猫耳パンデミック

けろよん

文字の大きさ
4 / 7

第4話 対猫耳用装置 冥一号

しおりを挟む
「木村陽翔さんですよね?」
「はい」

 次の休み時間、陽翔はなぜか幸奈に声を掛けられていた。
 自分に向けられてくることなんて無いと思っていたお嬢様の瞳がすぐ間近に来て緊張してしまうが、話を聞く。

「実はさっき連絡を受けたのですが、冥一号には一つとんでもない副作用があることが分かったんです」
「副作用?」

 話が日葵のこととあって、陽翔は姿勢を正した。
 日葵はというと、クラスのみんなに囲まれていた。冥一号の感想を聞かれたりしているようだ。
 幸奈は言う。

「実はあの冥一号を着ていると、ご奉仕したくなるんです」
「ご奉仕?」
「人のために何かをしてあげたくなるということです」
「それは分かってますけど」

 それの何が問題なのかは分からないが。
 今の日葵に何かの異変のような兆候は見られない。猫耳があってメイド服を着ているだけでいつもの日葵だ。

「そこで日葵さんと仲の良いあなたには、彼女のことをそれとなく気にかけておいてもらいたいのです」
「分かりました。でも、日葵のことなら彼女に直接言えばいいんじゃ」
「それは駄目です。この副作用は意識するとよりご奉仕をしたくなるものなので。気づかれないのが一番良いのです。ですから、どうぞ彼女には秘密に」
「はい」

 よく分からなくても、頼まれたら答えるしかない陽翔だった。


 放課後の教室、帰ろうとした陽翔の前に日葵が不満を顔に見せてやってきた。

「ねえ、陽翔。あたし何か変わった?」
「何かって?」

 陽翔は日葵の姿を頭から下まで眺めて言った。

「似合ってると思うよ」
「そうじゃなくて、猫耳よ!」
「猫耳?」
「そうよ、見なさいよ」

 メイド服姿の日葵は頭を差し出してきた。陽翔は日葵の頭から生えている猫耳をじっくりと根元から先っぽまで見た。

「相変わらず生えてるね」
「そうよ、生えてるのよ! あの女!」

 日葵は陽翔の前から頭を離すと、あの女の席へと歩いていった。

「どう言うことよ。今日一日メイド服を着ていたのに、何も変わらないんだけど!」
「これは……もうなっているから抑えられないのかもしれませんね」
「抑えられない……?」

 不思議そうにぽかんとする日葵に、幸奈は落ち着いた態度を崩さずに少し申し訳なさそうに答えた。

「もうなっちゃってるので。でも、これから猫耳になるのは抑えられるかもしれませんよ」
「意味ねえじゃん! もう猫耳は生えてるのよ! 着て損した!」
「では、その服は先生に差し上げることに」
「駄目駄目、それは絶対に駄目!」

 日葵はブンブンと首を横に振って断った。あのおっさんに自分の着た服を渡すなんて冗談ではない。そう思っているのがありありと伺えた。
 幸奈は優しく微笑んだ。

「では、その服は大事にしてください。なにせ一着しか無いので」
「分かったわよ。大事にするわよー!」

 そうしてメイド服は日葵の物になったのだった。



 そのメイド服を、彼女は帰る前に着替えていた。
 学校の制服姿となっている日葵に、陽翔は不思議に思って訊ねた。

「あの服は着ないの?」

 何気ないその質問に、日葵は噛みつくように答えてきた。

「外で着れるわけないでしょ! 学校の中でも恥ずかしかったのに!」
「ふーん」

 似合ってたし、学校のみんなも褒めてたんだから恥ずかしがることは無いと思うのだが。
 副作用も今日見た感じ、気にするような物では無さそうだったし。
 日葵の顔色は赤い。頭を抱えるように猫耳を触った。

