サイクリングストリート

けろよん

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第一章 自転車になったお兄ちゃん

第19話 神の道 ゴッドロード 1

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 麻希は結菜にこの時代にいる間は世話になると言った。その宣言通り結菜は彼女の世話をすることになった。
 麻希は再会したその日のうちに結菜のクラスに転校してきた。
 その理由を麻希はこの時代にいる間も学校で勉強はしないといけないからだと説明した。
 結菜と同じ年なのだからそれは当然のことだと思えた。
 教室でみんなの前に立ち、

「黒田麻希です。よろしくお願いします」

 彼女は普通の、むしろ控えめでおとなしい少女ぐらいの転校生の挨拶をしていたが、

「マッキーだー! 魔王がうちのクラスに来たー!」

 美久が一番に騒ぎ、

「あれが噂のマッキーか。田中さんと死闘を演じていたという」
「わたしや委員長も協力したから知っているわ。あれが魔王マッキーよ」
「へえ、彼女が魔王かあ」

 騒ぎがみんなに伝染していき、

「魔王の力で教室を破壊しないでくれよ、マッキー」

 さらに担任の先生にまで念を押されて困惑している様子だった。


 そのマッキーは今、結菜の家の食卓で結菜の家族と一緒に味噌汁をすすっていた。
 結菜の両親はネット上で麻希の先生と知り合いだったらしい。
 麻希は礼儀正しい性格だったし、両親に気に入られて楽しそうにお喋りをしていた。
 世間とは狭い物だと結菜は晩御飯を食べながら思った。


 次の日の朝、結菜が麻希と一緒に自転車に乗って家を出ると、少し走ったところで姫子と出会った。
 彼女も自転車に乗っていた。それで走ってここまで来たのだろう。
 それだけなら日常のことだったが、今日の姫子は気難しそうな顔をしていた。
 彼女は責めるような口調で結菜に言った。

「結菜さん、悠真さんはどこにいるんですか?」

 その言葉に結菜は言葉を失ってしまった。
 元より結菜と姫子の間のことに無関係の立場を貫いていた麻希は黙って見ていた。
 姫子は言葉を続けた。

「神様が教えてくれたんです。悠真さんは親しい者と一緒にいるって。それってわたしじゃないなら、結菜さんですよね? どうして黙っているんですか? 何か言ってください」

 その真剣な眼差しに結菜は視線をそらしてしまう。その態度を見て、麻希は動こうとした。二人の間を離れる形で。

「わたしには関係ない話ね。二人でごゆっくり」

 その逃げの動きを姫子の強い視線と迫力が止めた。

「関係ある!」

 麻希は驚いて動きを止めてしまった。姫子は怒りを納め、静かな声で話を続けた。

「麻希さんも聞いてください。結菜さんの話を。わたし、本当は前から気づいていたんです。結菜さんが悠真さんのことで何かを隠しているってことを。でも、確証が無かったから、間違ったことを聞いたらいけないと思ったから聞けなかった。聞けなかったから遅くなってしまった」
「……」

