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第2話 僕と彼女の缶コーヒー

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 缶コーヒーを一本買った。
 そしてちょっと公園のベンチに座って飲もうとした時だった。人の気配を感じた。目を上げると、そこに立っていたのは美緒さんだった。彼女は僕を見つめながら言った。

「……どうして?」
「えっ? 何がですか?」
「どうしてあなたが私と同じ缶コーヒーを買っているのよ?」
「ああ、偶然ですね。びっくりしました」

 僕はそう言って笑ったが、内心では冷や汗を流していた。美緒さんは僕の手の中にある缶コーヒーを見て、それから自分の手元にある缶コーヒーを見た。それから顔を上げて、もう一度僕の顔をじっと見つめた。

「偶然じゃないわね。これは計画的犯行だわ」
「なんのことですかね?」
「とぼけないで。あなたは私があの自動販売機を使う事を知っていた。それでわざと先回りをしてあの自動販売機で同じ缶コーヒーを買ったんでしょ?」

 僕は首を横に振った。

「そんなことしませんよ。あの自動販売機はこの缶コーヒーが100円なんです。缶コーヒー如きで130円も払いたくないでしょう? ですからあそこで買ったに過ぎないのです」
「嘘つきなさい!」

 美緒さんは語気を強めた。彼女の持っている缶コーヒーは震えていた。

「あなたが私をつけていたことには気づいていたんだから! だから私はわざと今日あの自動販売機の前を通ったのよ。そしたら案の定、あなたは私と同じように缶コーヒーを買っていた。しかも私と同じように財布を出してお金を入れてボタンまで押して。つまり、あなたの目的は最初から缶コーヒーなんかじゃなかったって事よ!」

 美緒さんの指摘に僕は観念した。

「おみそれいたしました」

 僕は素直に謝った。ここで自販機を使うのに財布を出してお金を入れてボタンを押すのは普通だろうと指摘するほど僕は野暮では無い。
 事はもうそうした事を指摘する段階ではないのだ。認めようじゃないか。すると美緒さんは深いため息をついた。

「……どうしてこんなことをするわけ?」
「美緒さんと一緒にいたかったんですよ」
「…………」
「昨日は本当に楽しかったです。でも、それだけじゃ足りなくなってしまったんです。もっと美緒さんと一緒にいたいと思うようになってしまった……昨日は30円貸してくれてありがとうございます。」
「缶コーヒーなんてスーパーに行けば70円で買えるでしょ?」
「だって、それじゃめんどくさいじゃないですか」
「生ぬるい事を」

 僕達はベンチに座りながらしみじみと缶コーヒーを飲むのだった。
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