夜のヴァンパイア

けろよん

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第二章 真理亜と古の王サラマンディア

第38話 コロシアム

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 夜の喧騒が後方に流れ、静かになってきた。ひかりには見えていた。前方、町の中央に大きな祭壇のようにそびえ建つ白い玉座が。
 その手前、左右には敬礼する近衛兵のように骨トカゲの兵士達が武器を掲げて並んで立っていた。彼らはすぐに動いて襲ってきそうな気配はない。直立不動で沈黙している。
 なのでひかりは不用意に手を出すことはしなかった。今は余計な事に力を使っている暇はない。真理亜だってどこに捕まっているのか分からないのだから。
 王の御前でひかりは招かれた客人のように降り立った。ひかりの着地に合わせて紫門も鞭をほどいて飛び降りる。
 ひかりは降りた場所から壇上にいる王を見上げた。今更問うまでもないことだろうが、玉座に座っている彼に向かって問う。

「あなたがサラマンディア?」
「いかにも。我こそが王サラマンディア。そうと知りながら、貴様は礼儀を知らんようだな」
「礼儀?」
「王の前だ。頭を下げろと言っているのだ」

 闇の奥底から全てを震わせるような恐ろしい声が発せられる。それはまさしく逆らうことを許さない暴君の言葉だ。
 ただ一人の人間として来ていたのならひかりはおとなしく言うことを聞いたかもしれない。だが、今のひかりはそうでは無かった。
 みんなに支えられて、みんなの王としてここへ来たのだ。だから、サラマンディアに対して頭を下げることなく毅然と見返して言った。

「わたしは今の王としてあなたを討滅するためにここへ来たのよ」
「なるほど。かつてはお前のように我に対して大口を叩く輩もいた。だが、結末はみな同じことになった」
「あなたが殺した?」
「いいや、そこに何匹もいるだろう。ほらそこにも。みんな我の術によって従順な民となったのだ。お前達もこれからそうなる」
「サラマンディア!」

 怒りに燃えようするひかりの横に紫門が進み出る。ひかりは冷静になって彼に手番を譲った。
 紫門とて用があってここへ来たのだ。彼は問う。壇上にいる王に向かって真っすぐな視線を向けて。

「サラマンディア、真理亜をどこへやった?」
「それは我に捧げられた少女のことか?」
「そうだ」

 紫門が苦虫を噛み潰したような表情をする。ひかりにも分かる思いだ。サラマンディアは平然として答えた。弱者に対して何も隠すことは無いとばかりに。

「それならお前の前にいる。この玉座を築くための生贄となったのだ」
「貴様!」
「何を怒ることがある? 我の役に立つならばそれは喜ばしいことだ。過去には何人もが涙を流して喜んだものだ」
「許さない!」

 ひかりと紫門は同時に飛び出した。サラマンディアは玉座の肘掛けに肘を付いたまま呆れた吐息を漏らした。

「分からん奴らだな」

 突然に玉座のふもとから出現した刃。ひかりと紫門はすぐに後方に回避した。
 二人の前に不気味な背の高いモンスターが姿を現していた。
 腕が四本、足も四本あり、頭には複数の目がある骨の化け物だ。明らかに今までの骨トカゲ兵とは異質な存在だった。
 サラマンディアは玉座の上からせせら笑う。

「貴様らごときが王の手をわずらわせられると思うのか? お前達はこれより余興を演じるのだ。我の作り上げた最高傑作とな。さあ、歓声を上げよ! 楽しませるのだ!」

 サラマンディアが杖を振り上げて宣言するとともに、周囲に控えていた骨トカゲの兵士達が一斉に歓声を上げ始めた。
 みな操られている。王の言うことを聞くしかない哀れな木偶人形だとひかりと紫門は気が付いた。
 ひかりは怒りに奥歯を噛みしめる。それは紫門も同じだった。彼らとてかつては国に生きる民だったのだ。今ではサラマンディアに変えられた傀儡でしかない。
 戦いに盛り上がる会場。そこに悠々とフェニックスが現れた。

「いよいよ始まるのですね。闇の最後の戦いが」
「フェニックス!」
「真理亜をさらったのはお前か!」

 ひかりと紫門の強い敵意のこもった視線をフェニックスはそよ風のように軽く受け流す。そして、彼は涼やかに告げた。

「そうです。もはや正体を隠すこともありませんね。時は来たのですから。星々の神々にも存分にご覧になってもらいましょう! これより始まる闇の者達の饗宴を!」

 フェニックスは宣言するように両手を振り上げ、夜空に向かって叫んだ。そして、自らの顔を隠していたフードを取り払った。その下から現れた顔を見てひかりは驚いた。知っている顔だったからだ。

「そんな、不二さん……?」
「あ……? ひかりさん……?」

 その反応を見て不二もヴァンパイアの正体に気付いたようだ。青年の顔が初めて意外な事実を知ったかのようにポカンとしていた。
 紫門が焦りを滲ませ、サラマンディアだけが邪悪な黒い笑みを浮かべていた。

