3 / 42
第一章 闇の目覚め
第3話 ハンターが来た
しおりを挟む学校が近づいた通学路では登校する生徒達の数が目に見えて増え、みんなそれぞれに挨拶や雑談を楽しんでいるのがひかりの耳に聞こえてきた。
ひかりは一人で登校していたので声を掛けることも掛けられることも無かった。
でも、寂しいと思ったことはない。
一人でいるのは気が楽だ。それに落ち着いて過ごすことが出来る。ひかりは静かな環境が好きだった。
黙って教室に入る。ここも騒がしくて困る。その話し声をひかりの声でさらにうるさくする必要も無かった。
チャイムが鳴って先生が来る。
その日の授業も退屈だった。こんな時は楽しい空想がはかどる。
今回はいつもとは趣向を変えてみた。
学校にテロリストが来るのだ。みんなはおとなしく言う事を聞くんだけど……ここまでは今までと同じ。
自分は今回はヴァンパイアとして奴らと戦うのだ。
ひかりは自分の手を見つめた。
戦うための力は確かにここにある。妄想ではなく現実の物として。昼は使えないけれど。
それは残念なことだが、まあ学校でまで目立つヒーローをやる必要はない。
妄想でみんなにチヤホヤされるのは楽しいが、リアルで人に構われるのはただ面倒なだけだ。
ひかりは気配を消すように意識して生活していた。
今日も退屈な日々だと思っていたら教室が騒がしくなった。
転校生が来たと生徒達の間で話が広まっていた。先生が教壇に立ち紹介する。
その転校生は涼し気な顔と優しい瞳が鋭さも感じさせるような細身の少年だった。
「加賀紫門です」
運動が出来そうで勉強も出来そう。しっかりとした声をしている。いかにもな優等生だ。
ひかりは自分とは関係ないなと思っていたのだが、続く言葉を聞いてびっくりしてしまった。
「僕の家はヴァンパイアハンターの家系でして、僕は奴を倒すためにこの町に来ました。100年の予言の日、ヴァンパイアの後継者が現れます。でも、安心してください。僕が倒しますから」
冗談を言っているようではない少年の真面目で真摯な発言に周囲が少し騒がしくなる。ひかりは目が合わないように教科書で顔を隠した。
冗談ではない。昼のひかりは無力なのだ。やっかいごとはご免だし、一方的にやられるのも好みではない。
「はい、質問」
クラスメイトから転校生にお約束の質問が飛ぶ。明るい女子からの声に、紫門はにこやかに答えた。
「はい、何ですか?」
「紫門君って変わった名前だけど、名前の由来は何? 歌舞伎役者なの?」
「これは歌舞伎役者では無くてですね……僕は知らないんですけど、父さんの世代で有名だったヒーローの名前らしいんだ」
ひかりも知らない名前だった。クラスメイトも知らないようだった。
「へえ、わたしも知らないけど、きっと好きだったんだろうね」
「俺からも質問良いか?」
次の質問は男子からだった。紫門は男子からの質問にも友好的に答えた。
「はい、何でしょう」
「ヴァンパイアって本当にいるのか? 昔は化け物がいたって噂もあるけど、いたとして勝てると思うか?」
「勝つために僕は訓練をしてきましたから。百年前のことですが、ヴァンパイアは本当にいたそうですね。この町のことなら地元に住んでいる皆さんの方が詳しいのでは?」
ひかりも知らなかったが、つい先日知ったことだった。
クラスメイトは知らないようだった。
「うーん、歴史では習わなかったからなあ。地元といえば俺のいとこは姫路市民なのにドラマになるまで黒田官兵衛を知らなかったと言ってたぜ」
「そういう物かもしれませんね。それだけ闇の者との関わりが少なかったということで良いことでもありますが」
「はいはい、質問はそれぐらいにして授業を始めますよ」
まだ続きそうだった質問を先生が打ち切った。
「では、加賀君の席は……」
「はい、夜森さんの隣の席が空いてます」
先生が探し、生徒が余計なことを言いやがった。
「では、そこに座ってもらえるかな」
「はい」
真面目ぶった顔で転校生が近づいてくる。優等生は苦手だ。ひかりは目をそらして気配を消そうとする。
功を奏したか紫門は目を合わせることもなく自分の席についた。気が付かれず話しかけられもしなくて、ほっと一安心と思いきや、
「夜森は学級委員だから分からないことがあったら何でも彼女に訊くようにな」
「はい」
先生がまた余計なことを言いやがった。彼の視線が向けられてくる。
優しいが興味は持っていない友達の視線だ。
「よろしく」
「こちらこそ……」
彼の真面目ぶった顔に何とか短く答えることが出来たひかりだった。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる