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第2話
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学園の廊下を俺、エリオット・グレイは、いつものように誰とも話す事なく一人で歩いていた。
「アリアが学園にワンちゃんがいたと言っていたな。でも、学園に犬? なんているのだろうか」
気になっていたので歩いていた。捕まえて持っていけばアリアの喜ぶ顔が見れるかもしれない。目撃するだけでも話す話題ぐらいにはなるだろう。そんな男子学生らしい打算がなかったかと言えば噓にもなる。
しかし、その時、背後から軽やかな足音が近づいてきた。振り返ると、予想通りアリア・ヴァルディアが歩いてきていた。
「あら、エリオット。あなたでも廊下を歩くのね」
「おはよう、アリア」
「いつも教室の自分の席にいると思っていたから、ついに空気に融けて見えなくなったのかと思ったわ」
「ちょっと気になる事があってね」
「ふーん、そう」
彼女は、どこか冷たい印象を持ちながらも、どこか魅力的な雰囲気を持っている。それがまた、周囲の男子たちを惹きつけているのだろうが、俺は彼女に対して他の男子たちと同じような感情は抱いていなかった。むしろ、彼女の隠された態度に興味を持ち始めていた。
アリアは俺の前に立つと、いつもの見慣れた冷たい笑みを浮かべた。
「エリオット、ちょっと話したいことがあるの」
「え、話したいこと? それって悪い事?」
「当然でしょ? 私は悪役令嬢なんだから。人に言いふらしたりしないあなただから話すのよ」
「でも、いくら俺だからって悪い事は……」
「そうやって真面目に聞いてくれるところも気に入っているのよ」
俺はちょっと驚きながらも、無意識に足を止めた。普段は誰もが避けるアリアが、俺にだけ話してくれる事が気になった。
「ほら、こっち。今の時間なら誰も通らないはずよ」
アリアは俺を物陰へ連れてきてじっと見つめてから、周囲を確認するように軽く目をそらした。そして、しばらくの沈黙の後、彼女はポツリと言った。
「……実は、聖女を陥れようと思っているの」
俺はその言葉に思わず目を大きく見開いた。聖女って、学園内で皆が羨む存在、美少女であり王子との婚約者でもあるリーリス・オルティアのことだろうか?
「え、リーリスを? どうして……? あの子が何か悪い事をしたかい?」
俺が驚きの表情を浮かべると、アリアは冷静に答えた。
「いい子だから邪魔なんじゃない。私は王子との婚約を果たすために、彼女を排除するつもりよ。あの子は、王子の心を完全に握っているけど、私はその心を奪うつもりよ」
その言葉に、俺はしばらく言葉を失った。アリアがそんな計画を抱いているなんて、全く予想もしていなかった。それに胸の奥もチクリと傷んだ。
「君は…………王子の事が好きなのか?」
「まさか。私はこの国が欲しいだけ。この国が私の手中に入ったらあの王子は追放してあなたにこの国の半分をあげるわ」
「そんな魔王みたいな……」
だが、彼女は一切の躊躇なく、言葉を続けた。
「王子は、リーリスに心を奪われているけれど、実際には彼女に本当の意味で惹かれているわけじゃないの。リーリスはただ、王子の哀れみを受けているだけ。私は、それに気づいている」
アリアの冷徹な視線は、リーリスに対する強い憎しみと、目的に対する欲望を隠しきれないでいる。それが俺には少し怖かった。
「でも、どうやって……?」
「簡単よ。リーリスの周囲に疑惑を撒き散らして、彼女が王子にふさわしくない女性だと思わせる。聖女と呼ばれていてもしょせんはよそ者。私はその隙をついて、王子を完全に手に入れるつもり」
アリアの顔に、冷酷な微笑みが浮かんだ。その笑顔は、まさに「悪役令嬢」と言うにふさわしいものだった。
「そして、私と王子が婚約すれば、学園内での立場も完璧になる。リーリスなんて、ただの田舎者にすぎない。田舎者は田舎に帰ってもらって、私はこの学園で最も力を持つ存在になるわ」
