語で言い直す結衣。
夏実の要望で結衣は一人だけで彼女を自分の部屋に案内する事になった。
お母さんは娘が失礼をしないかと心配しているようだったが、夏実は安心させるように振舞っていた。
結衣は階段をのぼりながら緊張していた。
(どうしよう……神楽は呪いの痕跡を消したと言っていたけど、もし何かを見抜かれたら……)
こんな事なら葵にいてもらえば良かった。考えてみれば初めて部屋に招く友達が夏実だなんて。他の人にもいてもらえば呪いの気配も薄まったかもしれないのに。
でも、もう後には引けないのだ。背後からは夏実の視線が突き刺さってくる。
結衣は息を呑んで自分の部屋のドアを開き、初めての他人を自分の部屋に招き入れた。
「何もない部屋だと思うんですけど……」
「敬語はもういいわ。同い年なのに疲れるでしょ?」
結衣が緊張しながら何も怪しい物は見せないように意識していると、いきなりそんな事を言われた物だから驚いてしまった。
「大人の付き合いがあるから私も普段は偉そうに振舞っているけど、今は子供しかいないんだしさ。気楽にやりましょ?」
「ええ? あ……うん、そうだね」
緊張して身構えていたが夏実も結衣と同い年ぐらいだ。年相応の子供っぽい所はあるのかもしれない。
結衣が少し肩の力を抜くと、夏実は面白そうにフフンと笑って後ろ手にドアをしっかりと閉め、部屋のベッドへと腰かけた。
「ここが呪われた子の暮らしている部屋ね。見たところ呪いの痕跡は無さそうね」
「それはか……そういうこと分かるの?」
慌てて神楽が痕跡を消したと言いそうになったのを飲み込む。神楽の名前はこの町では禁忌なのだ。郷土研究部での経験が役に立った。
「私は祠堂悠斗の子孫だからね。物心ついた頃から呪いに対する修行をやらされているの。私としては今の平和になった世の中で厳しい修行なんていらないと思うんだけどねー」
「それはまあ……そうかもしれないよね。あはは……」
何か思ったよりも友好的なお坊さんで安心した。そう思ったのも束の間、不意に夏実の視線が鋭くなって切り込んできた。
「あなた、さっき玄関で私の事を夏実ちゃんって呼んだわよね? 私の事知ってたの? どこで聞いてきたのかしら?」
「それは葵が……」
少し考えて、言っても問題ないはずだと言う事にした。
「私のクラスメイトの星宮葵が、呪いのアイテムは夏実ちゃんから譲ってもらったって言ったの」
「ああ、あなた葵ちゃんの友達だったのね。世の中って案外狭いのね」
「でも、あの不気味な指は呪いが無かったって。それって酷くない?」
「あなた、そういうこと分かるの?」
「え? いや、それは……」
結衣はささやかながら何か反撃したいと思ったのだが、逆効果になってしまったようだった。
だが、夏実はそれ以上踏み込んでは来ず、軽く息を吐いただけだった。
「完全に嘘というわけではないのよ。人の思いの集まるところに呪いは生まれるものだから。あの指ってそういう見た目をしてるでしょ?」
「それはまあ確かに。私も葵も本当に呪いの指じゃないかと信じちゃってたよ」
「それじゃあ、誰があれに呪いはないって見破ったのかしら?」
「え!? それは…………うちには郷土研究部というのがあって……」
しどろもどろになって言い訳を連ねていると、夏実に手招きされたので近づいていくと、いきなり腕を掴まれて押し倒されてしまった。
「キャッ!」
「あなた、匂うのよね」
夏実の顔が結衣の匂いを嗅ぐかのように近づけられてくる。結衣は逃れようともがくが、腕を掴まれる力は強く、がっしり抑え込まれていて振りほどけなかった。
「夏実ちゃん何を!」
「腕を見せてもらえる?」
「何で腕を!?」
「そこまでは知らないか。神楽麻倶奈に呪われた者は腕に呪印が出るのよ」
「ひええっ!」
夏実はベッドで馬乗りになって結衣の身体を押さえつけながら腕を捻り上げてそこをまじまじと見つめた。
結衣は震えていたが、何も見せないように口を噤んで堪える。やはり今日はただでは済まないのだ。
夏実はしばらくじろじろと念入りに見つめた後で腕を離してくれた。
「呪印は無いようね。匂うのはそこか」
「え? 何を……きゃあああああ!」
安心したのも束の間、夏実は次に結衣の服の中へと手を突っ込んできた。
「キャアアアア! くすぐったい! 夏実ちゃん、何するの!」
「じっとしてて!」
「じっと何て出来るわけない!」
結衣は渾身の力で夏実の体を跳ねのけると逆にベッドへと押し倒した。
「キャッ!」
「夏実様お茶をお持ちしました。結衣、失礼のないように上手くやって……る……!?」
そこへお母さんがやってきて驚愕の眼で二人を見つめた。お盆に乗せられたお茶が波を立てたが何とかこぼさずにテーブルに置くと、怪物のように恐ろしく吠えた。
「結衣! あなた何をやっているの!!」
「お母さん! 私は何も……」
「いいから離れなさい! 夏実様、すみません。うちの娘が……」
「いえ、いいんですよ。呪いは必ず祓いますからどうか安心して待っていてください。移るといけませんからここにはしばらく近づかないでください」
「はい……よろしくお願いします……」
お母さんはまだここにいたそうだったが、夏実に促され渋々階段を降りていった。夏実が「ふう」と息を吐いてドアを閉め、今度は結衣が吠えた。
「もう! 夏実ちゃんから襲ってきたのにー!」
「でも、匂いの元は分かったわ。これよ」
「それは……!」
夏実に奪い取られた物はすぐに分かった。結衣が懐にしまっていた呪符だ。襲われても大丈夫なように肌身離さず持っていたのが仇となってしまった。
夏実は距離を縮めながら鋭く追究してくる。
「これは何?」
「それは葵が……」
言いかけて彼女の呪いのアイテムが知られている可能性に気付いて慌てて言い直した。
「うちの学校には郷土研究部というのがあって。この町の呪いの研究をしているの。そこで廃ビルの呪詛生物を退治しに行く事になって身を守る為に……」
「なるほど。それは確かに必要ね」
夏実はまだ疑い深そうにしていたが、結衣が困っているとそれ以上の追及は止めて呪符を返してくれた。
「勘違いしないで欲しいんだけど、私は呪いを調べに来たのであって、あなたを困らせに来たわけではないのよ」
「それはまあ……ありがたい話だと思っています……」
「それにしてはあなたの態度は迷惑そう。もしかしたらもう……この話はこの辺りにしておきましょう」
夏実は結衣から離れると窓際へ行ってカーテンを開けて結衣を手招きした。
結衣もそこへ行って窓の外を見ると、隠れながらこちらを窺っている黒い影が目に付いた。
「あれが見える?」
「呪詛生物だね」
実体化はしていないがあそこに潜んでいるのは呪詛生物だ。神楽が痕跡を消したから近づいてきたが、誘い込む罠かと警戒しているようだった。
「呪いがどうあれ、あなたが狙われてるのは確かなようね」
「私、狙われてるの!?」
それは出会った初日から神楽に言われた事ではあったが、改めて言われると身震いしてしまう。
今の結衣なら神楽がいなくても戦える相手ではあるが、夏実のいる前で力をひけらかすわけにはいかない。
あの怪しい影をどうしようかと考えていると、夏実が優しく微笑んできた。
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