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第1章
第3話
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リビングに入ると、早速お茶の準備を始めた。お湯を沸かしている間に茶葉を用意する。紅茶の葉が入った缶を開けると良い香りが漂ってきた。思わず頬が緩む。
この匂いが好きだなあと思いながら準備をしていると、不意に声をかけられた。振り向くと、そこにはウィルが立っていた。
「手伝うよ」
「え……? でも……」
戸惑っている私をよそに、彼は手際よく準備を進めていく。結局、ほとんどお任せする形になってしまった。申し訳なく思いながらも素直に甘えることにする。
やがて準備が整うと、私たちは向かい合って座った。そして、まずはお茶を一口飲む。口の中に爽やかな味わいが広がり、心が落ち着くような気がした。
美味しい……と思っていると、彼が口を開いた。
「それで、何があったの?」
いきなり核心を突いてきた質問にドキッとしたけれど、何とか平静を装って答えた。
「別に何も……」
誤魔化そうとしたけれど、無駄だったようだ。彼は鋭い視線を向けてきた。その瞳からは逃れられないと思ったので正直に話すことにした。
「……実は友達に酷いことを言われて落ち込んでたんだ」
婚約を破棄されたとまで伝えると大げさに取られかねないと思ったのでそう告げると、彼は意外そうな顔をした。
「君が? 信じられないな」
「本当なんだよ」
「そっか……でも、大丈夫だよ」
そう言って微笑みかけてくれた。それだけで救われたような気分になった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
その後も会話は続いた。学校での出来事や家族のこと、趣味などについて色々と話した。話題は尽きなかった。お互いに共通の話題があったからかもしれない。
気が付くと一時間近くが経過していた。
さすがにこれ以上引き留めるのは悪いと思い、そろそろ終わりにしようかと考えていた時だった。突然、彼がこんなことを言い出したのだ。
「あのさ、もし嫌じゃなかったらなんだけど……僕と付き合わない?」
突然の告白に頭が真っ白になったが、すぐに我に返った私は慌てて返事をした。
「ええっ!? あのっ! それってどういう意味……?」
すると、彼は真面目な顔で答えた。
「そのままの意味だけど」
それを聞いて私の顔が真っ赤に染まるのがわかった。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったので動揺してしまったのである。
(ど、どうしよう……!)
嬉しいという気持ちはあったが、それ以上に不安の方が大きかった。何故なら彼には婚約者がいるはずだからである。私の脳裏には先日会った女性のことが浮かんでいた。彼女はとても綺麗な人だったけれど、何故か好きになれそうになかった。理由はよくわからないけれど、何となく嫌だと感じたのである。もしかしたら嫉妬していたのかもしれない。そう思うと恥ずかしくなってしまった。
「……駄目かな?」
黙り込んでいると、彼が心配そうに聞いてきたのでハッと我に返る。
「ううん、そんなことないよ!」
そう答えると、嬉しそうに微笑んだ。
「よかった」
こうして、私たちは付き合うことになったのだった。
次の日、いつものように学校に行くと友人たちに囲まれた。みんな興味津々といった様子で話しかけてくる。どうやら昨日のことについて聞きたいらしい。適当にはぐらかしていると、そのうちの一人がニヤニヤしながら尋ねてきた。
「ところでさ、昨日何かあったでしょ?」
ぎくりとして冷や汗が流れるのを感じたが、どうにか平静を装って聞き返す。
「何かって……何のこと?」
しかし、相手は追及の手を緩めようとはしなかった。それどころか余計にヒートアップしていく始末だ。どうしたものかと考えていると、そこにウィルが現れた。友人の一人が言う。
「あ、ちょうどいいところに! ねえねえ、教えてよー」
彼は困ったような顔をしていたが、やがて諦めたのか話し始めた。その内容を聞いているうちに私は段々と顔が青ざめていった。何と、私と彼が付き合っているという噂が流れていたのだ。
しかも、それが事実だということになっているらしく、周囲からは祝福の声まで聞こえてきた。
あまりのことに愕然としていると、彼が近づいてきて声をかけてきた。
「おはよう」
「おはようございます……」
消え入りそうな声で返事をすると、彼も気まずそうに挨拶を返してきた。どうやら噂のことは知らなかったようだ。私は意を決して彼に尋ねた。
「あの……どうして……?」
すると、彼はあっさりと教えてくれた。
「ああ、それ? 僕がみんなに頼んだんだ」
「え……?」
驚いて固まっていると、彼はさらに続けた。
「君に近づこうとする奴らを追い払ってくれってね」
悪びれた様子もなく平然と言ってのける彼を見て絶句するしかなかった。この人は一体何を考えているのだろう?
(どうしてそんなことを……?)
