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第36話 洞窟の主 コボルトとの戦い
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光に包まれるなり傷がふさがり、パワーアップして宙に浮いたコボルトを見て、ミリエル達は素直に驚いた感情を見せた。
「コボルトって飛べるの?」
『いや、外部から余計な横槍が入ったようだぞ』
「最後のあがきですわ。わたくし達でいいところを見せますわよ」
「仕留めるぜ!」
やる気を見せる少女達。だが、コボルトの方が速かった。スピードが今までの二倍ぐらいに上がっていた。
数値の上ではたいした差は無いようだが、体感で感じる差はかなりの物だった。
舞い上がって振り下ろす威力も載せて、コボルトの剣がミリエルに向かって襲い掛かる。
ミリエルは今までと同じように受け止めようとするが、コボルトの力も速度も上がっていて顔をしかめてしまう。
何とか横に受け流して、反対側の横に跳んだ。砕かれた地面が石の礫を巻き上げた。
「無茶をするんじゃありませんわ。わたくしにお任せなさい!」
着地したコボルトの背にリンダが襲い掛かる。だが、コボルトはニヤリとした笑みを浮かべると(ミリエルの目にはそう見えた)、翼が生えたかのように後方へ飛んで回避した。
リンダは追撃して剣を振るが、浮遊状態となったコボルトには当たらない。
右へ左へとふわふわと回避して、大きく迂回して今度はニーニャの前にやってきた。
「いい度胸だ!」
ニーニャの振る鞭がコボルトの腕に巻き付いた。それをたいした興味も無さそうに見つめるコボルト。
「よし、捕まえた! このまま地面に引きずり降ろしてやるぜ!」
ニーニャは鞭を引っ張ろうとするが、その前にコボルトがそれを巻き付いていない方の手で掴んでいた。
「は?」
そして、呆気に取られているニーニャの前でそれを引きちぎってしまった。鞭が弱いわけではない。驚くべきことは上がったその腕力だろう。
「まじかよっ、くっ」
呆然としている暇は無い。振り下ろしてくるコボルトの拳をニーニャは何とか横に跳んで回避するが、勢いまでは殺しきれずに地面を転がってしまった。
「ニーニャちゃん! 大丈夫!?」
「平気だぜ、これぐらい」
「この、よくもうちの使用人を!」
三人の少女達は戦意を失わずに果敢に向かって行くが、戦局は一転して不利になっていた。
さすが洞窟の主をしているだけあってコボルトは戦いの勘が良かった。知性もあった。すでに上がった能力も浮遊状態も物にして、彼はそれらを自分のバトルの要素として組み入れていた。
能力が底上げされて浮遊状態となったコボルトに三人の少女達は苦戦していた。
その様子を大人達は広間の入口から見守っていた。
「フォッフォッ、これはいつ助けを求めて泣きついてくるか見物になったのう」
「フン、レベルの低い戦いだ。俺なら一撃で倒せる」
「少し試練を課しすぎたかしら」
「いや、これでいいんだ。さあ、ミリエルちゃん。君の真価を発揮する時だよ」
戦いは続いていく。みんなの見守っている前で。
大人達はいざとなったらいつでも助けに入れるように準備はしていた。だが、少女達があまりに一生懸命に戦う物だからその機会をなかなか掴めずにいた。
アルトがここへ来るまでに散々ミリエル達の戦いだから邪魔をするなと念を押してきたせいでもあった。
いざとなったらリーダーが決断する。テナーはそう思いながら視線をアルトから戦場へと移した。
ミリエルは懸命にコボルトの剣を受け続ける。完全には止められないので後退しながら受け流し続けるだけだ。
反撃しようにも相手は浮遊しているので剣が届きにくい。
息が上がってきて剣に振られるように大振りになっているリンダには何も期待できそうにない。
ニーニャが千切られて短くなった鞭で叩いても、コボルトの傷はすぐに回復してしまう。
「何だってこんな面倒な事になってるんだ? 勇者様に助けを呼んだ方がいいんじゃないか?」
「出来ませんわ、そんなみっともないこと。やるならそれはミリエルさんの判断でですわ」
