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第20話 城で知っている人に会った
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謁見の間の扉を今度は外に向かってくぐり廊下に出て、ミリエルは落ち着いて休憩できそうな場所を探した。
親からはこの階から出るなと言われている。階段には兵士が立っているので出ようとすれば見つかるだろう。
行っても止められないかもしれないが、親にばれたら怒られてしまう。自分も兵士もだ。
そうでなくても約束は守りたい。約束を破るのはいけない子のすることだから。そう真面目に考える少女だった。
なのでミリエルはこの階の廊下を歩くことにした。
そう探索することもなく、少し歩いて角を曲がると都合の良さそうな場所があった。
解放感のある窓。
外面に張り出したバルコニーがあって眺めの良さそうな場所だ。ミリエルはその場所に行って風に吹かれることにした。
高い位置にある城の展望テラスからは城下町の様子がよく見えた。のんびりとした景色を見ると心が和む。
しばらくそうして風に吹かれていると少女に話しかけてきた人がいた。
「おお、久しぶりじゃな、ミリエル。こんなところで会うとは奇遇じゃな」
白い髭の老人だ。知っている人だったのでミリエルは少し嬉しくなって声を弾ませて挨拶した。
「あ、おじいちゃん。こんにちは」
『誰だ。この爺は』
「お父さんの友達よ」
小声で中の人に言う。ニコニコしている白い髭の老人、彼もまた父を訊ねて家に来る人の一人だった。よく父と一緒に酒を飲んでテーブルでつっぷして寝ていた。
ミリエルは水を差し出したことがあるので覚えていた。その水をソフィーが取り上げて彼の頭にぶっかけていたことも。
そんなだらしないところのある彼だが、今日は身なりのいい服装をしていた。豪華なマントを羽織っていた。
ミリエルが褒める前に向こうが褒めてきた。
「そのドレス、似合っておるの」
「ありがとうございます。お爺さんも似合ってますよ」
「若い子に褒められると照れるのう。わしもまだまだイケそうかな」
「はい、お爺さんはどうしてここへ?」
「ちょっと気分転換にな」
「わたしも気分転換です」
落ち着かない場所で知っている人と会って、ミリエルは気分を軽くしていた。
二人して風に吹かれながら城下町を見下ろした。
「お前さんはこの国をどう思う?」
「良い国だと思います。学校でも新しい友達が出来ました」
「それは良かった。ミリエルちゃんの両親が魔王を倒してくれたおかげじゃ。礼を言おう」
「ありがとうございます」
「もう二度とあのようなことが起こらぬようにしなければな。今日アルトが帰ってくる。新しい勇者を皆で迎えよう」
「はい」
そうして二人で話し合っていた時だった。その場所に兵士がやってきてお爺さんの前にひざまずいた。
「国王、こんなところにおられたのですか。間もなく時間でございます」
「うむ、もうそんな時間か。ちょっと休憩するだけのつもりが、ミリエルちゃんと会って楽しく過ごしすぎたのう」
「え……」
ミリエルは衝撃の事実を聞いたように口をあわあわさせて震える指先を向けた。
「国王? ……ですか?」
「うむ、まだ言ってなかったか? わしこそこの国を治める国王じゃ!」
「ええ!? 聞いてないよ、お父さーーーん!」
衝撃を受ける娘を国王はニコニコとした好々爺の笑みで見つめた。
兵士が促してくる。
「王様、早く準備を」
「うむ。では、ミリエル。また会場で会おうぞ!」
「はーい……」
人は見かけによらないものだ。
そんなことを思いながらミリエルは立ち去る王様をぎこちなく笑いながら手を小さく振って見送った。
『俺の世界がそんなに駄目か……? アルトか……』
自分のことで精一杯で、ミリエルは中の人が難しそうに考え込んでいることに気付かなかった。
親からはこの階から出るなと言われている。階段には兵士が立っているので出ようとすれば見つかるだろう。
行っても止められないかもしれないが、親にばれたら怒られてしまう。自分も兵士もだ。
そうでなくても約束は守りたい。約束を破るのはいけない子のすることだから。そう真面目に考える少女だった。
なのでミリエルはこの階の廊下を歩くことにした。
そう探索することもなく、少し歩いて角を曲がると都合の良さそうな場所があった。
解放感のある窓。
外面に張り出したバルコニーがあって眺めの良さそうな場所だ。ミリエルはその場所に行って風に吹かれることにした。
高い位置にある城の展望テラスからは城下町の様子がよく見えた。のんびりとした景色を見ると心が和む。
しばらくそうして風に吹かれていると少女に話しかけてきた人がいた。
「おお、久しぶりじゃな、ミリエル。こんなところで会うとは奇遇じゃな」
白い髭の老人だ。知っている人だったのでミリエルは少し嬉しくなって声を弾ませて挨拶した。
「あ、おじいちゃん。こんにちは」
『誰だ。この爺は』
「お父さんの友達よ」
小声で中の人に言う。ニコニコしている白い髭の老人、彼もまた父を訊ねて家に来る人の一人だった。よく父と一緒に酒を飲んでテーブルでつっぷして寝ていた。
ミリエルは水を差し出したことがあるので覚えていた。その水をソフィーが取り上げて彼の頭にぶっかけていたことも。
そんなだらしないところのある彼だが、今日は身なりのいい服装をしていた。豪華なマントを羽織っていた。
ミリエルが褒める前に向こうが褒めてきた。
「そのドレス、似合っておるの」
「ありがとうございます。お爺さんも似合ってますよ」
「若い子に褒められると照れるのう。わしもまだまだイケそうかな」
「はい、お爺さんはどうしてここへ?」
「ちょっと気分転換にな」
「わたしも気分転換です」
落ち着かない場所で知っている人と会って、ミリエルは気分を軽くしていた。
二人して風に吹かれながら城下町を見下ろした。
「お前さんはこの国をどう思う?」
「良い国だと思います。学校でも新しい友達が出来ました」
「それは良かった。ミリエルちゃんの両親が魔王を倒してくれたおかげじゃ。礼を言おう」
「ありがとうございます」
「もう二度とあのようなことが起こらぬようにしなければな。今日アルトが帰ってくる。新しい勇者を皆で迎えよう」
「はい」
そうして二人で話し合っていた時だった。その場所に兵士がやってきてお爺さんの前にひざまずいた。
「国王、こんなところにおられたのですか。間もなく時間でございます」
「うむ、もうそんな時間か。ちょっと休憩するだけのつもりが、ミリエルちゃんと会って楽しく過ごしすぎたのう」
「え……」
ミリエルは衝撃の事実を聞いたように口をあわあわさせて震える指先を向けた。
「国王? ……ですか?」
「うむ、まだ言ってなかったか? わしこそこの国を治める国王じゃ!」
「ええ!? 聞いてないよ、お父さーーーん!」
衝撃を受ける娘を国王はニコニコとした好々爺の笑みで見つめた。
兵士が促してくる。
「王様、早く準備を」
「うむ。では、ミリエル。また会場で会おうぞ!」
「はーい……」
人は見かけによらないものだ。
そんなことを思いながらミリエルは立ち去る王様をぎこちなく笑いながら手を小さく振って見送った。
『俺の世界がそんなに駄目か……? アルトか……』
自分のことで精一杯で、ミリエルは中の人が難しそうに考え込んでいることに気付かなかった。
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