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第31話 出現 洞窟のスライム
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ライトの魔法の白い灯りに照らされた洞窟をミリエル達は歩いていく。洞窟は結構な広さで少し歩いたぐらいではまだ行き止まりは見えなかった。
洞窟の黒い穴はまだ奥へと続いている。
壁や天井や岩以外は何も無いかと思えた洞窟。
だが、少し先に見える地面に何かがいるのが伺えて、アルトとともに先頭を歩いていたミリエルは歩いていた足を止めた。
少し先の地面に何か背の低い丸い物が蠢いている。水滴状のその物体は振り返って円らな瞳を向けてきた。
知らないモンスターじゃない。ただ森では会ったことがあるが洞窟で会うのは初めてだったので何だか印象が違って見えた。
向こうもこちらを警戒しているのか、プルプルと震えているだけですぐには跳びかかっては来なかった。
ライトの白い灯りが照らし出す。その水滴状のモンスターはスライムだった。アルトがミリエルの知っている知識を教えてくれる。
大人の経験者がまだ子供の初心者にするように。
「あれはスライムだね」
「はい、戦ったことがあります」
森で何匹も倒したことのある相手だが、改めて慣れない環境で向かい合うと緊張してしまう。
ミリエルが黙って見ていると、背後からアルトの仲間達が声を上げて進言してきた。
テナーもソプラもヴァスもそれぞれに戦う気構えは十分のようだった。それぞれに頼れる大人をアピールするかのように言った。
「スライムか。あれぐらいの相手ならお姉さんの杖でも殴り倒せるわね。ミリエルちゃんにまた良いところを見せちゃおうかなー」
「スライムか。相手にとっては不足に過ぎるが、ここでわしの極大魔法を小娘に見せてやって度肝を抜いてやるのも悪くはあるまい。メテオを見たいか?」
「スライムか。剣を使うまでもないが、ここでグランドクロスを使って腕の感触を取り戻しておくか」
「だから君達は手を出さないでよ。これはミリエルちゃんの戦いなんだから。ミリエルちゃん、敵は弱いスライムだけど出来るよね?」
「はい」
自分の仲間達をぴしゃりと黙らせて、アルトはミリエルに戦いを促す。
これはミリエルの戦いなのだから。何度も言い聞かされて子供の休日の楽しみを奪うこともせず、大人達は素直に見守ることを選んだ。
ミリエルは敵に目を向けて様子を伺う。
スライムなんて森で何匹も倒してきたことのある大したことが無い相手だが、みんなに注目されると妙に緊張してしまう。
『スライム如きに後れを取るなよ。俺もお前の活躍を期待して見ててやるからな。こいつらにお前の実力を思う存分に見せつけてやれ』
「分かってる。恥を掻かせはしない」
中の人も見守っている。ミリエルは剣を抜いて構えた。
その横に洞窟に入ってからずっと黙ってついてきていたリンダがやってきた。
「待ちなさい、ミリエルさん! わたくしもアルト様に良い所を見せますわああ!」
少し慌てた様子で緊張に上擦った声を上げて参戦を表明したリンダの抜いた剣はとても輝いていた。宝石が散りばめられ、細かい装飾がされて、黄金も使われていた。
とても高価そうでミリエルはちょっと驚いた。これがお金持ちの武器なのだろうか。
こんな過剰な装飾の施された高そうな剣でスライムを斬るなんてもったいない、家に飾っておいた方がいいのではとミリエルは思ったが、リンダは全く気にせずにそれを敵に向けてスライムと戦う気構えを見せた。
これが金持ちの精神と価値観なのだろうか。凡人とは住む世界が違う。思いながらミリエルは訊ねた。
「いいけど、リンダちゃん戦えるの?」