 結菜は黙ってしまう。姫子は話を続けた。

「でも、神様が助言してくださいました。もう隠さなくてもいいでしょう? 悠真さんはどこにいるんですか?」
「でも、お兄ちゃんが……」

 言うなと言ったのは悠真なのだ。結菜はその兄の言葉に縋ろうとした。
 だが、

「もう話せ、結菜。今の姫子さんにはどんな誤魔化しも効かない。姫子さんは一度決めたら頑固で引かないんだ。荒唐無稽な話でも信じてもらうしかない」

 兄本人にそう言われて、言葉を失ってしまう。
 みんなが結菜の言葉を待っていた。
 その沈黙に結菜は耐えられなくなって叫んだ。

「だって、話すなと言ったのはお兄ちゃんじゃない!」
「それを今話せと言っているんだ」
「悠真さんがいるんですか? どこに」

 結菜の叫びに姫子は辺りを見回すがどこにもいない。麻希の顔を見ても何も読めない。
 取り乱す姫子の様子に、結菜は我慢出来なくなって叫んだ。

「この自転車がお兄ちゃんなのよ!」

 もう隠すことは出来なかった。それがどんな結果を招くとしても結菜は言うしかなかった。
 結菜がやっと言った言葉に悠真を探していた姫子はぎこちなく振り向いた。

「何を言っているんですか、結菜さん。わたしを馬鹿にしているんですか! わたしは悠真さんを」
「わたしだって馬鹿だって思ってるよ!」

 姫子の言葉を最後まで聞かず、結菜はどなり返す。その叫びに姫子は言葉を飲み込んでしまう。結菜の叫びは止まらなかった。

「馬鹿だって思ってるから言えなかったんじゃない! それがそんなに悪いことなの!?」

 結菜の目から涙がこぼれる。姫子は恐る恐る麻希の方を見た。
 麻希はずっと黙っていたその口を開いた。

「彼女の話は本当よ。悠真は今その自転車になっているの。どうしてだか、わたしにも分からないけど」
「そんな、どうして……そんなことが……」

 姫子は震える瞳で結菜の自転車を見つめた。
 その疑問に答える声があった。

「わしが押してやったのじゃよ」
「神様!」

 青年の声とともに空中に結菜と姫子の知る神様が現れ、みんながその姿を見上げた。
 結菜と姫子は訊ねる。

「押してやったって、どういうことなんですか?」
「何か知っているんですか?」
「神様?」

 麻希はやっとその存在の正体を知ったかのように見つめた。
 見上げる三人の顔を神様は気分が良さそうに見下ろした。

「お前達は目の前で落ちそうになっている男がいたらどうする?」
「それは……助けるんじゃ」

 結菜は困惑しながら姫子を見た。姫子も同じ考えのようだった。
 神様は違っていた。

「わしはな、そこで背中を押したくなったのじゃよ」
「押したくなった?」
「空間に干渉する装置、ストリートフリーザーと言ったか。それにぶつかって空間に出来た歪みの前にいた人物がいたのでな。わしはこうちょいっと押してやりたくなったのだ。神の力でな。奴は落っこちていったよ」
「お兄ちゃんを自転車にしたのは神様なんですか?」

 結菜はやっと状況を飲み込んだ。麻希から兄がこうなった原因はストリートフリーザーと現代にある何らかの要素だと聞いていた。
 神はそれを自分の力だと言っているのだ。神は悪びれもせずに答えた。

「したいと思ったわけではない。たまたま空間の歪から出た先が自転車だったというだけのことだ」
「そんな……元に戻してください!」

 姫子の頼みを神は聞かなかった。彼はめんどくさそうに頭をかいた。

「そう言われてもなー。わしにその気はないしなー」
「そんな!」

 あまりの無慈悲な言葉に絶句する姫子を、神は真面目ぶった目で見つめた。

「わしとて最初から助ける気が無かったわけではないのだぞ。だが、お前達があまりにも頑張っていたからな。わしはもっと人のやる気を見たいと思ったのじゃ」
「これ以上何をさせるつもりなの?」
「大きなことを為すにはやる気がいるのじゃよ。何事もそうじゃ。町を救うのも、人を自転車から元に戻すのもじゃ。今まで必死になって走ってきたお前達にはそれが分かるはずじゃ。わしもまたやる気のない奇跡は起こせん」
「やる気を出してください!」
「そう言われてもなあ。奇跡って大変なんじゃぞお」
「神様! お願いがあります!」

 結菜はもう見ていられなくなった。神様は面白そうな目で結菜を見た。

「ほう? やっという気になったか。お前には後二つの願いを言う権利があったな。言ってみろ」
「お兄ちゃんを……元に戻してください!」
「断る!」

 即答に結菜はびっくりしてしまった。

「どうして! 願いを叶えてくれるって言ったじゃない!」
「お前なあ、わしがやる気のあった時に言ったのを断ったじゃろう。そんな奴の言うことをホイホイ聞くのもなあ。犬みたいでなあ」
「そんな……ことで……そんなこと言わないでください!」
「それにそれが本当にお前が心から願う願いなのか? 言ったじゃろう? やる気がない奇跡は起こせんと」
「それは……」
「結菜さん……?」

 言いよどむ結菜を姫子が横目で見つめる。
 重くなりかける空気を打ち払うように、神様は手を叩いて明るく宣言した。

「だが、わしは心の狭い神様ではない。お前達がわしとの勝負に勝てれば望みを叶える権利を与えてやろうではないか!」
「そういう……ことなら!」
「勝負します!」

 結菜と姫子の答えは決まっていた。
 麻希も黙ってうなずいた。
 人間達のやる気に神様は満足の笑みを浮かべた。

「では、決まりじゃな。お前達のやる気を今度はわしの前で見せてもらうぞ」

 神様が腕を天へと振り上げる。神の手から天に光が昇り、轟音とともに周囲が光に包まれた。
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