「もう良いか? 始めるぞ」

 古の王が指をパチリと鳴らす。歓声の中、最強の戦士が襲い掛かってきた。



 サラマンディアの作り出した戦士ボーンマンティス。それは四本の腕と四本の足を持ち、頭には複数の目がある骨の化け物だ。ただの骨トカゲではない。実験によって作り出された悲しい生き物だった。
 四本の腕が連続して繰り出してくる剣の攻撃をひかりと紫門はそれぞれに受け止め、かわしていく。少しの攻撃を与えても相手は怯みもしなかった。
 周囲から上がる歓声。王が観覧している。ここはまるでコロシアムだ。誰も味方してくれる者のいないアウェーな空間でひかりの気分は萎えようとする。
 だが、奮い立たせる。それにここにはたった一人、味方もいる。

「ひかり、大丈夫か?」
「誰に向かって訊いている!」
「それもそうだな。早くこいつを倒して真理亜を助けるぞ!」
「うん!」

 自らを鼓舞し、伴に敵に立ち向かっていく。今は遠くで仲間達も戦っている。だから、頑張れる。ひかりは勇気を抱いて戦いに挑み、向かっていく。



 二人の戦う姿を見て、フェニックスの気持ちは揺れていた。

「なぜあの子がこんな戦いを……」

 彼は町で出会った少女の事を思い出していた。素直に話の出来る少女だった。
 何かがおかしかった。あの真理亜という少女を生贄に捧げた時もそうだった。この星にいるのは滅ぼすべき邪悪のはずなのに、なぜか後ろめたさを感じる自分がいる。星々の神々の使命を果たすべき時なのに。
 不二が戸惑っていると、玉座に座っていたサラマンディアが声を掛けてきた。伴に余興を鑑賞している者に話すように。

「苦戦しているようだな」
「は……はい、そのようですね」
「盛り上げてやるか。お前も楽しんでおけよ」
「は……はい!」

 サラマンディアが指を鳴らす。周囲で歓声を上げていた骨トカゲ兵の中から数人が歩み出てきて、ひかりと紫門を包囲するように取り囲んだ。
 ひかりは剣を最初のデカ物に向けて問いただす。

「こいつとの勝負じゃなかったっけ」

 サラマンディアはただ玉座から笑うだけだ。

「誰がそんなことを言った? これは余興だ。お前達はただここにいる皆を楽しませればよい。この余興の後に我は全ての支配に乗り出すとしよう」

 さらに数人の骨トカゲ兵を交え、戦いは続いていった。
 サラマンディアのお膝元だけあって、敵はさらにその強さを増していた。



 戦いの喧騒は玉座の下で礎となった真理亜にも聞こえていた。

「お兄ちゃん……ヴァンパイア!」

 兄が来ているのはどうでも良かった。彼が戦っているのならば何の心配もないだろう。相手が並の敵だったなら。
 それよりもヴァンパイアだ。あのヴァンパイアがすぐ近くに来ている。そうと感じ取った真理亜の目がゆっくりと開いた。
 彼女は周囲の状況を確認する。今自分がいる周囲には骨が密集して詰まっていて身動きが取れない。その上、自身の体も貼り付けにされている。
 動けない体を、それでも真理亜は必死に動かそうともがいた。ヴァンパイアはまたすぐに去ってしまうかもしれない。ここでゆっくりしている時間は無かった。
 少し動かせた手の平の先に空間の穴を作り出し、そこに近くの骨を流し込む。余計な物を入れる容量は無い。少しだ。少しだけでも余裕が出来る。
 小さな隙間が空いて流れて落ちてきた骨を真理亜は口でくわえて叩き割り、尖った部分で自分の腕を縛る戒めを切り裂いた。
 片手が自由になった。すぐにもう片方の手、腰回りや両足の戒めも断ち切った。
 体を自由に解放した真理亜はもう止まらなかった。立ちはだかる自分を閉じ込める骨の壁。そこに全力の力を叩きつけた。衝撃が走り、骨の壁が撃ち抜かれていく。



 その衝撃は誰にとっても予想外だった。今まで取り乱すことのなかったサラマンディアでさえ、玉座の下が揺れ動いたことに動揺を見せた。

「何だ!? 何が起きた!?」

 座っている下方。築かれた祭壇の前方が衝撃で吹き飛んだ。合わせて玉座が崩れていく。
 サラマンディアが動揺を見せたことで、ひかりと紫門が戦っていた敵にも隙が出来た。その隙を二人は見逃さなかった。

「「今だ!!」」

 剣と鞭を唸らせて左右から敵を急襲する。さらに何者かの攻撃が背後から突き刺さってボーンマンティスは爆散した。
 圧制を誇っていたサラマンディアの姿は崩れた玉座の中に埋もれて消えた。戦いはまだ終わらない。
 次の挑戦者は崩れた物が巻き上げた煙の中からすぐに現れた。

「見つけた! ヴァンパイアーーーー!!」

 鋭く武器を構えて飛びかかってきたのは……

「真理亜!」

 ひかりは少女の殺意の籠った攻撃を何とか紙一重で回避した。
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