There is darkness place

けろよん

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闇の炎と闇の者達

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 魔界でそんな動きがあるとは知らない光輝達。
 途中の空き地で悪魔と一悶着は起こしたが、それからは何事も無く家に着くことが出来た。
 それが希美には腑に落ちないようだった。顔を歪めて考えていた。

「おかしいなあ、あれから一度も悪魔が襲ってこないなんて」
「来ないなら何よりじゃないか」

 光輝はその方がいいと思うのだが、希美は納得しない様子だった。

「だって、お兄ちゃんの炎は悪魔にとって大事な物なんでしょう。だったらもっと大規模に積極的に攻めてきてもいいと思うんだけど……」
「そんなフラグみたいなことを言わなくても……」
「こちらの力を見せたから、敵を警戒させたのかもしれないわね……」

 郁子が呟いて考えた。
 その時だった。

「ワン!」

 玄関横の犬小屋でケルベロスが鳴いた。普通の犬がご機嫌な瞳をして尻尾をせわしなく振っている。

「ただいま、ケルベロス。はっ」

 希美は何かに気づいたように息を呑み込んだ。

「もしかして敵はすでに家に忍び込んでいるのかも」
「おい、嫌な事言わないでくれよ」

 玄関前から家を見上げる光輝。希美が変なことを言うもんだからいつもの家が不穏に感じてしまった。
 何も変わった様子はない。ケルベロスも特に侵入者が来たような異変は伝えていなかった。
 郁子が声を掛けてくる。

「敵の姿が見えなくても罠が仕掛けてある可能性は否定できませんね。調べてくるので待っていてください」
「うん……って何でさっきから敬語が混じってるの?」

 光輝はしばらく前から気になっていたことを訊いてみた。慣れていないらしくたまに混ざる程度だったが。クラスメイトなんだから普通に喋ればいいと思う。
 郁子は答えた。真面目な顔と真っ直ぐな瞳をして。

「あなたが闇の王だって聞いたから。王様って偉いんでしょ?」
「いやいや、王である前に僕らクラスメイトだから。それにここでは普通に暮らしてるし」
「分かったわ。わたしも何か変だと思ってたの。敬語ってよく分からないし、謙譲語って意味分からないし、ご飯を召し上がる時は何が正しいのかと」

 その文句は国語に言ってくれと思いながら、光輝は答える。

「そうだね。気楽にいこ」
「分かったぴー」
「ぴーって何?」

 国語に無いことを光輝は訊ねる。郁子は息を吐いて答える。

「気楽に言ったんだけど……冗談よ。とにかく調べてくるからちょっと待ってて」

 郁子は警戒しながら家に忍び入っていく。

「あの人でも冗談言うんだ」
「だね。言わないのはお兄ちゃんだけだね」
「そうなのか?」

 今は冗談を言うような雰囲気ではない。
 二人は真面目に見送って、待つことにしたのだった。



 静かだ。希美はケルベロスにお手をさせながら光輝に話しかけた。

「静かだね」
「だね」

 良い天気だ。青空が広がっている。小さな雲が流れている。

「こんな日は悪魔は来ないかもな」
「もう来てるかも」
「まさかな」

 少し背伸びをする。

「凛堂さん、遅いな」
「あたし見て来ようか。家を荒らされてたら嫌だし」
「ドジっ子のようには見えなかったけどな」

 悪魔を圧倒する運動能力で剣を振って勇敢に戦っていたことを思い出す。それから職員室で剣を振っていたことも思い出した。

「少し心配なところはあるかもしれないけど」
「本当に少し?」
「多分少し」

 ちょっと気になってそわっとした時だった。不意に周囲が陰って、光輝も希美もそろそろ玄関に向かおうかと思っていた足を止めた。

「雲が出てきたのかな」
「まさかあ。そんな分厚いの無かったよ」

 空を見上げて二人して目を見開いた。
 島が飛んでいた。鳥なら驚かなかったかもしれないが島だった。字は似ているが物は全くの別だ。
 島が飛ぶなんて、ファンタジーでしか見たことのない光景に、光輝も希美もびっくりしてしまった。

「り、凛堂さん!」

 慌てて玄関に駆け込もうとするが、その前に悪魔が空から舞い降りてきて立ち塞がった。
 一匹だけではない。数匹の悪魔が舞い降りてきて、光輝と希美をすぐに取り囲んでしまった。

「家は囮だったのか」
「囮? 何のことか分かりませんね」
「喋ったあ!!」

 光輝も希美もびっくりして声の出どころを見た。
 悪魔が喋っていたのは最初からだったので思えば驚く事では無かったかもしれないが。
 悪魔の後ろから少女が現れた。悪魔に乗ってやってきたようだ。
 美しい少女だった。年は希美とたいして変わらないように見える。黒いドレスを着て妖艶な笑みを浮かべている。
 光輝はどことなく彼女に懐かしい雰囲気を感じた。知らずに彼女の名を呼んでいた。

「リティシア!」
「!!」

 一瞬彼女の目が驚きに見開かれ、すぐに元の表情を取り戻してその笑みが深くなった。

「嬉しいわ。わたしのことを覚えていてくれましたのね、兄様」
「この人、お兄ちゃんの前世の妹!?」

 希美も驚愕してしまう。リティシアの目がちらりとそちらを伺うが、光輝には構う余裕が無かった。
 何か大きな違和感があった。それを掴もうとして、一瞬見えた。その思いをそのまま口にした。

「僕の知ってるリティシアは……」
「?」

 リティシアが不思議そうに光輝を見る。前世の妹とはいえ美少女に見られているのを意識しながら光輝は言った。正直に素直に、考えるよりも行動に任せて。

「もっと変な喋り方をしていたような」

 途端にリティシアが感情を爆発させたように叫んだ。

「変な喋り方違うわああ!」

 足で地面を強く踏みしめて近づいてくる。さっきまでの高貴な印象はどこに行ったのだろう。
 だが、光輝には分かった。これがリティシアだ。彼女は不満を顔に乗せて、指先をびしっと突きつけてきた。

「お兄ちゃんは勝手に黙って出ていったくせに最初に言うことがそれって何やのん!?」
「悪かったよ。怒らないでよ」
「いいや、言わせてもらうわああ!」
「リティシア様!!」

 静止させたのは司祭の声だった。緊張に震える空気に光輝と希美は身構え、リティシアは振り返って純粋な子供みたいな笑顔を見せた。

「お爺ちゃん!」
「リティシア様、王らしく、ですぞ」
「そうでしたね、失礼しました」

 リティシアはコホンと咳払い。再び元の悪魔の令嬢めいた笑みを取り戻して光輝に向かって言った。
 もう無駄なんだけど、とは言わない方がいいような空気だ。希美も空気を読んでいる。
 リティシアは淡々と自分の用件を告げる。まるで学芸会を頑張る子供のように今の光輝には見えていた。

「わたしは兄様の炎を受け取りに来たのです。譲ってはいただけませんか?」
「この炎って譲れるの? 怪我したりしない?」
「わたしは兄様の妹ですよ。受け継ぐ資格を持っているのです」
「そやろか」
「そうです」
「…………」

 光輝は少し考え、自分の手を見つめ、親指で中指を抑えてそれを涼し気な笑みを見せるリティシアに向けた。

「ちょっとこっち来て」
「?」

 言われるままに近づいてくる前世の妹。
 光輝は不思議そうに見るリティシアの額に向けてその指を放った。

「あいたあ!」

 デコピンを食らって痛そうに声を上げてしゃがむリティシア。驚いたゼネルが声を上げるよりも早く、彼女はすぐに立ち上がって文句を言ってきた。

「いきなり何するん、お兄ちゃん!」
「いや、本当にリティシアかと思って。変な演技を続けてるから」
「変な演技違うわ! お兄ちゃんに代わって王になるために王らしく振る舞ってるんや!」
「ああ、何か懐かしいなあ、これ。本当にリティシアだ。何か思いだしてきたぞ」
「あたしだって懐かしいわ! あたしはすぐにお兄ちゃんやって分かったのに……頑張ったんやから褒めてくれたってええやんか!」
「ああ、偉い偉い」
「そゆのやなーーーい!」
「いちゃつくのはそれぐらいにしてもらおう!」

 さらに言い合いを続けようとした兄妹をゼネルの声が遮った。リティシアは落ち着いて一歩下がった。そして片手を差し出して言った。

「お兄ちゃん、闇の炎くれ」
「…………」

 リティシアはもう取り繕わなかった。単刀直入に用件だけ述べた。
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