その冷徹な計画を聞きながら、俺は心の中で色々な思いが交錯した。確かにアリアの話は理にかなっているように聞こえる。でも、どうして俺にこんな話をしているのだろうか? アリアが俺にだけ、こんなに深い話をしてくれる理由がわからない。
「なんで……こんな話、俺に?」
アリアは少しだけ表情を変えた。まるで少しだけためらっているかのような、そんな表情を見せる。
「だって、あなたはこうして聞いてくれるでしょう? その上で私から離れないでいてくれる」
俺はその言葉に驚き、アリアを見つめた。
「どういう意味?」
「それを話すにはまず銀河の歴史から説明する必要があるかもしれないわね」
「そんなに!?」
「ともかく、あなたは他の男子たちと違って私を恐れないし、媚びない。だから、信用できるの。あなたは私にとって、ただそれだけの少し特別な存在なのよ」
アリアの冷徹な瞳の奥に、ほんの一瞬、儚い光が宿った。それがどうしても気になったが、俺はその質問を口にできなかった。
「……どうする? もし手伝ってくれるのなら、私の感謝が得られるわよ」
アリアの目が少しだけ真剣になった。だが、俺は思わず首を振っていた。
「それは……悪いけどできないよ。君の悪だくみに協力はできない」
アリアは少しだけ困ったように眉をひそめた。
「どうして? 聖女の事が大切なのかしら」
「関係ない。俺は君の計画に賛成できないんだ。リーリスはただ王子に心を尽くしているだけだろう。君が彼女を陥れることで得られるものが、本当に君の幸せに繋がるとは思えない」
俺の言葉に、アリアはしばらく黙っていた。その表情には不満が浮かんでいたが、すぐにまた冷徹な表情に戻った。
「分かったわ。でも、覚えておきなさい。私は何があってもこの国を手に入れる。あなたがどう思おうと、それが私の目標だから」
俺はその言葉を心の中で深く受け止めながら、アリアに背を向けた。彼女の計画が本当に成功するのか、それともどこかで間違いを犯すのか。俺にはそれを見守ることしかできなかった。
そして、アリアが本当にこの国を手に入れることができたとき、彼女がどんな顔をするのか、俺には想像もつかなかった。
「アリアが学園にワンちゃんがいたと言っていたな。でも、学園に犬? なんているのだろうか」
気になっていたので歩いていた。捕まえて持っていけばアリアの喜ぶ顔が見れるかもしれない。目撃するだけでも話す話題ぐらいにはなるだろう。そんな男子学生らしい打算がなかったかと言えば噓にもなる。
しかし、その時、背後から軽やかな足音が近づいてきた。振り返ると、予想通りアリア・ヴァルディアが歩いてきていた。
「あら、エリオット。あなたでも廊下を歩くのね」
「おはよう、アリア」
「いつも教室の自分の席にいると思っていたから、ついに空気に融けて見えなくなったのかと思ったわ」
「ちょっと気になる事があってね」
「ふーん、そう」
彼女は、どこか冷たい印象を持ちながらも、どこか魅力的な雰囲気を持っている。それがまた、周囲の男子たちを惹きつけているのだろうが、俺は彼女に対して他の男子たちと同じような感情は抱いていなかった。むしろ、彼女の隠された態度に興味を持ち始めていた。
アリアは俺の前に立つと、いつもの見慣れた冷たい笑みを浮かべた。
「エリオット、ちょっと話したいことがあるの」
「え、話したいこと? それって悪い事?」
「当然でしょ? 私は悪役令嬢なんだから。人に言いふらしたりしないあなただから話すのよ」
「でも、いくら俺だからって悪い事は……」
「そうやって真面目に聞いてくれるところも気に入っているのよ」
俺はちょっと驚きながらも、無意識に足を止めた。普段は誰もが避けるアリアが、俺にだけ話してくれる事が気になった。
「ほら、こっち。今の時間なら誰も通らないはずよ」
アリアは俺を物陰へ連れてきてじっと見つめてから、周囲を確認するように軽く目をそらした。そして、しばらくの沈黙の後、彼女はポツリと言った。
「……実は、聖女を陥れようと思っているの」
俺はその言葉に思わず目を大きく見開いた。聖女って、学園内で皆が羨む存在、美少女であり王子との婚約者でもあるリーリス・オルティアのことだろうか?