リンダは戦場の判断をミリエルに委ねていた。お嬢様がその気ならニーニャに反論する言葉は無かったが、ミリエルがどこまで信用できるのか、その疑いの目は持っていた。
「お嬢様は信用しているようだが……」
「わたしは……!」
ミリエルは毅然として敵の剣を跳ねのけ、さらに前に踏み込んで下がろうとするコボルトの腕に傷を付けた。だが、それは時間が経つとともに全快してしまう。
宙を舞うコボルトには回避に回る余裕があった。
見守りながらテナーはそわそわしていた。
「傷の自動回復までは必要無かったかしら。このままでは削ることも出来ないわ。魔法の反射は掛けてないから今からでもディスペルしてもいいんだけど」
「いや、それは必要ない。ミリエルちゃんならこれぐらいでも勝てるよ。僕に見せたあの力があればね」
アルトはミリエルの力を信用しているようだった。あの謁見の間の一件の時、少し離れた場所で跪いていたテナーの位置からはよく見えなかったのだが、アルトとミリエルの間で何らかのやり取りがあったらしい。
その時のことで、アルトはミリエルの力を信頼しているらしいのだが……
戦場を見つめるアルトには揺らぎが無い。その瞳は全てを見通そうとするかのようだった。
不安に思うテナーをヴァスとソプラは大丈夫だと励ました。
「いざとなったら剣を抜く準備は出来ている」
「わしのフレアーなら一撃で焼き尽くせるわい」
「ええ、そうね。わたしだって回復魔法を使えるわ」
子供達が頑張っているのに大人達が目を逸らすわけにはいかない。
テナーは改めて戦場に目を移した。
能力を増して浮遊するコボルトとの戦いにも段々とだが慣れてきた。
相手は強く、宙に浮いて変則的な動きもするが、基本的にはその攻撃は剣によるものだけだ。トリッキーな攻撃手段は持っていない。
リンダが最初に盾を壊しておいてくれたのも助かった。たった一本の剣で受け止めている間、隙が作れる。
コボルトはミリエルを一番の敵だと意識しているのか、率先してこちらに剣を振ってきた。
今度壁際に追い詰められたのはミリエルの方だった。さすがに中の人も慌てた声を上げていた。
『おい! 追い詰められてるぞ! 大丈夫なのか?』
「分かってる。ありがとう、わたしの心配をしてくれて」
『いや、お前が恥ずかしいと俺も恥を掻くだろ。今からでも手伝ってやってもいいんだぞ』
「大丈夫、勝てる方法はあるから。リンダちゃん! その剣を貸して!」
「あ……ああ、そういうことですのね。分かりましたわ!」
リンダの剣は今ここにある武器の中では殺傷能力がずば抜けて高い。だからあの武器ならコボルトの防御も自動回復も気にせずにコボルトを仕留める。
ミリエルはそう考えていたのだが……
「キャッ!」
何とリンダはこちらに武器を渡しに走り寄る途中で転んでしまった。
その手から剣がすっぽ抜けて天井に刺さってしまう。コボルトは自分の脅威となる武器が飛んだのに肝を冷やしたように見上げたが、もう天井の岩に刺さってしまっていて気にすることはないとミリエルに視線を戻した。
その顔は自分の勝利を確信したかのようだった。ミリエルは焦る気持ちを抑えて自分の剣を構えた。
だが、それは罠だった。別にリンダが考えたわけでもなく。
剣が刺さってぐらついた天井の岩が落下した。それはちょうど下で浮遊していたコボルトの頭を強打して、犬の獣人は目に火花を散らして地面に落下した。
「チャンス!」
ニーニャはこれを機会とばかりに鞭でコボルトの体をしばき上げる。リンダは近くの石を投げつけて、ニーニャは慌ててそれを回避した。
「危ないだろ! リンダ!」
「ミリエルさん、今ですわ!」
『やっちまえ! お前の戦いだ!』
「うん! やあああああ!」
ミリエルは剣を構えて飛び出し、起き上がろうとするコボルトの体に向けて放った。コボルトはその剣を掴んで止めようとするが、少女はさせない。
ミリエルはさらに剣を握る力を強める。暴れようとするコボルトの首にニーニャが後ろから鞭を巻き付け、リンダが石で犬の頭を殴った。
コボルトは目を回して膝をつく。もう回復も浮遊もさせない。
ニーニャが足を引っかけてコボルトをすっころばせる。