「舐めるんじゃありませんわ! わたくしも学校の実技では良い成績を修めてるんですのよ。あなたほどでは無いかもしれませんが……ニーニャ、あなたもボサッとしてないでここへ来て手伝うのですわ。さぼりは許しませんよ」
「へいへい、仰せのままに。お嬢様」
ニーニャは面倒そうにぼやきながら革の鞭を取り出して、地面を叩いた。とても良い音が鳴って使用人の少女はやる気になったのかニヤリと笑んだ。ミリエルはちょっと背筋を震わせて年下の少女に向かって訊ねた。
「その武器どこから持ってきたの? ニーニャちゃん」
「屋敷にあった物で安そうで使えそうな物を持って来たんだ。お嬢様の手伝いをさせられるのは目に見えていたからね。初手のスライムから手伝わされるとは思っていなかったが、しばくには調度いい手合いか」
「顔が怖いよ、ニーニャちゃん」
ニーニャはとても機嫌が良さそうに笑んでいて、ミリエルの初めて見る彼女の表情だった。
彼女と付き合いの長いリンダは気にならないのかスルーして言った。
「無駄口を叩いている場合ではありませんわ。ニーニャ、まずはあなたから先行なさい。わたくしが止めを刺しますわ」
「いいけど、相手はスライムだぜ。あたいの最初の一撃で全てが終わっても恨まないでくださいよ」
「そこは上手く手加減するのです。あなたも使用人なら気を利かせなさい」
「……めんどくせ」
「もう先行はわたしがするからいいよ、ニーニャちゃん。わたしが飛び込むから、リンダちゃんもニーニャちゃんも後に続いて」
ミリエルは自分がこの冒険を申し出た本人として先頭を切ってスライムに向かって掛かっていく。みんなの応援の視線を感じながら剣を振りかぶる。
バトルだ!
スライムはまごついている。この洞窟に人が踏み入ってくるのは意外だったようだ。
だが、このまま斬らせてはくれない。
近づいたことで警戒を強めたようだ。スライムがその身を震わせると洞窟の左右の影から新たに二匹のスライムが現れた。
スライムは一匹だけでは無かった。ここには三匹のスライムがいた。
だが、敵が増えたと言ってもそのことは少女にためらいを抱かせない。逆に喜ばせただけだった。
「ちょうど一人一匹いるね。まずは一匹! わたしが戴くよ!」
ミリエルは走り寄るなり全力で剣を振り下ろす。ちょうど真ん中にいたスライムの脳天に向かって。
ズシャアアアア! 会心の一撃の手応えが鳴って、斬られたスライムは一刀両断にされて消滅していった。
残る二匹のスライムは仲間の死に慌てたようにポンポン跳ねた。殲滅するのは容易いがそれでは不公平だ。自分の取り分は終わった。ミリエルは剣を下ろして戦場を見やった。
中の人がミリエルも思った素直な感想を呟いた。
『弱すぎるな、スライム』
「うん。リンダちゃん、ニーニャちゃん。残り二匹いるよ!」
「分かってますわ! たあああ!」
ミリエルほど足の速くないリンダが真っすぐに振り下ろした剣でスライムはサクッと頭を斬られて消滅していった。
さすがにお金持ちが使うだけあって見た目の派手なごてごてした印象よりも切れ味が鋭いなとミリエルは思った。
残るスライムをニーニャがバシッと鞭で叩きのめして戦闘はあえなく終了した。
危な気の無い順調な決着に、この旅に出てからずっと緊張していたリンダが安心の吐息を吐いた。
「何ですか。洞窟のモンスターなんて全然たいしたことがないではありませんか。このまま進めますわね」
「だね」
「お嬢様、油断していると足元を掬われますよ」
「ニーニャ、あなたは一言多いんですのよ。こんな時ぐらい素直に喜んだ顔を見せたらどうですか」
「あたいは喜んでますよ。お嬢様がドジを踏んで転んだり泣きべそを見せないで良かったと」
「もうう! あなたという人は」
リンダが膨れる。
最初の戦闘で快勝を収めたことで場には温かい良い空気が広がった。
