サイクリングストリート

けろよん

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第二章 新たな道へ

第42話 あの人達が来た

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「さて、これからのことですけど」

 姫子の宣言による騒ぎもひとまず収まり、翼が言いかけた時だった。

「よう、盛り上がってるようじゃな。何だか祭りをしているようだったから見に来たぞ」
「結菜お姉ちゃん、こんにちは~」

 全く予想だにしなかった人達が現れた。
 いや、彼らは人ではなかった。
 そのワイルドさを感じさせる背の高い青年と小さくて可愛い金髪の少女は、神様と天使だった。
 結菜は思わず彼らの名を呼んでいた。

「神様、リリーノちゃん」
「神様ですって? ハハー」

 賢者の末裔としてその神々しさをもろに感じた翼は思わず頭を下げていた。

「翼様?」
「翼姉ちゃん?」

 翼はハッと我に返った。

「ち、ちがっ、今の違うんですのよ。この方は」

 翼は素早く立ち上がって考えを巡らせ、

「父の知り合いの方でとても偉い方なんですの!」
「おう、わしはとても偉いぞ」
「神様だから―」

 神様は威張るように胸を張り、リリーノは無邪気に喜んでいる。
 翼もさすがに神様をそのまま紹介することはしなかった。
 苺は訝し気に考える。

「神様ってDQNネ……」
「黙りなさい、苺さん」
「はい」

 言いかける苺の口を翼はぴしゃりと遮った。
 神様は気楽な調子で手を振った。

「そう畏まらなくていいぞ。わしらはちょっと見に来ただけじゃからな」
「神様、結菜お姉ちゃんと走らないの?」

 リリーノは神様に催促する。また前のように一緒に走りたいのだろう。
 神様はその頭を撫でて答えた。

「ああ、今回は人と人との勝負じゃからな。わしらが水を差すものではない。今回は観戦に回るとしよう」
「うん、観戦するー」
「じゃあ、わしらはそのへんで適当にブラブラしながら見てるからな。お前達の戦いを期待しているぞ」
「はい、神様」
「結菜お姉ちゃん、バイバーイ」
「バイバーイ」

 結菜と翼に見送られ、神様達はその場を去っていった。

「さて、これからです……けど?」

 翼が言いかけた時だった。遠くから何か騒ぎが聞こえてきた。
 校門の方だ。
 遠くで人の動く気配がする。
 ずーんずーん、と地響きが近づいてくる。

「今度は、なーんーでーすーのーー」

 翼が見上げながら間延びした声を上げたのも無理はなかった。
 現れた人物はとても大きかった。そして、

「ウオオオオオオオオオォォォッ!!」

 咆哮を上げるその姿はとても人間のようには見えなかった。
 一言で言えば巨大なゴリラだった。
 ゴリラが結菜達の学校の制服を着ていた。
 翼はその巨体を見上げて思わず口をあんぐりと開けて固まってしまった。

「あ、西島さんが来たみたいね。西島さん、こっちこっち」
「ちょ、渚さん?」

 あまりにも気楽に化け物を呼ぶ渚を、翼はぎこちなく振り返った。
 渚に呼ばれてゴリラが地響きを上げて歩いてくる。
 目の前で立ち止まり、ぎろっとした目で睨まれる。
 みんなが猛獣を見るような目で見つめる前で、渚は実に呑気に彼女を紹介した。

