サイクリングストリート

けろよん

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第二章 新たな道へ

第31話 出かける人達

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 翼に言われた通り教室に戻って、姫子と苺は出かける準備をした。
 準備といっても下校時刻の今では帰る準備をすることぐらいだった。
 放課後でそれなりの時間が経ったこともあって、今の教室には姫子と苺以外に人は残っていなかった。
 筆記用具を確認しながら苺はニンマリとして幸せそうだった。

「翼様とお出かけなんて何を持っていこう」
「苺ちゃん、他の学校にちょっと行くだけなんだから」

 結菜に会いに行くと翼は言っていた。用事はそれだけなのだから、特別な準備は何も必要ないはずだった。
 姫子の話など今の苺はちっとも聞いちゃいなかった。鼻歌混じりのピクニック気分で鞄の中身を整理していた。
 そこに声を掛けられる。

「姫子さん、苺さん、準備は出来ましたか?」

 見ると、教室の入り口のところで学校指定の鞄を手に提げた翼が立っていた。苺は大慌てでパニックになった。

「は、はい! 今行きます!」

 夢うつつとしてのんびりとしすぎたのだ。苺は急いで準備する。
 姫子の方はもう準備が終わっていた。元より準備というほど改めて用意する物があるわけでも無かった。
 慌てる苺の様子を翼は微笑んで見つめていた。


 準備が出来て、生徒会室の鍵を職員室に返してきた叶恵とも合流して、姫子と苺がやってきたのは駐輪場だった。
 そこで翼は一台の自転車を取り出した。なんのへんてつもない、学生のみんなが使っている普通の自転車だった。
 姫子は不思議に思って訊ねた。

「自転車で行くんですか?」

 翼も不思議そうに訊ね返した。

「姫子さんは自転車通学ではありませんでしたか?」

 その翼の疑問に叶恵が副会長として答えた。

「姫子さんも苺さんも自転車で通学するとの届け出が学校には出ています」

 叶恵が言っているのは通い始めた頃に出した届け出のことだ。自宅からどのような手段で登校するかの届け出をみんなが出していた。
 姫子は自転車で通学すると書いて出していたが、姫子が気にしていたのはそのことではなかった。

「いや、翼さんなら車で登校するのかと思って」

 ため息をついたのは苺だった。

「姫ちゃん、うちは原付や車といったものでの登校は禁止」
「え……?」

 その短い言葉に姫子は目をパチクリさせてしまう。さらに叶恵まで言葉を重ねてきた。

「校則で決められているんですよ。学生にふさわしくない物で登校してはいけないと。特別に申請することは出来ますが、翼様は自ら学校の決まりを守っておられるのです」
「あ、そうですよね。すみません」

 姫子ももちろん知っていたが、翼のイメージ的にそう思ってしまっただけだったのだ。思い起こせば、翼が立派な黒い車で来て、運転手にドアを開かせて、赤いカーペットの上を歩いてくるところなんて見たことが無い。
 また肩身の狭い思いをしてしまった。
 翼は一般の学生に広く普及している普通の通学用自転車を手に苦笑しているようだった。

「まあ、姫子さんの言いたいことも分かるのですけどね。わたくしのイメージと立場ならもっときちんとするべきなのでしょうが」
「いえ、そんなことはないです。とても学生らしいです」
「そうですね。では、行きましょうか」
「はい」

 翼に促され、みんなも自転車を出す。
 みんなの先頭に立って、翼は実に慣れた様子で自転車をこぎ出していった。



 その頃、同じ町にありながらもお嬢様学校からは距離の離れた普通の学校で。
 麻希が教室に残っていたのは本をきりのいい所まで読んでから帰ろうと思ったからだったが、今では結菜と美久が何かをしでかさないかと気にしていたからだった。

「マッキー、生徒会の人が来てって」

 クラスメイトに呼ばれて、麻希はため息をついて読んでいた本を閉じた。

「あの子達、何かしたのね。迷惑な話だわ」

 教室を出るとそこで待っていた生徒会の人は麻希と同じ一年生の少年だった。麻希は見上げる。
 彼は調子に乗ったおどけたポーズで言った。

「お前が魔王だな!」
「そう呼んでいる人もいるわね」
「俺は生徒会書記の白鶴銀河だ!」
「はじめまして」
「姉貴にお前を呼んでこいと言われてここへ来た!」
「ご苦労様」
「俺の姉貴は恐いぞ!」
「大変ね」
「えーと、それから……」
「用があって呼んでいるんでしょう? 早く行くわよ」
「はい……」

 どこまでも冷静で取りつくしまの無い麻希に、銀河は肩を落としてうつむいた。

「さすが魔王だわ」
「マッキー、強い」

 歩いていく二人をクラスメイト達は感心した目で見送った。
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