13 / 38
第13話 放課後の教室で
しおりを挟む
朝一番にリンダと初めて喋ったという衝撃の出来事はあったものの、今日の授業も何事もなく平穏無事に終わった。
世界は平和だ。これから帰る生徒もいれば部活に行く生徒もいる。解放感に包まれる放課後の教室でミリエルは席に座ったまま背伸びをした。
耳に生徒達の雑談の声が届く中、内からの声が話しかけてくる。
『お前はこれからどうするのだ? またどこかの部活とやらに顔は出さんのか?』
「わたしは部活はやってないからね。帰って勉強するだけよ」
『お前なあ。何か面白いことをやるつもりは無いのか? みんな楽しそうにしているぞ』
「別に誰かを楽しませるために学校に来ているわけじゃないから」
確かにクラスを見回せばみんな和気あいあいと楽しそうにしているが、だからと言ってあそこに交じりたいと思うわけでもない。
みんなと一緒に楽しみたいなら自分なんかに構ってないで誰か他の人のところに行けばいいのに。そう不満に思ってしまう。
それに自分だってやりたくなくて部活をやってないわけじゃない。ただ馴染めないだけだ。この学校の空気に。
ネネやシズカは良い人だけど、やっぱり自分が行くと部活に場違いな空気を与えてしまうと思う。
ミリエルは疲れたため息を吐いてから鞄を持って歩こうとして、その前に声を掛けられた。
「ミリエルさん、ちょっといいかしら」
知らない声じゃない。今日初めて言葉を交わした少女の声だ。また再び声を掛けてくるとは思ってなかったけど。
振り向いた先にいたのは案の定リンダだった。明るい顔をして偉そうに胸を張って立っている。
「お帰りになる前にもう一度念を押しておきますが、分かっていますわね?」
「うん、今度アルトさんに会ったら伝えておくよ。いつ帰ってくるか分からないけど」
「それはこちらでも調べておきますわ」
調べられるんだ。なら口利きも自分ですればいいのにと思うが、断るのも面倒だ。話せば彼女は満足するのだろう。
了承してうなずくとリンダはパッと明るい笑顔になった。
「任せましたわよ、ミリエルさん」
気前よく肩を叩いて自分の部活へと向かって去っていく彼女を見送る。
教室を出て廊下で会わないように数秒待ってから再び歩こうとすると今度はネネがやってきた。
「ミリエルちゃん、リンダちゃんと何話してたの? そんなに仲良くなかったよね?」
「えっと……」
「もしかしていじめられてたとか? だったら先生に話すけど」
「それは……」
別にいじめられてたわけでもないのに変な誤解で先生に怒られたらリンダがかわいそうだ。仕返しされたくもない。
特に隠すことでもない。ネネに話すことにした。
「アルトさんを紹介してくれって頼まれたの」
「アルトさんって…………」
ネネは知らないようだ。考えたまま動きが止まってしまった。分かるまで友達に考えさせることもない。そのこともネネに話すことにした。
「父さんの弟子で今勇者をやっている人」
「あ、そんな人がいたんだね」
「いたんだねって……」
やっぱり父に比べたらマイナーなのだろうか。ネネは恐縮した。
「ごめん、気づかなくて」
「いや、いいけど」
「ミリエルちゃんのお父さんの関係者ならリンダちゃんが頼みに来るのも仕方ないかな。リンダちゃんのお父さんって新参者には良い顔をしてないみたいだから、そっちにはパイプが無いんだよ」
「新参者かあ……」
やはり自分達はそう見られているのだろうか。考えてしまうミリエルだった。
ネネは何も気にせず優しい声を掛けてくれる。
「ミリエルちゃんはそのアルトさんのことをどう思っているの?」
「どう思ってるって……」
ネネの疑問に考えを巡らしてみる。だが、ミリエルが答えを出すまでもなくネネは勝手に何か納得したようだった。
「その反応で察したよ。また明日ね、ミリエルちゃん」
「うん、また明日」
嬉しそうに弾む笑顔で教室を出ていくネネを見送る。見えなくなってから中の声が話しかけてきた。
『お前って言葉に出すまでもなく態度に出るよな』
「え? わたし何か出てた?」
『ああ、お前の態度はアルトさんには興味がありませんって言ってたぞ。だから、ネネも嬉しそうな笑顔になっていただろう』
「別に興味がないわけじゃないし、ネネちゃんが笑顔なのはいつものことだけど」
『気づかないならそれもいいかもな。お前は面白い奴だ。クラスの連中にも見てて楽しい奴だと思われてるのだろうな』
「うわ、嬉しくない褒め言葉」
ミリエルは自分が注目されるようなことは無いと思っていたのだが。
何か変な態度が出ているなら気を付けないといけないと思うのだった。
教室を出て放課後の廊下を歩いていく。
昇降口で上履きから靴に履き替え、足早に学校を出て行った。
今日は魔法部に寄り道していなかったので明るいいつもの時間帯だった。
でも、家に着く前にちょっと試そうと思っていたことがあった。