「みんなは初めて会うことになるのよね。彼女が西島五里呼(にしじま ごりこ)さんよ」
「ウオオオオオオオオオォォォッ!!」

 渚の紹介に、西島さんは実に迫力のある咆哮で応えた。

「ちょ、ちょっと、渚。これ卑怯、卑怯ですわよー!」

 翼がそう怒るのも無理はない。相手は人外だ。対戦相手となる姫子などすっかり目が点になっている。
 渚は冷静だ。

「ルールには則ってるわ。彼女はれっきとしたここの生徒だもの」

 確かに五里呼はここの生徒の制服を着ていた。かなり特注のようだったが。

「せ、生徒なら何でもいいというわけではありませんわーーーー!」

 翼の声はもうすっかり裏返っていた。両手をぶんぶんと振り回して渚に抗議する。

「翼様、落ち着いてください。わたしに考えがあります」
「考え?」

 そう名乗り出たのは叶恵だった。彼女はこんな状況でも冷静だった。
 さすがは大魔王だと美久は思った。
 叶恵は渚に向かって言う。

「渚さん、ルールでは使うのは普通の自転車でしたよね?」
「何が言いたいの?」

 叶恵の冷めた声にさすがの渚も警戒を抱いた。
 叶恵は右腕を振り上げ、それを勢いよく振り下ろして指を突きつけた。
 その指の示す先には、五里呼の運んできていた自転車があった。
 叶恵は声を張り上げて言った。

「その自転車、どう見ても普通じゃないじゃないですかあ!」
「ウホッ」

 言われて五里呼は自分の自転車を見た。
 みんなもその自転車を見た。
 確かに五里呼の自転車は特注品だった。彼女の体格に合わせて改造されたとても大きな物だった。
 叶恵はここぞとばかりに叫ぶように渚を責めたてた。

「これは明確なルール違反です! 即刻失格を要求します!」
「でも、西島さんはこれで登校しているのだから、ルールには……」

 この大会を管理するのは渚だ。当然ルールも渚が管理している。
 だが、下手なことを言おうものなら大会の前提からして覆りかねない。
 叶恵は五里呼を利用して渚の責任を追及しているのだった。
 大魔王はやはり恐ろしかった。美久はその強大さを感じずにはいられなかった。
 あの渚でさえも窮地に陥れられていた。

「ルールでは……」

 渚が言いかけた時だった。
 西島が動いた。近くの女子生徒と何かを交渉しているようだった。

「ウホッウホッ」
「わたしの自転車を使うの? 分かった。持ってくる」
「ウホッ」

 女子生徒が去って自分の自転車を持ってくる。
 その自転車は五里呼にとっては子供の三輪車のような窮屈な小ささだったが、乗れないことはないようだった。
 西島の顔は実に爽やかだった。
 渚もまた落ち着きを取り戻した。

「西島さんはあの子の普通の自転車を使うことになったわ。これでもう文句は無いわよね? 鷹の右腕さん」
「ええ、そうですね」

 渚と叶恵の間では何だか他人にはよく分からない感情が飛び交っているようだ。
 何だか緊張するその空気を、翼が手を叩いて霧散させた。

「では、時間も迫っていますし、そろそろ準備をしましょうか」
「準備?」

 結菜は翼に訊く。翼は鞄を持って答えた。

「体操服に着替えるんですのよ。まさか制服で走るわけではないでしょう?」

 翼は自分の制服のスカートを摘まんで見せた。
 今はお互いに制服を着ている。結菜は翼の言いたいことに気が付いた。

「あ、そうですよね。走るなら体操服に着替えないと」

 結菜はすっかり制服のままで走る気でいたのだが、確かに翼の言う通り体操服に着替えた方がいいのかもしれない。

「誰か、更衣室に案内していただけますか?」

 翼は近くにいる人達に訊く。答えたのは渚だった。

「じゃあ、銀河。お嬢様達を案内してやってね」
「え? なんで俺?」
「わたしには運営の仕事があるし、結菜さん達にはこれから試合があるのよ。暇なのはあんたしかいないでしょ」
「そりゃそうだけどさ」
「よろしくお願いしますわね、銀河」
「おう! 任せとけ!」

 翼にお願いされて、銀河は自分の胸を叩いて言った。

「じゃあ、わたし達も」

 結菜も翼達に続こうとするが、

「更衣室はお客さんが使うんだから、結菜さん達は教室で着替えてね」

 渚の無慈悲な笑顔と声に遮られてしまうのだった。
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