疑問に思っていると、彼の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
「だって、君は僕のものだから」
一瞬何を言われたのか理解できなかったが、すぐに意味を理解した私は慌てて否定した。
「ち、違うもん!」
だが、彼は聞く耳を持たないようで一方的に話し続けた。
「違わないよ。僕は君のことが好きだから、誰にも渡したくないんだよ」
真っ直ぐに見つめられてそう言われると何も言えなくなってしまった。顔が熱くなるのがわかる。きっと真っ赤になっているに違いないだろう。
恥ずかしくて俯いていると、いつの間にか目の前に来ていた彼が私の手を取った。そして指を絡めるようにして握ってくる。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。初めての経験だったので驚いたものの、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ嬉しかったくらいだ。
しばらくの間そうしていたのだが、やがて手を離してしまった。少し残念だったが仕方がないと思うことにする。なぜならこれから授業が始まるからだ。いつまでもこうしているわけにはいかないのである。
私は名残惜しい気持ちを振り払いながら自分の席へと向かったのだった――。
この匂いが好きだなあと思いながら準備をしていると、不意に声をかけられた。振り向くと、そこにはウィルが立っていた。
「手伝うよ」
「え……? でも……」
戸惑っている私をよそに、彼は手際よく準備を進めていく。結局、ほとんどお任せする形になってしまった。申し訳なく思いながらも素直に甘えることにする。
やがて準備が整うと、私たちは向かい合って座った。そして、まずはお茶を一口飲む。口の中に爽やかな味わいが広がり、心が落ち着くような気がした。
美味しい……と思っていると、彼が口を開いた。
「それで、何があったの?」
いきなり核心を突いてきた質問にドキッとしたけれど、何とか平静を装って答えた。
「別に何も……」
誤魔化そうとしたけれど、無駄だったようだ。彼は鋭い視線を向けてきた。その瞳からは逃れられないと思ったので正直に話すことにした。
「……実は友達に酷いことを言われて落ち込んでたんだ」
婚約を破棄されたとまで伝えると大げさに取られかねないと思ったのでそう告げると、彼は意外そうな顔をした。
「君が? 信じられないな」
「本当なんだよ」
「そっか……でも、大丈夫だよ」
そう言って微笑みかけてくれた。それだけで救われたような気分になった。
「ありがとう」
「どういたしまして」
その後も会話は続いた。学校での出来事や家族のこと、趣味などについて色々と話した。話題は尽きなかった。お互いに共通の話題があったからかもしれない。
気が付くと一時間近くが経過していた。
さすがにこれ以上引き留めるのは悪いと思い、そろそろ終わりにしようかと考えていた時だった。突然、彼がこんなことを言い出したのだ。
「あのさ、もし嫌じゃなかったらなんだけど……僕と付き合わない?」
突然の告白に頭が真っ白になったが、すぐに我に返った私は慌てて返事をした。
「ええっ!? あのっ! それってどういう意味……?」
すると、彼は真面目な顔で答えた。
「そのままの意味だけど」
それを聞いて私の顔が真っ赤に染まるのがわかった。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったので動揺してしまったのである。
(ど、どうしよう……!)
嬉しいという気持ちはあったが、それ以上に不安の方が大きかった。何故なら彼には婚約者がいるはずだからである。私の脳裏には先日会った女性のことが浮かんでいた。彼女はとても綺麗な人だったけれど、何故か好きになれそうになかった。理由はよくわからないけれど、何となく嫌だと感じたのである。もしかしたら嫉妬していたのかもしれない。そう思うと恥ずかしくなってしまった。
「……駄目かな?」
黙り込んでいると、彼が心配そうに聞いてきたのでハッと我に返る。
「ううん、そんなことないよ!」
そう答えると、嬉しそうに微笑んだ。
「よかった」
こうして、私たちは付き合うことになったのだった。
次の日、いつものように学校に行くと友人たちに囲まれた。みんな興味津々といった様子で話しかけてくる。どうやら昨日のことについて聞きたいらしい。適当にはぐらかしていると、そのうちの一人がニヤニヤしながら尋ねてきた。
「ところでさ、昨日何かあったでしょ?」
ぎくりとして冷や汗が流れるのを感じたが、どうにか平静を装って聞き返す。
「何かって……何のこと?」
しかし、相手は追及の手を緩めようとはしなかった。それどころか余計にヒートアップしていく始末だ。どうしたものかと考えていると、そこにウィルが現れた。友人の一人が言う。
「あ、ちょうどいいところに! ねえねえ、教えてよー」
彼は困ったような顔をしていたが、やがて諦めたのか話し始めた。その内容を聞いているうちに私は段々と顔が青ざめていった。何と、私と彼が付き合っているという噂が流れていたのだ。
しかも、それが事実だということになっているらしく、周囲からは祝福の声まで聞こえてきた。
あまりのことに愕然としていると、彼が近づいてきて声をかけてきた。
「おはよう」
「おはようございます……」
消え入りそうな声で返事をすると、彼も気まずそうに挨拶を返してきた。どうやら噂のことは知らなかったようだ。私は意を決して彼に尋ねた。
「あの……どうして……?」
すると、彼はあっさりと教えてくれた。
「ああ、それ? 僕がみんなに頼んだんだ」
「え……?」
驚いて固まっていると、彼はさらに続けた。
「君に近づこうとする奴らを追い払ってくれってね」
悪びれた様子もなく平然と言ってのける彼を見て絶句するしかなかった。この人は一体何を考えているのだろう?
(どうしてそんなことを……?)
疑問に思っていると、彼の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
「だって、君は僕のものだから」
一瞬何を言われたのか理解できなかったが、すぐに意味を理解した私は慌てて否定した。
「ち、違うもん!」
だが、彼は聞く耳を持たないようで一方的に話し続けた。
「違わないよ。僕は君のことが好きだから、誰にも渡したくないんだよ」
真っ直ぐに見つめられてそう言われると何も言えなくなってしまった。顔が熱くなるのがわかる。きっと真っ赤になっているに違いないだろう。
恥ずかしくて俯いていると、いつの間にか目の前に来ていた彼が私の手を取った。そして指を絡めるようにして握ってくる。いわゆる恋人繋ぎというやつだ。初めての経験だったので驚いたものの、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ嬉しかったくらいだ。
しばらくの間そうしていたのだが、やがて手を離してしまった。少し残念だったが仕方がないと思うことにする。なぜならこれから授業が始まるからだ。いつまでもこうしているわけにはいかないのである。
私は名残惜しい気持ちを振り払いながら自分の席へと向かったのだった――。
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