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第三章 勇者の挑戦
第49話 咲良の来訪
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恵まれた晴天の下で行われていた大会も幕を閉じ、集まっていた人々も徐々に解散していく。
会場の設備も片づけられ、夕暮れ時には町は元の生活を取り戻していった。
人々はそれぞれに元の暮らしに戻っていく。
翼を助け、結菜に声を掛けてから町を軽く見て回っていた佐々木明美(ささき あけみ)は、広がる町を一望出来る場所で自転車を止め、漕いでいた足を地に下ろした。
町の景色を眺めやる。
「どこにでもある平和な町。この町でやがて何かが起きる……?」
彼女がこの町に来たのはあるお告げを受けたからだった。それはこの町で起こる災厄を阻止せよと告げていた。
今のところそれが起こりそうな気配はない。再び自転車を漕ぎ出そうとした時、傍で車が止まり声を掛けられた。
「明美さん、伝説の勇者から見てこの町はどうでしたか?」
涼やかながらしっかりとした意思の強さを感じる声だ。
その知っている少女の声に、明美は漕ぎかけたペダルから足を下ろして振り返った。
この普通の町には不釣り合いな高級感のある黒いリムジンが止まっている。
そこの窓を開いて声を掛けてきたのはまだ中学生の幼さを感じさせる少女だった。
人形のような愛らしい外見をしているが、少女の冷めた視線はそのような愛情とはほど遠いものだ。
彼女の名前は三谷咲良(みつや さくら)。都会では名の知られた三谷財閥の総帥を務めている。
勇者としての素質を見込まれた明美は彼女からいろいろと援助を受けていた。
利益だけを追求し、自分の興味を引かないことは歯牙にすら掛けない咲良が何をしにこの地を訪れたのか。
明美は疑問に思った。
「咲良、まさかあなたがこの町に来ていたとは思わなかったわ」
「父の生前お世話になった方からお誘いがあったのです。娘が大会を開くから見にきて欲しいと。そう誘われては断るのも失礼でしょう。ですが……」
咲良はその冷めた視線を明美から町の方へと移す。そのつまらなそうな顔を見ただけで彼女がこの町をどう思っているかが伺えた。案の定の答えを口にした。
「時間の無駄でしたね。あれぐらい自転車を漕げる者などうちにはいくらでもいますから。必死になって、馬鹿みたいだったわ」
同じ自転車乗りをしている明美にとってもカチンと来る物言いだったが、咲良の考えを変えさせる物を明美も持っているわけではなかった。
この町の者達は外の世界のことを知らない未熟者達だ。だからこそ勇者が守らなければならない。
咲良はその冷めた視線を再び明美にやって言葉を続ける。
「こんな何の取り柄もない平凡な町でも守らないといけないなんて、勇者というのも大変なのですね。何か援助が必要なら申し出なさい。あなたの価値をこの町の田舎者達に教えてあげるのもいいでしょう。それぐらいの投資ならわたしも惜しみはしませんからね」
咲良はそう言い残し、窓を閉めて車を発進させた。
遠ざかる車を見送り、明美は反対の方向へと自転車を向けて漕ぎ出した。
「わたしは誰かに認められたいわけじゃない。ただ使命を果たす。それだけよ」
遠くの山に太陽が掛かり、やがて夜が訪れてくる。
町のどこにあるとも知れない大空洞に小さな炎の灯りが灯った。
最初は一つだったそれは次々と灯されていき、やがて多くの松明の炎が空間を赤く照らしだしていった。
その広間には多くの人影があった。全員が黒いローブに身を包み、異様な邪教の集まりのような雰囲気を醸し出している。
「よくぞ集まってくれた。我が同志達よ!」
正面に祭壇のように設えられた一際赤く高く燃える炎の前で、一人の黒いローブをまとった人物が集まった仲間達に向かって声を掛けた。
その顔には竜の仮面を付け、手には竜を象った杖を持っている。その人物はよく響き通る厳かな声音で言葉を続けた。
「今回新たに封印の地が特定出来たことは我らにとって大きな前進である。だが、封印は強固であり、我らの意思をあのお方に届かせることは未だ叶わない。大きな力が必要だ」
「マスター、どうされるおつもりですか?」
信徒達の一番前に立つ人物が話しかける。マスターと呼ばれた竜の仮面の魔導士は答えた。
「闘争の儀式を行う。勇者に力を付けてもらい、奴と戦うのだ。力と力のぶつかり合いはより大きな力へと昇華され、地の底に眠るあの方へと届くだろう」
「では、その役目は我らに」
今すぐにでも勇者に戦いを挑みにいこうとする信徒達を仮面の魔導士は呼び止めた。
「待て。大鷹翼が勇者に力を貸すことになっている。まずは奴の出方を見る」
「大鷹翼? 信用出来る人物なのですか?」
「翼は賢者の末裔だ。その実力は信頼してもいいだろう。運命の時はすぐそこにまで近づいている。我らの理想の世界のために」