そのままみんなで殴って蹴って踏みまくって叩きのめし、コボルトは顔や体に多数の痣や靴跡を、頭に多数のたんこぶを作って涙目になって消滅した。
こうして長かった戦闘は終結した。
「コボルトって飛べるの?」
『いや、外部から余計な横槍が入ったようだぞ』
「最後のあがきですわ。わたくし達でいいところを見せますわよ」
「仕留めるぜ!」
やる気を見せる少女達。だが、コボルトの方が速かった。スピードが今までの二倍ぐらいに上がっていた。
数値の上ではたいした差は無いようだが、体感で感じる差はかなりの物だった。
舞い上がって振り下ろす威力も載せて、コボルトの剣がミリエルに向かって襲い掛かる。
ミリエルは今までと同じように受け止めようとするが、コボルトの力も速度も上がっていて顔をしかめてしまう。
何とか横に受け流して、反対側の横に跳んだ。砕かれた地面が石の礫を巻き上げた。
「無茶をするんじゃありませんわ。わたくしにお任せなさい!」
着地したコボルトの背にリンダが襲い掛かる。だが、コボルトはニヤリとした笑みを浮かべると(ミリエルの目にはそう見えた)、翼が生えたかのように後方へ飛んで回避した。
リンダは追撃して剣を振るが、浮遊状態となったコボルトには当たらない。
右へ左へとふわふわと回避して、大きく迂回して今度はニーニャの前にやってきた。
「いい度胸だ!」
ニーニャの振る鞭がコボルトの腕に巻き付いた。それをたいした興味も無さそうに見つめるコボルト。
「よし、捕まえた! このまま地面に引きずり降ろしてやるぜ!」
ニーニャは鞭を引っ張ろうとするが、その前にコボルトがそれを巻き付いていない方の手で掴んでいた。
「は?」
そして、呆気に取られているニーニャの前でそれを引きちぎってしまった。鞭が弱いわけではない。驚くべきことは上がったその腕力だろう。
「まじかよっ、くっ」
呆然としている暇は無い。振り下ろしてくるコボルトの拳をニーニャは何とか横に跳んで回避するが、勢いまでは殺しきれずに地面を転がってしまった。
「ニーニャちゃん! 大丈夫!?」
「平気だぜ、これぐらい」
「この、よくもうちの使用人を!」
三人の少女達は戦意を失わずに果敢に向かって行くが、戦局は一転して不利になっていた。
さすが洞窟の主をしているだけあってコボルトは戦いの勘が良かった。知性もあった。すでに上がった能力も浮遊状態も物にして、彼はそれらを自分のバトルの要素として組み入れていた。
能力が底上げされて浮遊状態となったコボルトに三人の少女達は苦戦していた。
その様子を大人達は広間の入口から見守っていた。
「フォッフォッ、これはいつ助けを求めて泣きついてくるか見物になったのう」
「フン、レベルの低い戦いだ。俺なら一撃で倒せる」
「少し試練を課しすぎたかしら」
「いや、これでいいんだ。さあ、ミリエルちゃん。君の真価を発揮する時だよ」
戦いは続いていく。みんなの見守っている前で。
大人達はいざとなったらいつでも助けに入れるように準備はしていた。だが、少女達があまりに一生懸命に戦う物だからその機会をなかなか掴めずにいた。
アルトがここへ来るまでに散々ミリエル達の戦いだから邪魔をするなと念を押してきたせいでもあった。
いざとなったらリーダーが決断する。テナーはそう思いながら視線をアルトから戦場へと移した。
ミリエルは懸命にコボルトの剣を受け続ける。完全には止められないので後退しながら受け流し続けるだけだ。
反撃しようにも相手は浮遊しているので剣が届きにくい。
息が上がってきて剣に振られるように大振りになっているリンダには何も期待できそうにない。
ニーニャが千切られて短くなった鞭で叩いても、コボルトの傷はすぐに回復してしまう。
「何だってこんな面倒な事になってるんだ? 勇者様に助けを呼んだ方がいいんじゃないか?」
「出来ませんわ、そんなみっともないこと。やるならそれはミリエルさんの判断でですわ」
リンダは戦場の判断をミリエルに委ねていた。お嬢様がその気ならニーニャに反論する言葉は無かったが、ミリエルがどこまで信用できるのか、その疑いの目は持っていた。
「お嬢様は信用しているようだが……」
「わたしは……!」
