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『ぼくが配下のだめ忍者を従えて姫プさせる配信』

DV彼氏姫様とその被害者の忍者

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「やっほ~! お待たせ、まっちゃ~? 略してお抹茶~! みんな大好き茶緑ガラシャちゃんがやって来たぞ~! そして~?」

「おそようにござる! 嵐魔琥太郎、只今参上つかまつった!! 本日はよろしくお願いするでござる!」

 つい数秒前にやっていた茶番から一転して、まともな自己紹介を行う二人。
 そうした後で自由気ままに動き回り始めたガラシャが、ぴったりと閉まった防火扉を開き、その先の光景を見せつけながら言う。

「どうよ、抹茶兵!? この数のゾンビとか、あんまし見たことないっしょ!?」

「き、聞いてはいたでござるが、すごい数でござるな……! 今からこの中に飛び込むとなると、ちょっと緊張するでござる」

 広いショッピングモールを埋め尽くす死霊の群れ。
 一昔前ののろのろとした動きのゾンビたちではあるが、それが百、二百と並んでいるとなると圧倒されるものがある。

 『パラダイスオブデッド』……それが今、二人がプレイしているゲームだ。
 ショッピングモールを舞台に、そこに落ちている様々な物を活用して並み居るゾンビたちをなぎ倒しながらアウトブレイクの真相を探っていくという、ゾンビゲームと無双ゲームを組み合わせたような特異な内容ではあるが、程良い難易度とバカゲー感のあるコンセプトが人気を博してるゲームでもあった。

「たださ~、普通にこのゲームをプレイしても面白くないじゃん? というわけで、今回は縛りプレイで攻略していくぞ~! 内容はただ一つ! ぼくは一切の武器を持たず、攻撃もしない! ゾンビと戦うのはこたりょ~だけだ!」

「……改めて思うんでござるけど、これって拙者がとんでもない負担を強いられていないでござるか?」

「はぁ~? お前、忍者だろ~? 姫であるぶぉくを守るのが役目なのに、それを負担とか言ってんじゃねえよ~! ゾンビ程度楽勝だろ~? 何だったら分身の術とか使って、今すぐに全滅させてこいよ~!」

「痛いでござる! 痛いでござる! 殴るのは止めてくだされ、姫!!」

 ボカッ、バキッ、と音を響かせながら、ゲームの中で琥太郎を折檻するガラシャ。
 彼女の攻撃で体力をごっそり削られた琥太郎が地べたに転がる中、スッキリした様子のガラシャが再び防火扉を開いてから言う。

「ほら、こたりょ~! いつまでも寝てないで、そろそろ行くぞ! このゲーム、トゥルーエンドを見るためにはきちんとフラグを回収していかなくちゃいけないんだからな! ぼくについて来い!! そして命を懸けて守れ!」

「ぎょ、御意!」

 敵キャラしかいないステージを、我が物顔で闊歩し始めるガラシャ。
 当然ながら美味しいご飯である彼女の下へ殺到してくるゾンビたちを、琥太郎は必死に押し返していく。

「姫! 思ったより敵の数が多いんでござるが、武器とかないんでしょうか!?」

「その辺の物なら全部武器にできるぞ~! それが特色のゲームだからな!」

「あ、そうなんでござるね。では、失敬して……」

 一生懸命に素手でゾンビに立ち向かっていた琥太郎が流石にこの数を一人で倒すのは無理と判断してガラシャへと助言を求めれば、彼女は無邪気に走り回りながら『パラダイスオブデッド』の醍醐味とでもいえる、目に見える物は大体武器であるとの情報を教えてくれた。
 言われるがまま、近くに置いてあったベンチを担ぎ上げた琥太郎は、それを振り回して群がるゾンビをなぎ倒していく。

「おおっ! これは楽ちんでござるな! 一発で大量の亡者共を倒せるようになったでござるよ!」

「ようやっとこたりょ~もこのゲームのミソを理解し始めたみたいだな~! アドバイスしてやったぶぉくに感謝しろ~?」

「ははっ、ご助言ありがとうにござる! ……って、姫!? なんかすごい数の敵に囲まれてないでござるか!?」

「気付くのがおっせ~んだよ~! 早くぼくを助けろ、こたりょ~!!」

「は、はっ! 了解でござる!!」

 琥太郎がゲームの操作や内容を確認している間にすっかりゾンビたちに取り囲まれてしまったガラシャが偉そうに彼へと命令する。
 大慌てでベンチを手にゾンビの大群に突っ込み、彼女を助け出すために戦い続ける琥太郎であったが……?

「あ痛った~っ! こたりょ~、お前! ぼくを殴ったな!?」

「す、すみません! ついうっかり巻き込んでしまいました!!」

 勢い余って、ゾンビ諸共ガラシャのことを攻撃してしまった。
 彼に吹き飛ばされたガラシャは怒り心頭といった様子で立ち上がると、即座に琥太郎へと飛び掛かり、折檻を加える。

「このっ! 守るべき姫をぶっ飛ばすだなんて、忍者失格だろ!! だめ忍者! へっぽこ! ぶぉくの痛みを思い知れ!!」

「ぎゃんっ! おぎゃんっ!?」

 飛び蹴りからのダウン追い打ちからの取り落としたベンチを拾ってからの立ち上がった琥太郎への追撃という、流れるようなコンボ攻撃で彼を攻め立てるガラシャ。
 箸より重い物は持てないという設定をかなぐり捨てた彼女の猛攻にみるみる体力を削られた琥太郎が床に突っ伏す中、彼へのお仕置きを終えて満足したガラシャが近くの酒店へと入り、冷蔵庫を物色し始める。

「おっ! ビールが山ほどあるじゃ~ん! うっひょ~! 飲み放題だぜ~!」

「ひ、姫……こう言うのはなんですが、まだ姫は二十歳未満なのだから飲酒はご法度では? 先ほどから設定を打ち捨て過ぎではござりませんかね……?」

「うるちゃい! Vtuberの設定なんてもんはな、二週間もあればぶん投げられるもんなんだよ! これまでどれだけ清楚()って呼ばれてるVが生まれてると思ってるんだ!?」

「メタいでござる! それ以上は禁句でござるよ、姫!!」

「ごちゃごちゃ言ってないでお前も飲め! ぼくの奢りだっ!! これでも食らえっ!」

「痛いっ! ビール瓶を全力で投げつけないで! あっ、死んだ! 今ので体力が尽きたでござるよ!?」

「は~? 投げられた物をキャッチすらできないのかよ? 本当にこたりょ~はだめな忍者だな~……!」

 最初からそうするつもりでビール瓶を投擲したガラシャが、HPがゼロになったことで倒れ伏した琥太郎の下へと歩み寄る。
 その手に新品のビールを持った彼女は、蘇生待機状態の忍者の前でしゃがみ込むと、これまでと打って変わった優しい声色で彼へと語り掛けていった。

「まったく、こたりょ~はしょうがない奴だな~。お前みたいなだめ忍者を雇ってやる優しいお姫様はぼくくらいのもんだぞ? ほら、今蘇生してあげるから、大人しくしとけよ~……」

「うぅ、ありがたき幸せ……! でもこれやってることがほとんどDV彼氏のそれでござるよ……」

 あまりにも凶悪過ぎる飴と鞭のコンボに翻弄される琥太郎が半泣きの声で嘆く。
 配信が終わった後、このシーンを見たリスナーたちの手によって、ガラシャに膝枕された彼が口にビール瓶を突っ込まれて顔を青くしているファンアートが多数生成されるのだが、それはあともう少し先の話である。
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