「「「我らの理想の世界のために!」」」
信徒達が唱和し、その夜は更けていった。
会場の設備も片づけられ、夕暮れ時には町は元の生活を取り戻していった。
人々はそれぞれに元の暮らしに戻っていく。
翼を助け、結菜に声を掛けてから町を軽く見て回っていた佐々木明美(ささき あけみ)は、広がる町を一望出来る場所で自転車を止め、漕いでいた足を地に下ろした。
町の景色を眺めやる。
「どこにでもある平和な町。この町でやがて何かが起きる……?」
彼女がこの町に来たのはあるお告げを受けたからだった。それはこの町で起こる災厄を阻止せよと告げていた。
今のところそれが起こりそうな気配はない。再び自転車を漕ぎ出そうとした時、傍で車が止まり声を掛けられた。
「明美さん、伝説の勇者から見てこの町はどうでしたか?」
涼やかながらしっかりとした意思の強さを感じる声だ。
その知っている少女の声に、明美は漕ぎかけたペダルから足を下ろして振り返った。
この普通の町には不釣り合いな高級感のある黒いリムジンが止まっている。
そこの窓を開いて声を掛けてきたのはまだ中学生の幼さを感じさせる少女だった。
人形のような愛らしい外見をしているが、少女の冷めた視線はそのような愛情とはほど遠いものだ。
彼女の名前は三谷咲良(みつや さくら)。都会では名の知られた三谷財閥の総帥を務めている。
勇者としての素質を見込まれた明美は彼女からいろいろと援助を受けていた。
利益だけを追求し、自分の興味を引かないことは歯牙にすら掛けない咲良が何をしにこの地を訪れたのか。
明美は疑問に思った。
「咲良、まさかあなたがこの町に来ていたとは思わなかったわ」
「父の生前お世話になった方からお誘いがあったのです。娘が大会を開くから見にきて欲しいと。そう誘われては断るのも失礼でしょう。ですが……」
咲良はその冷めた視線を明美から町の方へと移す。そのつまらなそうな顔を見ただけで彼女がこの町をどう思っているかが伺えた。案の定の答えを口にした。
「時間の無駄でしたね。あれぐらい自転車を漕げる者などうちにはいくらでもいますから。必死になって、馬鹿みたいだったわ」
同じ自転車乗りをしている明美にとってもカチンと来る物言いだったが、咲良の考えを変えさせる物を明美も持っているわけではなかった。
この町の者達は外の世界のことを知らない未熟者達だ。だからこそ勇者が守らなければならない。
咲良はその冷めた視線を再び明美にやって言葉を続ける。
「こんな何の取り柄もない平凡な町でも守らないといけないなんて、勇者というのも大変なのですね。何か援助が必要なら申し出なさい。あなたの価値をこの町の田舎者達に教えてあげるのもいいでしょう。それぐらいの投資ならわたしも惜しみはしませんからね」
咲良はそう言い残し、窓を閉めて車を発進させた。
遠ざかる車を見送り、明美は反対の方向へと自転車を向けて漕ぎ出した。
「わたしは誰かに認められたいわけじゃない。ただ使命を果たす。それだけよ」
遠くの山に太陽が掛かり、やがて夜が訪れてくる。
町のどこにあるとも知れない大空洞に小さな炎の灯りが灯った。
最初は一つだったそれは次々と灯されていき、やがて多くの松明の炎が空間を赤く照らしだしていった。
その広間には多くの人影があった。全員が黒いローブに身を包み、異様な邪教の集まりのような雰囲気を醸し出している。
「よくぞ集まってくれた。我が同志達よ!」
正面に祭壇のように設えられた一際赤く高く燃える炎の前で、一人の黒いローブをまとった人物が集まった仲間達に向かって声を掛けた。
その顔には竜の仮面を付け、手には竜を象った杖を持っている。その人物はよく響き通る厳かな声音で言葉を続けた。
「今回新たに封印の地が特定出来たことは我らにとって大きな前進である。だが、封印は強固であり、我らの意思をあのお方に届かせることは未だ叶わない。大きな力が必要だ」
「マスター、どうされるおつもりですか?」
信徒達の一番前に立つ人物が話しかける。マスターと呼ばれた竜の仮面の魔導士は答えた。
「闘争の儀式を行う。勇者に力を付けてもらい、奴と戦うのだ。力と力のぶつかり合いはより大きな力へと昇華され、地の底に眠るあの方へと届くだろう」
「では、その役目は我らに」
今すぐにでも勇者に戦いを挑みにいこうとする信徒達を仮面の魔導士は呼び止めた。
「待て。大鷹翼が勇者に力を貸すことになっている。まずは奴の出方を見る」
「大鷹翼? 信用出来る人物なのですか?」
「翼は賢者の末裔だ。その実力は信頼してもいいだろう。運命の時はすぐそこにまで近づいている。我らの理想の世界のために」
「「「我らの理想の世界のために!」」」
信徒達が唱和し、その夜は更けていった。
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