「このまま行こうよ。行けるとこまで!」
ミリエルはやる気に心を弾ませて前を見た。
アルトはじっとそうして喜びを分かち合う少女を見ていた。
<これぐらいでは君の力は引き出せないようだね>
そうミリエルの奥底にある実力を計りながら。
洞窟の黒い穴はまだ奥へと続いている。
壁や天井や岩以外は何も無いかと思えた洞窟。
だが、少し先に見える地面に何かがいるのが伺えて、アルトとともに先頭を歩いていたミリエルは歩いていた足を止めた。
少し先の地面に何か背の低い丸い物が蠢いている。水滴状のその物体は振り返って円らな瞳を向けてきた。
知らないモンスターじゃない。ただ森では会ったことがあるが洞窟で会うのは初めてだったので何だか印象が違って見えた。
向こうもこちらを警戒しているのか、プルプルと震えているだけですぐには跳びかかっては来なかった。
ライトの白い灯りが照らし出す。その水滴状のモンスターはスライムだった。アルトがミリエルの知っている知識を教えてくれる。
大人の経験者がまだ子供の初心者にするように。
「あれはスライムだね」
「はい、戦ったことがあります」
森で何匹も倒したことのある相手だが、改めて慣れない環境で向かい合うと緊張してしまう。
ミリエルが黙って見ていると、背後からアルトの仲間達が声を上げて進言してきた。
テナーもソプラもヴァスもそれぞれに戦う気構えは十分のようだった。それぞれに頼れる大人をアピールするかのように言った。
「スライムか。あれぐらいの相手ならお姉さんの杖でも殴り倒せるわね。ミリエルちゃんにまた良いところを見せちゃおうかなー」
「スライムか。相手にとっては不足に過ぎるが、ここでわしの極大魔法を小娘に見せてやって度肝を抜いてやるのも悪くはあるまい。メテオを見たいか?」
「スライムか。剣を使うまでもないが、ここでグランドクロスを使って腕の感触を取り戻しておくか」
「だから君達は手を出さないでよ。これはミリエルちゃんの戦いなんだから。ミリエルちゃん、敵は弱いスライムだけど出来るよね?」
「はい」
自分の仲間達をぴしゃりと黙らせて、アルトはミリエルに戦いを促す。
これはミリエルの戦いなのだから。何度も言い聞かされて子供の休日の楽しみを奪うこともせず、大人達は素直に見守ることを選んだ。
ミリエルは敵に目を向けて様子を伺う。
スライムなんて森で何匹も倒してきたことのある大したことが無い相手だが、みんなに注目されると妙に緊張してしまう。
『スライム如きに後れを取るなよ。俺もお前の活躍を期待して見ててやるからな。こいつらにお前の実力を思う存分に見せつけてやれ』
「分かってる。恥を掻かせはしない」
中の人も見守っている。ミリエルは剣を抜いて構えた。
その横に洞窟に入ってからずっと黙ってついてきていたリンダがやってきた。
「待ちなさい、ミリエルさん! わたくしもアルト様に良い所を見せますわああ!」
少し慌てた様子で緊張に上擦った声を上げて参戦を表明したリンダの抜いた剣はとても輝いていた。宝石が散りばめられ、細かい装飾がされて、黄金も使われていた。
とても高価そうでミリエルはちょっと驚いた。これがお金持ちの武器なのだろうか。
こんな過剰な装飾の施された高そうな剣でスライムを斬るなんてもったいない、家に飾っておいた方がいいのではとミリエルは思ったが、リンダは全く気にせずにそれを敵に向けてスライムと戦う気構えを見せた。
これが金持ちの精神と価値観なのだろうか。凡人とは住む世界が違う。思いながらミリエルは訊ねた。
「いいけど、リンダちゃん戦えるの?」
「舐めるんじゃありませんわ! わたくしも学校の実技では良い成績を修めてるんですのよ。あなたほどでは無いかもしれませんが……ニーニャ、あなたもボサッとしてないでここへ来て手伝うのですわ。さぼりは許しませんよ」
