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第1章
第1話
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「婚約を破棄する!」
突然のことに、私は頭が真っ白になった。
「……え?」
「お前との婚約は解消だ! 今後、私に近づくな」
「で、殿下……?」
「なんだ? 文句があるのか? あるなら言ってみろ!」
「いえ……」
「ふんっ、どうせお前は私に不満があるのだろう? だからこんな馬鹿な真似をしたんだ」
「そんな……ことは……」
「黙れ! 言い訳など聞きたくもない! いいか、よく聞けよ? 貴様のような性悪女と口を利いてやっただけでも感謝しろ!」
「…………」
あまりのショックに、何も言葉が出てこなかった。
どうして……? どうしてこんなことになったの……? 私が何かした? ただ、好きな人と一緒になりたかっただけなのに……。
それが、そんなに悪いことだったの……?
「ふん、少しは反省したようだな。だが、まだ甘いぞ。お前がこれまで私にしてきた仕打ちに比べれば、この程度で済むと思うなよ。これからじっくり償ってもらうからな」
「……」
「まあ、いい。今日はこの辺にしておいてやる。だが、次からは覚悟しておけよ。いいな?」
それだけ言うと、殿下は踵を返して去っていった。
私は呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。
それから、どうやって屋敷まで帰ってきたのか覚えていない。
気がつくと、自分の部屋にいた。
ベッドに横になって天井を見つめる。
『これからは口も利かない』
殿下の言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。……ああ、そうだ。
あれは夢だったんだ。
全部悪い夢だったんだ。
きっと、そうに違いない。だって、あんなに優しかった殿下が急にあんなことを言うはずがないもの。
うん、そうよ。そうに決まって――。
「……っ!?」
突然、視界が歪んだかと思うと、涙があふれてきた。
「ううっ……ひぐっ……うわあああああああん……!」
一度溢れ出すと、もう止まらなかった。
私は大声で泣き続けた。
どれくらい時間が経っただろう。いつの間にか泣き疲れて眠ってしまったようだ。
目が覚めると、外はすっかり暗くなっていた。
(お腹すいたな……)
食欲はなかったが、喉は渇いていたので水を飲むことにした。
部屋を出て階段を降りる。すると、玄関ホールの方から話し声が聞こえてきた。
来客のようだ。一体誰だろう? 不思議に思って行ってみると、そこには両親の姿があった。
二人は深刻な顔をして何かを話していたが、私に気づくと揃って顔を上げた。
そして、父が口を開いた。
「……シャーロット、大事な話があるんだ」
「お父様、お母様、どうなさったのですか?」
二人がこんな時間に訪ねてくるなんて珍しい。何かあったのだろうか。
「実はね……」
母が言い淀む。父は厳しい表情をして言った。
「シャーロット、お前に縁談が来た」
「え……?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
今、何て……? 縁談……? 誰が……? 私に……? ようやく言葉の意味を理解した時、目の前が真っ暗になったような気がした。
「……どうしてですか? 私には殿下が……」
思わず尋ねていた。声が震えているのがわかる。
「それはもう終わった話だろう? 家の名前に泥を塗りおって。相手は公爵家のご子息だ。お前にとってはこれ以上ない良縁だと思う」
公爵様と言えば、王家に次ぐ名家である。しかも、その嫡男となれば申し分ないだろう。でも、そんなのどうでもいい。そんなことより、私にはもっと大切なことがあるのだから。
「嫌です! お断りしてください!」
私は必死になって訴えた。あんな仕打ちを受けたばかりで冗談ではない。
あれはきっと誤解で殿下は誰かに騙されているだけなのだから。
しかし、返ってきた言葉は無情なものだった。
「駄目だ。これは既に決まったことなのだから」
「そんな……! お父さ――」
「くどいぞ、シャーロット」
強い口調で言われて、私はビクッとなった。
恐る恐る顔を上げると、父の冷たい視線と目が合った。背筋がゾクッとする。まるで別人のような目つきをしていた。
「お前の我が儘で家の格を落とすつもりか? そんな勝手は許さん」
「……」
何も言えなかった。確かにその通りだと思ったからだ。黙り込む私を見て、母は悲しげな顔をした。
「シャーロット、あなたはとても優しい子よ。それは私たちもよくわかっているわ。でもね、だからこそ辛い思いをしてきたことも知っているの。あなたが自分の気持ちを殺して生きてきたことを私たちはずっと見てきたのよ」
母の目に涙が浮かぶ。それを見て胸が痛んだ。
「だから、幸せになってほしいの。そのために私たちができることがあるなら何でもするわ。たとえ、どんなことをしてでも」
「母上の言う通りだ。お前が幸せに暮らせるなら、それでいいのだ」
二人の気持ちは嬉しかった。私のことを心から心配してくれているのがわかったから。だけど、それでも私は頷けなかった。
「ですが、それではお義父様が……!」
私の言葉を遮って、父が言う。
「父上のことは心配しなくていい。全てこちらに任せておけ」
そう言われてしまっては、それ以上反論できなかった。
こうして、私に新しい婚約者ができたのだった。
突然のことに、私は頭が真っ白になった。
「……え?」
「お前との婚約は解消だ! 今後、私に近づくな」
「で、殿下……?」
「なんだ? 文句があるのか? あるなら言ってみろ!」
「いえ……」
「ふんっ、どうせお前は私に不満があるのだろう? だからこんな馬鹿な真似をしたんだ」
「そんな……ことは……」
「黙れ! 言い訳など聞きたくもない! いいか、よく聞けよ? 貴様のような性悪女と口を利いてやっただけでも感謝しろ!」
「…………」
あまりのショックに、何も言葉が出てこなかった。
どうして……? どうしてこんなことになったの……? 私が何かした? ただ、好きな人と一緒になりたかっただけなのに……。
それが、そんなに悪いことだったの……?