「え、リーリスを? どうして……? あの子が何か悪い事をしたかい?」
俺が驚きの表情を浮かべると、アリアは冷静に答えた。
「いい子だから邪魔なんじゃない。私は王子との婚約を果たすために、彼女を排除するつもりよ。あの子は、王子の心を完全に握っているけど、私はその心を奪うつもりよ」
その言葉に、俺はしばらく言葉を失った。アリアがそんな計画を抱いているなんて、全く予想もしていなかった。それに胸の奥もチクリと傷んだ。
「君は…………王子の事が好きなのか?」
「まさか。私はこの国が欲しいだけ。この国が私の手中に入ったらあの王子は追放してあなたにこの国の半分をあげるわ」
「そんな魔王みたいな……」
だが、彼女は一切の躊躇なく、言葉を続けた。
「王子は、リーリスに心を奪われているけれど、実際には彼女に本当の意味で惹かれているわけじゃないの。リーリスはただ、王子の哀れみを受けているだけ。私は、それに気づいている」
アリアの冷徹な視線は、リーリスに対する強い憎しみと、目的に対する欲望を隠しきれないでいる。それが俺には少し怖かった。
「でも、どうやって……?」
「簡単よ。リーリスの周囲に疑惑を撒き散らして、彼女が王子にふさわしくない女性だと思わせる。聖女と呼ばれていてもしょせんはよそ者。私はその隙をついて、王子を完全に手に入れるつもり」
アリアの顔に、冷酷な微笑みが浮かんだ。その笑顔は、まさに「悪役令嬢」と言うにふさわしいものだった。
「そして、私と王子が婚約すれば、学園内での立場も完璧になる。リーリスなんて、ただの田舎者にすぎない。田舎者は田舎に帰ってもらって、私はこの学園で最も力を持つ存在になるわ」
その冷徹な計画を聞きながら、俺は心の中で色々な思いが交錯した。確かにアリアの話は理にかなっているように聞こえる。でも、どうして俺にこんな話をしているのだろうか? アリアが俺にだけ、こんなに深い話をしてくれる理由がわからない。
「なんで……こんな話、俺に?」
アリアは少しだけ表情を変えた。まるで少しだけためらっているかのような、そんな表情を見せる。
「だって、あなたはこうして聞いてくれるでしょう? その上で私から離れないでいてくれる」
俺はその言葉に驚き、アリアを見つめた。
「どういう意味?」
「それを話すにはまず銀河の歴史から説明する必要があるかもしれないわね」
「そんなに!?」
「ともかく、あなたは他の男子たちと違って私を恐れないし、媚びない。だから、信用できるの。あなたは私にとって、ただそれだけの少し特別な存在なのよ」
アリアの冷徹な瞳の奥に、ほんの一瞬、儚い光が宿った。それがどうしても気になったが、俺はその質問を口にできなかった。
「……どうする? もし手伝ってくれるのなら、私の感謝が得られるわよ」
アリアの目が少しだけ真剣になった。だが、俺は思わず首を振っていた。
「それは……悪いけどできないよ。君の悪だくみに協力はできない」
アリアは少しだけ困ったように眉をひそめた。
「どうして? 聖女の事が大切なのかしら」
「関係ない。俺は君の計画に賛成できないんだ。リーリスはただ王子に心を尽くしているだけだろう。君が彼女を陥れることで得られるものが、本当に君の幸せに繋がるとは思えない」
俺の言葉に、アリアはしばらく黙っていた。その表情には不満が浮かんでいたが、すぐにまた冷徹な表情に戻った。
「分かったわ。でも、覚えておきなさい。私は何があってもこの国を手に入れる。あなたがどう思おうと、それが私の目標だから」
俺はその言葉を心の中で深く受け止めながら、アリアに背を向けた。彼女の計画が本当に成功するのか、それともどこかで間違いを犯すのか。俺にはそれを見守ることしかできなかった。
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