「へいへい、仰せのままに。お嬢様」
ニーニャは面倒そうにぼやきながら革の鞭を取り出して、地面を叩いた。とても良い音が鳴って使用人の少女はやる気になったのかニヤリと笑んだ。ミリエルはちょっと背筋を震わせて年下の少女に向かって訊ねた。
「その武器どこから持ってきたの? ニーニャちゃん」
「屋敷にあった物で安そうで使えそうな物を持って来たんだ。お嬢様の手伝いをさせられるのは目に見えていたからね。初手のスライムから手伝わされるとは思っていなかったが、しばくには調度いい手合いか」
「顔が怖いよ、ニーニャちゃん」
ニーニャはとても機嫌が良さそうに笑んでいて、ミリエルの初めて見る彼女の表情だった。
彼女と付き合いの長いリンダは気にならないのかスルーして言った。
「無駄口を叩いている場合ではありませんわ。ニーニャ、まずはあなたから先行なさい。わたくしが止めを刺しますわ」
「いいけど、相手はスライムだぜ。あたいの最初の一撃で全てが終わっても恨まないでくださいよ」
「そこは上手く手加減するのです。あなたも使用人なら気を利かせなさい」
「……めんどくせ」
「もう先行はわたしがするからいいよ、ニーニャちゃん。わたしが飛び込むから、リンダちゃんもニーニャちゃんも後に続いて」
ミリエルは自分がこの冒険を申し出た本人として先頭を切ってスライムに向かって掛かっていく。みんなの応援の視線を感じながら剣を振りかぶる。
バトルだ!
スライムはまごついている。この洞窟に人が踏み入ってくるのは意外だったようだ。
だが、このまま斬らせてはくれない。
近づいたことで警戒を強めたようだ。スライムがその身を震わせると洞窟の左右の影から新たに二匹のスライムが現れた。
スライムは一匹だけでは無かった。ここには三匹のスライムがいた。
だが、敵が増えたと言ってもそのことは少女にためらいを抱かせない。逆に喜ばせただけだった。
「ちょうど一人一匹いるね。まずは一匹! わたしが戴くよ!」
ミリエルは走り寄るなり全力で剣を振り下ろす。ちょうど真ん中にいたスライムの脳天に向かって。
ズシャアアアア! 会心の一撃の手応えが鳴って、斬られたスライムは一刀両断にされて消滅していった。
残る二匹のスライムは仲間の死に慌てたようにポンポン跳ねた。殲滅するのは容易いがそれでは不公平だ。自分の取り分は終わった。ミリエルは剣を下ろして戦場を見やった。
中の人がミリエルも思った素直な感想を呟いた。
『弱すぎるな、スライム』
「うん。リンダちゃん、ニーニャちゃん。残り二匹いるよ!」
「分かってますわ! たあああ!」
ミリエルほど足の速くないリンダが真っすぐに振り下ろした剣でスライムはサクッと頭を斬られて消滅していった。
さすがにお金持ちが使うだけあって見た目の派手なごてごてした印象よりも切れ味が鋭いなとミリエルは思った。
残るスライムをニーニャがバシッと鞭で叩きのめして戦闘はあえなく終了した。
危な気の無い順調な決着に、この旅に出てからずっと緊張していたリンダが安心の吐息を吐いた。
「何ですか。洞窟のモンスターなんて全然たいしたことがないではありませんか。このまま進めますわね」
「だね」
「お嬢様、油断していると足元を掬われますよ」
「ニーニャ、あなたは一言多いんですのよ。こんな時ぐらい素直に喜んだ顔を見せたらどうですか」
「あたいは喜んでますよ。お嬢様がドジを踏んで転んだり泣きべそを見せないで良かったと」
「もうう! あなたという人は」
リンダが膨れる。
最初の戦闘で快勝を収めたことで場には温かい良い空気が広がった。
「このまま行こうよ。行けるとこまで!」
ミリエルはやる気に心を弾ませて前を見た。
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