ミリエルは毅然として敵の剣を跳ねのけ、さらに前に踏み込んで下がろうとするコボルトの腕に傷を付けた。だが、それは時間が経つとともに全快してしまう。
宙を舞うコボルトには回避に回る余裕があった。
見守りながらテナーはそわそわしていた。
「傷の自動回復までは必要無かったかしら。このままでは削ることも出来ないわ。魔法の反射は掛けてないから今からでもディスペルしてもいいんだけど」
「いや、それは必要ない。ミリエルちゃんならこれぐらいでも勝てるよ。僕に見せたあの力があればね」
アルトはミリエルの力を信用しているようだった。あの謁見の間の一件の時、少し離れた場所で跪いていたテナーの位置からはよく見えなかったのだが、アルトとミリエルの間で何らかのやり取りがあったらしい。
その時のことで、アルトはミリエルの力を信頼しているらしいのだが……
戦場を見つめるアルトには揺らぎが無い。その瞳は全てを見通そうとするかのようだった。
不安に思うテナーをヴァスとソプラは大丈夫だと励ました。
「いざとなったら剣を抜く準備は出来ている」
「わしのフレアーなら一撃で焼き尽くせるわい」
「ええ、そうね。わたしだって回復魔法を使えるわ」
子供達が頑張っているのに大人達が目を逸らすわけにはいかない。
テナーは改めて戦場に目を移した。
能力を増して浮遊するコボルトとの戦いにも段々とだが慣れてきた。
相手は強く、宙に浮いて変則的な動きもするが、基本的にはその攻撃は剣によるものだけだ。トリッキーな攻撃手段は持っていない。
リンダが最初に盾を壊しておいてくれたのも助かった。たった一本の剣で受け止めている間、隙が作れる。
コボルトはミリエルを一番の敵だと意識しているのか、率先してこちらに剣を振ってきた。
今度壁際に追い詰められたのはミリエルの方だった。さすがに中の人も慌てた声を上げていた。
『おい! 追い詰められてるぞ! 大丈夫なのか?』
「分かってる。ありがとう、わたしの心配をしてくれて」
『いや、お前が恥ずかしいと俺も恥を掻くだろ。今からでも手伝ってやってもいいんだぞ』
「大丈夫、勝てる方法はあるから。リンダちゃん! その剣を貸して!」
「あ……ああ、そういうことですのね。分かりましたわ!」
リンダの剣は今ここにある武器の中では殺傷能力がずば抜けて高い。だからあの武器ならコボルトの防御も自動回復も気にせずにコボルトを仕留める。
ミリエルはそう考えていたのだが……
「キャッ!」
何とリンダはこちらに武器を渡しに走り寄る途中で転んでしまった。
その手から剣がすっぽ抜けて天井に刺さってしまう。コボルトは自分の脅威となる武器が飛んだのに肝を冷やしたように見上げたが、もう天井の岩に刺さってしまっていて気にすることはないとミリエルに視線を戻した。
その顔は自分の勝利を確信したかのようだった。ミリエルは焦る気持ちを抑えて自分の剣を構えた。
だが、それは罠だった。別にリンダが考えたわけでもなく。
剣が刺さってぐらついた天井の岩が落下した。それはちょうど下で浮遊していたコボルトの頭を強打して、犬の獣人は目に火花を散らして地面に落下した。
「チャンス!」
ニーニャはこれを機会とばかりに鞭でコボルトの体をしばき上げる。リンダは近くの石を投げつけて、ニーニャは慌ててそれを回避した。
「危ないだろ! リンダ!」
「ミリエルさん、今ですわ!」
『やっちまえ! お前の戦いだ!』
「うん! やあああああ!」
ミリエルは剣を構えて飛び出し、起き上がろうとするコボルトの体に向けて放った。コボルトはその剣を掴んで止めようとするが、少女はさせない。
ミリエルはさらに剣を握る力を強める。暴れようとするコボルトの首にニーニャが後ろから鞭を巻き付け、リンダが石で犬の頭を殴った。
コボルトは目を回して膝をつく。もう回復も浮遊もさせない。
ニーニャが足を引っかけてコボルトをすっころばせる。
そのままみんなで殴って蹴って踏みまくって叩きのめし、コボルトは顔や体に多数の痣や靴跡を、頭に多数のたんこぶを作って涙目になって消滅した。
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