パーティーから追放されたあたしは朝顔を育てるスローライフをすることになった

けろよん

文字の大きさ
4 / 4

第4話

しおりを挟む
 朝顔は順調に育っていった。
 あたしは小花ちゃんと一緒に朝顔の観察日記を付けて、見せあいっこするのを楽しむようになっていた。
 植え替えた鉢に支柱を立て、朝顔のツルが徐々に昇っていくのを眺めるのは楽しかった。
 楽しいスローライフを送っていた。
 そんなある日、浮かない顔をしてやってきた男子達がいた。一緒にパーティーを組んでいた修哉と孝二だ。

「陽斗を知らないか?」
「姿が見えないんだ」

 そう言えば今日の授業の途中から姿が見えなくなっていた。
 何か用事が出来たのかと思っていたが、そうでは無いらしい。
 なら、真面目な勇者気質で冒険者を目指しているあいつが授業をさぼってまで行く場所といったらどこだろう。

「ダンジョンに行ったんじゃないの?」
「一人でか?」
「ありえないだろ」

 自分で言っといてなんだが確かにありえないことだった。あたし達は小学校の頃から陽斗とパーティーを組んでいたのでよく分かっている。
 陽斗は誰よりもパーティーを大事にする奴だ。誰かが集合に遅れた時も律儀に待ってから出発するような奴だった。
 そんな陽斗が仲間に何の連絡もせずに、独断専行なんてするはずがない。
 だが、他に何の手掛かりも無かったので。

「とにかく行ってみよう」

 あたしの鶴の一声で、向かうことになったのだった。



 裏山の藪を抜けて、崖下にこっそりと口を開けるダンジョンの入り口へ向かう。
 あたし達にとっては馴染みの場所だが、始めて来た小花ちゃんはきょとんと目を丸くしていた。

「こんなところに愛華ちゃんは毎日来ていたんですね」
「小花ちゃんは無理してついてこないでいいからね。ここから先は戦場だから」

 あたしだけでなく、修哉と孝二も同じ考えだった。戦う気が無いなら帰れと目で言っていた。
 だが、小花ちゃんは頑として退かずに答えた。

「ううん、わたしも愛華ちゃんのしてきたこと、見ておきたいから」
「してきたことか……」

 あたしは何をしてきたんだろう。考えてしまう。
 ずっと戦う陽斗達の応援をしてきた。それがいけなかったのだろうか。だから、追放されたのだろうか。
 考えに浸る時間は無い。友達を探さなければならない。修哉や孝二に置いていかれないように中へ踏み込む。小花ちゃんもついてきた。
 ダンジョンは慣れた戦場のようにあたしを迎えてくれた。故郷に帰ってきた。いるべき場所に戻ってきた。そんな気がした。
 そして、そこで戦っている人がいた。ずっと見てきた人だ。あたしは応援した。小学校の頃からずっとそうしていたように。

「陽斗! スライムが来てるよ! 戦って!」
「分かってるよ!」

 陽斗は一瞬驚いた顔をして振り返ったが、すぐに敵に意識を戻して剣を構えた。修哉と孝二の行動も早かった。

「修哉君! コウモリが!」
「もう見えていますよ!」

 あたしが言い終わるよりも早く、修哉は素早く呪文を放った。風でコウモリの隊列が乱れていく。
 隣で小花ちゃんが小さく息を上げるのが聞こえた。

「愛華ちゃん! 大きいダンゴムシが!」
「まだいたの!?」

 あたしは小花ちゃんを連れてその場を少し移動した。ダンゴムシは追っては来なかった。
 小花ちゃんに被害が無くてほっと一安心するあたし。

「大きいダンゴムシだね……」
「そうだね」

 小さく囁くあたし達に、孝二が拳を握って言ってくる。

「愛華! 俺には? 俺には何か掛ける言葉は無いか!?」
「え? えーと……」

 あたしは走ってるネズミやみんなを見ながら考えた。

「みんな、頑張れ!」
『おう!』

 あたしの応援にみんなは気持ちよく答え、戦いはいつものように順調に終わっていった。


  
 戦いが終わって外に出る。陽斗は浮かない顔をしていた。それは修哉や孝二も同じだった。
 陽斗は考え、息を吐き、やがて言いにくそうに事情を話した。

「一人で考えたかったんだ」
「ダンジョンで?」
「ああ」

 陽斗は話していく。自分の考えていたことを。

「お前を追放して、もう何も気にすることなく戦いに没頭できるはずだった。だが、その日からなぜだろうな。戦いに身が入らなくなってしまったんだ。何のために戦っているんだろう俺は。そんなことばかり考えるようになってしまったんだ」
「陽斗……」