「もうやだ、この猫耳のせいで。こいつが全部悪いのよ」
「そんなに悪い物でもないと思うけどな」

 学校の他の生徒達はもう猫耳を気にせず普段の生活を送っていた。
 ただ頭に猫耳があるというだけで、すっかりいつもの見慣れた放課後の風景が周囲には広がっていた。

「もう、みんな変なのよー!」

 日葵の叫びは大空に吸い込まれるように消えていった。



 陽翔は日葵と一緒に下校の道を歩いていく。
 ふさぎ込んだ日葵はすっかりと無口だった。
 そのまま家に辿りつく。

「ん」

 そこで陽翔は日葵から鞄を差し出された。冥一号と名付けられたメイド服の入った鞄だ。

「これは?」
「メイド服よ」
「それは分かってるけど、何で僕に?」
「あたしが持ってたら家族が帰ってきた時に変に思われるでしょうが」
「僕だって変に思われるよ」
「あんたの方がまだ誤魔化しが効くでしょうが」
「どんな誤魔化しだよ」

 陽翔は困ったが、日葵に引く気が無いのは明らかだった。
 口論しても無駄なので預かることにしたのだった。


 陽翔は家に入って落ち着いた気分になる。
 いろいろあったが、振り返ってみれば特に事件もないありふれた日常だ。
 頭に猫耳があるということ以外には。
 陽翔だって自分達の頭に突如として生えた猫耳を気にしていないわけではない。
 触ってみる。不思議な物だ。
 床に下ろした鞄を見る。猫耳化を抑えると幸奈が言っていた。
 それはどんなメカニズムなのか。何か猫耳化の手掛かりが掴めるかもしれない。
 謎が解ければ日葵の喜ぶ顔も見れるだろう。
 若干の後ろめたさを感じないではないが、鞄を開ける。
 今は家には誰もいない。それは分かっているが確認する。行動するなら今しか無かった。

「日葵、僕が謎を解いてみるからね」

 陽翔は鞄から冥一号を取り出した。


 数分後。
 手に取って眺めるだけでは何も分からなかったので着てみることにした。

「日葵ごめんよ。でも、これも君の為だからね」

 陽翔は男子としてそれほど身長の高い方ではない。冥一号は少し小さかったけど何とか着れた。
 それにしてもこれで何で猫耳が防げるんだろう。着てみてもよく分からなかった。
 不思議な気分で一回転して、踊ったりもしてみた。
 その時、
 ガチャリ。
 開くはずのないドアがいきなり開いた。顔を覗かせたのは日葵だ。

「陽翔、今日の夜のことで話があるんだけど」

 その表情が凍り付く。それは陽翔も同じだった。
 日葵は怒った顔でずんずんと近づいてきた。

「何であたしの服を着てるのよ!」
「だって猫耳を防げるって言うから気になって」
「もう信じられない! もう! もう!」

 陽翔はむくれる日葵を何とか宥めようとした。

「それで話って何?」
「そんなのどこかへ吹っ飛んでいっちゃったわよ! もう!」

 日葵の怒りはいつまで続くかと思われたが、晩御飯の時間には大分落ち着いてきていた。
 それでもまだ頬を膨らませていたが。
 着替え終わった陽翔はまだ日葵を宥めていた。

「もう機嫌直してよ。服はクリーニングに出しておくから」
「もう着ない」
「困ったな。ほら、晩御飯出来たよ」
「うん」

 日葵は食べる。その表情も随分と緩んできていた。
 美味しい料理は人を幸せにさせる。それは確かだと思える瞬間だった。

「まあ、少しは許してあげてもいいけど。今回だけね」
「ありがとう。それでどうして僕の家に?」
「今日はここで泊まるから」
「え?」

 その意見に陽翔は素っ頓狂な声を上げてしまう。日葵は改めて言い直した。

「ここで泊まるから。良いわよね?」
「良いけど、どうして?」

 日葵の家はすぐ隣だ。帰ればいいだろうにと思ったが、日葵は猫耳を気にしながら答えた。

「寝てる間にさらに猫耳が悪化してたら怖いじゃない。猫になってて誰にも気づいてもらえなかったりさ」
「ああ」

 陽翔は気にしていなかったが、日葵はいろいろと考えてるんだなと思った。
 食べ終わって立ち上がる。

「じゃあ、お風呂入れてくるから」
「うん」

 日葵は心細いのかもしれなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...