「ふん、少しは反省したようだな。だが、まだ甘いぞ。お前がこれまで私にしてきた仕打ちに比べれば、この程度で済むと思うなよ。これからじっくり償ってもらうからな」
「……」
「まあ、いい。今日はこの辺にしておいてやる。だが、次からは覚悟しておけよ。いいな?」
それだけ言うと、殿下は踵を返して去っていった。
私は呆然としたまま、その場に立ち尽くしていた。
それから、どうやって屋敷まで帰ってきたのか覚えていない。
気がつくと、自分の部屋にいた。
ベッドに横になって天井を見つめる。
『これからは口も利かない』
殿下の言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。……ああ、そうだ。
あれは夢だったんだ。
全部悪い夢だったんだ。
きっと、そうに違いない。だって、あんなに優しかった殿下が急にあんなことを言うはずがないもの。
うん、そうよ。そうに決まって――。
「……っ!?」
突然、視界が歪んだかと思うと、涙があふれてきた。
「ううっ……ひぐっ……うわあああああああん……!」
一度溢れ出すと、もう止まらなかった。
私は大声で泣き続けた。
どれくらい時間が経っただろう。いつの間にか泣き疲れて眠ってしまったようだ。
目が覚めると、外はすっかり暗くなっていた。
(お腹すいたな……)
食欲はなかったが、喉は渇いていたので水を飲むことにした。
部屋を出て階段を降りる。すると、玄関ホールの方から話し声が聞こえてきた。
来客のようだ。一体誰だろう? 不思議に思って行ってみると、そこには両親の姿があった。
二人は深刻な顔をして何かを話していたが、私に気づくと揃って顔を上げた。
そして、父が口を開いた。
「……シャーロット、大事な話があるんだ」
「お父様、お母様、どうなさったのですか?」
二人がこんな時間に訪ねてくるなんて珍しい。何かあったのだろうか。
「実はね……」
母が言い淀む。父は厳しい表情をして言った。
「シャーロット、お前に縁談が来た」
「え……?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
今、何て……? 縁談……? 誰が……? 私に……? ようやく言葉の意味を理解した時、目の前が真っ暗になったような気がした。
「……どうしてですか? 私には殿下が……」
思わず尋ねていた。声が震えているのがわかる。
「それはもう終わった話だろう? 家の名前に泥を塗りおって。相手は公爵家のご子息だ。お前にとってはこれ以上ない良縁だと思う」
公爵様と言えば、王家に次ぐ名家である。しかも、その嫡男となれば申し分ないだろう。でも、そんなのどうでもいい。そんなことより、私にはもっと大切なことがあるのだから。
「嫌です! お断りしてください!」
私は必死になって訴えた。あんな仕打ちを受けたばかりで冗談ではない。
あれはきっと誤解で殿下は誰かに騙されているだけなのだから。
しかし、返ってきた言葉は無情なものだった。
「駄目だ。これは既に決まったことなのだから」
「そんな……! お父さ――」
「くどいぞ、シャーロット」
強い口調で言われて、私はビクッとなった。
恐る恐る顔を上げると、父の冷たい視線と目が合った。背筋がゾクッとする。まるで別人のような目つきをしていた。
「お前の我が儘で家の格を落とすつもりか? そんな勝手は許さん」
「……」
何も言えなかった。確かにその通りだと思ったからだ。黙り込む私を見て、母は悲しげな顔をした。
「シャーロット、あなたはとても優しい子よ。それは私たちもよくわかっているわ。でもね、だからこそ辛い思いをしてきたことも知っているの。あなたが自分の気持ちを殺して生きてきたことを私たちはずっと見てきたのよ」
母の目に涙が浮かぶ。それを見て胸が痛んだ。
「だから、幸せになってほしいの。そのために私たちができることがあるなら何でもするわ。たとえ、どんなことをしてでも」
「母上の言う通りだ。お前が幸せに暮らせるなら、それでいいのだ」
二人の気持ちは嬉しかった。私のことを心から心配してくれているのがわかったから。だけど、それでも私は頷けなかった。
「ですが、それではお義父様が……!」
私の言葉を遮って、父が言う。
「父上のことは心配しなくていい。全てこちらに任せておけ」
そう言われてしまっては、それ以上反論できなかった。
こうして、私に新しい婚約者ができたのだった。
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