 あたしには陽斗の正確な気持ちなんて分からない。でも、追放を言い渡してきた彼の方も悩んでいたんだ。それぐらいのことは理解できた。
 ずっと一緒にいた友達なんだもの。追放された今でもやっぱりあたし達は友達だった。
 陽斗は顔を上げて言った。

「でも、今日お前に応援されて分かったよ。俺達にはお前の応援が必要なんだ。俺達のパーティーに戻ってきて欲しい」
「俺達からも頼む」

 修哉と孝二も気持ちは同じようだった。同じ真剣な眼差しをしていた。
 あたしも出来れば力になりたかった。だが、迷ってしまった。

「でも、今のあたしには小花ちゃんとのスローライフが……」

 あたしはどちらの友達を選べばいいのだろう。迷うあたし達の輪の外から発せられた声があった。

「じゃあ、わたしが応援してもいいですか!?」
「え!?」
「えええ!?」

 そんなあたし達の不安を吹き飛ばすように発言したのは小花ちゃんだった。
 みんながびっくりして、おとなしいはずの小花ちゃんを見た。
 小花ちゃんは両手をぎゅっと握って強く進言した。

「戦ってるみんなを見てわたしも応援したいと思ったんです。駄目ですか?」
「駄目じゃないけどさ」
「スローライフはどうするの?」
「どっちもやりましょう!」
「えええええ!?」

 そんな部活を掛け持ちするような感じで言われても。
 小花ちゃんの瞳は本気だった。その思い切った発言にみんなは押されながら頷いた。

「じゃあ、俺もスローライフをやってみようかな」
「陽斗もやるの!?」
「愛華の好きなことなんだろ? だったら俺にも教えてくれよ」
「俺達にもな」
「分かった。そこまで言うなら先輩が教えてあげましょう!」

 あたしの発言にみんなは笑った。
 その幸せの景色を見て、あたしの胸に心からの嬉しい思いがこみ上げてきた。
 あたしはきっと陽斗のこともみんなのことも好きなのだ。小花ちゃんも喜んでいる。だったら多少大変でもやれる全部のことを引き受けよう。そう思えた。
 こうしてあたし達は冒険者とスローライフの二束のわらじを履くことになったのだった。



 あたしは朝顔を育てている。
 陽斗達にも偉そうに教えてやった。

 あたしは戦っている陽斗達を応援している。
 小花ちゃんと一緒に。

 それが今のあたし達の生活だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした

希羽
ファンタジー
人気ダンジョン配信チャンネル『勇者ライヴ』の裏方として、荷物持ち兼カメラマンをしていた俺。ある日、リーダーの勇者(IQ低め)からクビを宣告される。「お前の使う『重力魔法』は地味で絵面が悪い。これからは派手な爆裂魔法を使う美少女を入れるから出て行け」と。俺は素直に従い、代わりに田舎の不人気ダンジョンへ引っ込んだ。しかし彼らは知らなかった。彼らが「俺TUEEE」できていたのは、俺が重力魔法でモンスターの動きを止め、カメラのアングルでそれを隠していたからだということを。俺がいなくなった『勇者ライヴ』は、モンスターにボコボコにされる無様な姿を全世界に配信し、大炎上&ランキング転落。  一方、俺が田舎で「畑仕事(に見せかけたダンジョン開拓)」を定点カメラで垂れ流し始めたところ――  「え、この人、素手でドラゴン撫でてない?」「重力操作で災害級モンスターを手玉に取ってるw」「このおっさん、実は世界最強じゃね?」とバズりまくり、俺は無自覚なまま世界一の配信者へと成り上がっていく。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...