空気の俺だけど学園の悪役令嬢と友達になった

けろよん

文字の大きさ
2 / 5

第2話

しおりを挟む
 学園の廊下を俺、エリオット・グレイは、いつものように誰とも話す事なく一人で歩いていた。

「アリアが学園にワンちゃんがいたと言っていたな。でも、学園に犬? なんているのだろうか」

 気になっていたので歩いていた。捕まえて持っていけばアリアの喜ぶ顔が見れるかもしれない。目撃するだけでも話す話題ぐらいにはなるだろう。そんな男子学生らしい打算がなかったかと言えば噓にもなる。
 しかし、その時、背後から軽やかな足音が近づいてきた。振り返ると、予想通りアリア・ヴァルディアが歩いてきていた。

「あら、エリオット。あなたでも廊下を歩くのね」
「おはよう、アリア」
「いつも教室の自分の席にいると思っていたから、ついに空気に融けて見えなくなったのかと思ったわ」
「ちょっと気になる事があってね」
「ふーん、そう」

 彼女は、どこか冷たい印象を持ちながらも、どこか魅力的な雰囲気を持っている。それがまた、周囲の男子たちを惹きつけているのだろうが、俺は彼女に対して他の男子たちと同じような感情は抱いていなかった。むしろ、彼女の隠された態度に興味を持ち始めていた。

 アリアは俺の前に立つと、いつもの見慣れた冷たい笑みを浮かべた。

「エリオット、ちょっと話したいことがあるの」
「え、話したいこと? それって悪い事?」
「当然でしょ? 私は悪役令嬢なんだから。人に言いふらしたりしないあなただから話すのよ」
「でも、いくら俺だからって悪い事は……」
「そうやって真面目に聞いてくれるところも気に入っているのよ」

 俺はちょっと驚きながらも、無意識に足を止めた。普段は誰もが避けるアリアが、俺にだけ話してくれる事が気になった。

「ほら、こっち。今の時間なら誰も通らないはずよ」

 アリアは俺を物陰へ連れてきてじっと見つめてから、周囲を確認するように軽く目をそらした。そして、しばらくの沈黙の後、彼女はポツリと言った。

「……実は、聖女を陥れようと思っているの」

 俺はその言葉に思わず目を大きく見開いた。聖女って、学園内で皆が羨む存在、美少女であり王子との婚約者でもあるリーリス・オルティアのことだろうか?

「え、リーリスを? どうして……? あの子が何か悪い事をしたかい?」

 俺が驚きの表情を浮かべると、アリアは冷静に答えた。

「いい子だから邪魔なんじゃない。私は王子との婚約を果たすために、彼女を排除するつもりよ。あの子は、王子の心を完全に握っているけど、私はその心を奪うつもりよ」

 その言葉に、俺はしばらく言葉を失った。アリアがそんな計画を抱いているなんて、全く予想もしていなかった。それに胸の奥もチクリと傷んだ。

「君は…………王子の事が好きなのか?」
「まさか。私はこの国が欲しいだけ。この国が私の手中に入ったらあの王子は追放してあなたにこの国の半分をあげるわ」
「そんな魔王みたいな……」

 だが、彼女は一切の躊躇なく、言葉を続けた。

「王子は、リーリスに心を奪われているけれど、実際には彼女に本当の意味で惹かれているわけじゃないの。リーリスはただ、王子の哀れみを受けているだけ。私は、それに気づいている」

 アリアの冷徹な視線は、リーリスに対する強い憎しみと、目的に対する欲望を隠しきれないでいる。それが俺には少し怖かった。

「でも、どうやって……?」

「簡単よ。リーリスの周囲に疑惑を撒き散らして、彼女が王子にふさわしくない女性だと思わせる。聖女と呼ばれていてもしょせんはよそ者。私はその隙をついて、王子を完全に手に入れるつもり」

 アリアの顔に、冷酷な微笑みが浮かんだ。その笑顔は、まさに「悪役令嬢」と言うにふさわしいものだった。

「そして、私と王子が婚約すれば、学園内での立場も完璧になる。リーリスなんて、ただの田舎者にすぎない。田舎者は田舎に帰ってもらって、私はこの学園で最も力を持つ存在になるわ」

 その冷徹な計画を聞きながら、俺は心の中で色々な思いが交錯した。確かにアリアの話は理にかなっているように聞こえる。でも、どうして俺にこんな話をしているのだろうか? アリアが俺にだけ、こんなに深い話をしてくれる理由がわからない。

「なんで……こんな話、俺に?」

 アリアは少しだけ表情を変えた。まるで少しだけためらっているかのような、そんな表情を見せる。

「だって、あなたはこうして聞いてくれるでしょう? その上で私から離れないでいてくれる」

 俺はその言葉に驚き、アリアを見つめた。

「どういう意味?」
「それを話すにはまず銀河の歴史から説明する必要があるかもしれないわね」
「そんなに!?」
「ともかく、あなたは他の男子たちと違って私を恐れないし、媚びない。だから、信用できるの。あなたは私にとって、ただそれだけの少し特別な存在なのよ」

 アリアの冷徹な瞳の奥に、ほんの一瞬、儚い光が宿った。それがどうしても気になったが、俺はその質問を口にできなかった。

「……どうする? もし手伝ってくれるのなら、私の感謝が得られるわよ」

 アリアの目が少しだけ真剣になった。だが、俺は思わず首を振っていた。

「それは……悪いけどできないよ。君の悪だくみに協力はできない」

 アリアは少しだけ困ったように眉をひそめた。

「どうして? 聖女の事が大切なのかしら」
「関係ない。俺は君の計画に賛成できないんだ。リーリスはただ王子に心を尽くしているだけだろう。君が彼女を陥れることで得られるものが、本当に君の幸せに繋がるとは思えない」

 俺の言葉に、アリアはしばらく黙っていた。その表情には不満が浮かんでいたが、すぐにまた冷徹な表情に戻った。

「分かったわ。でも、覚えておきなさい。私は何があってもこの国を手に入れる。あなたがどう思おうと、それが私の目標だから」

 俺はその言葉を心の中で深く受け止めながら、アリアに背を向けた。彼女の計画が本当に成功するのか、それともどこかで間違いを犯すのか。俺にはそれを見守ることしかできなかった。

 そして、アリアが本当にこの国を手に入れることができたとき、彼女がどんな顔をするのか、俺には想像もつかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

醜悪令息レオンの婚約

オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。 ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、 しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。 このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。 怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

転生悪役令嬢の母でございます

里見しおん
ファンタジー
転生悪役令嬢レミーリア・ヴェリーンを育てたお母様のお話です。 創作リハビリ中です!

転生者だからって無条件に幸せになれると思うな。巻き込まれるこっちは迷惑なんだ、他所でやれ!!

ファンタジー
「ソフィア・グラビーナ!」 卒業パーティの最中、突如響き渡る声に周りは騒めいた。 よくある断罪劇が始まる……筈が。 ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しております。

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

処理中です...