世界は平和だ。これから帰る生徒もいれば部活に行く生徒もいる。解放感に包まれる放課後の教室でミリエルは席に座ったまま背伸びをした。
耳に生徒達の雑談の声が届く中、内からの声が話しかけてくる。
『お前はこれからどうするのだ? またどこかの部活とやらに顔は出さんのか?』
「わたしは部活はやってないからね。帰って勉強するだけよ」
『お前なあ。何か面白いことをやるつもりは無いのか? みんな楽しそうにしているぞ』
「別に誰かを楽しませるために学校に来ているわけじゃないから」
確かにクラスを見回せばみんな和気あいあいと楽しそうにしているが、だからと言ってあそこに交じりたいと思うわけでもない。
みんなと一緒に楽しみたいなら自分なんかに構ってないで誰か他の人のところに行けばいいのに。そう不満に思ってしまう。
それに自分だってやりたくなくて部活をやってないわけじゃない。ただ馴染めないだけだ。この学校の空気に。
ネネやシズカは良い人だけど、やっぱり自分が行くと部活に場違いな空気を与えてしまうと思う。
ミリエルは疲れたため息を吐いてから鞄を持って歩こうとして、その前に声を掛けられた。
「ミリエルさん、ちょっといいかしら」
知らない声じゃない。今日初めて言葉を交わした少女の声だ。また再び声を掛けてくるとは思ってなかったけど。
振り向いた先にいたのは案の定リンダだった。明るい顔をして偉そうに胸を張って立っている。
「お帰りになる前にもう一度念を押しておきますが、分かっていますわね?」
「うん、今度アルトさんに会ったら伝えておくよ。いつ帰ってくるか分からないけど」
「それはこちらでも調べておきますわ」
調べられるんだ。なら口利きも自分ですればいいのにと思うが、断るのも面倒だ。話せば彼女は満足するのだろう。
了承してうなずくとリンダはパッと明るい笑顔になった。
「任せましたわよ、ミリエルさん」
気前よく肩を叩いて自分の部活へと向かって去っていく彼女を見送る。
教室を出て廊下で会わないように数秒待ってから再び歩こうとすると今度はネネがやってきた。
「ミリエルちゃん、リンダちゃんと何話してたの? そんなに仲良くなかったよね?」
「えっと……」
「もしかしていじめられてたとか? だったら先生に話すけど」
「それは……」
別にいじめられてたわけでもないのに変な誤解で先生に怒られたらリンダがかわいそうだ。仕返しされたくもない。
特に隠すことでもない。ネネに話すことにした。
「アルトさんを紹介してくれって頼まれたの」
「アルトさんって…………」
ネネは知らないようだ。考えたまま動きが止まってしまった。分かるまで友達に考えさせることもない。そのこともネネに話すことにした。
「父さんの弟子で今勇者をやっている人」
「あ、そんな人がいたんだね」
「いたんだねって……」
やっぱり父に比べたらマイナーなのだろうか。ネネは恐縮した。
「ごめん、気づかなくて」
「いや、いいけど」
「ミリエルちゃんのお父さんの関係者ならリンダちゃんが頼みに来るのも仕方ないかな。リンダちゃんのお父さんって新参者には良い顔をしてないみたいだから、そっちにはパイプが無いんだよ」
「新参者かあ……」
やはり自分達はそう見られているのだろうか。考えてしまうミリエルだった。
ネネは何も気にせず優しい声を掛けてくれる。
「ミリエルちゃんはそのアルトさんのことをどう思っているの?」
「どう思ってるって……」
ネネの疑問に考えを巡らしてみる。だが、ミリエルが答えを出すまでもなくネネは勝手に何か納得したようだった。
「その反応で察したよ。また明日ね、ミリエルちゃん」
「うん、また明日」
嬉しそうに弾む笑顔で教室を出ていくネネを見送る。見えなくなってから中の声が話しかけてきた。
『お前って言葉に出すまでもなく態度に出るよな』
「え? わたし何か出てた?」
『ああ、お前の態度はアルトさんには興味がありませんって言ってたぞ。だから、ネネも嬉しそうな笑顔になっていただろう』
「別に興味がないわけじゃないし、ネネちゃんが笑顔なのはいつものことだけど」
『気づかないならそれもいいかもな。お前は面白い奴だ。クラスの連中にも見てて楽しい奴だと思われてるのだろうな』
「うわ、嬉しくない褒め言葉」
ミリエルは自分が注目されるようなことは無いと思っていたのだが。
何か変な態度が出ているなら気を付けないといけないと思うのだった。
教室を出て放課後の廊下を歩いていく。
昇降口で上履きから靴に履き替え、足早に学校を出て行った。
今日は魔法部に寄り道していなかったので明るいいつもの時間帯だった。
でも、家に着く前にちょっと試そうと思っていたことがあった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる