ある日、ぶりっ子悪役令嬢になりまして。

桜あげは

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子供編・学園編(一年目一学期)まとめ

改・子供時代(ハートのJ)2

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 城の魔法棟は、この国屈指の魔法使い達が働いている場所で、父の職場でもある。
 そんな魔法棟で俺を出迎えたのは、お花畑のようなピンク色の頭の小柄な少女だった。
 どうせ、脳みその中もお花畑なのだろう。デボラとデジレやその取り巻きの少女達のように。
 俺は、甘ったれた貴族の子供というものが総じて大嫌いだ。

「はじめまして、カミーユ様。アシル・ジェイドと申します」

 彼女に視線を合わせて、義姉妹達の時と同じようにニッコリと微笑んでやる。
 俺の姉妹よりもカミーユのほうが断然美少女だし、役に立ちそうなら多少は遊んでやってもいい。
 それに、今仲良くなっておけば、将来的に侯爵家を継げるようになるかもしれない。

 それなのに……
 目の前の女は、真っ赤になるどころか、興味深そうに俺を観察しだした。
 なんなんだ、この女。

「はじめまして、カミーユ・ロードライトと申します」

 カミーユは、何事もなかったかのようにスカートの裾を摘んで、ちょこんと貴族令嬢のお辞儀をする。
 父から、「仕事をして来る間、カミーユと二人で遊んでいなさい」と言われた。折角なので、この機会を活用させてもらおう。

「カミーユ様は、魔法が得意だと父から聞きました。もう中級魔法まで進んでいるとか……」

 とりあえず、知っている情報でカミーユを煽ててみる。褒められて気を悪くする人間はいないだろう。
 だが、彼女は俺の思惑から外れた回答を寄越してきた。

「カミーユでいいよ。同じ年だし、あなたの態度云々で騒ぎ立てたりしないから気を使わないで」

 カミーユは、急にくだけた口調になると、俺にも同じように振る舞えと要求してくる。
 正直、堅苦しいのは好きではないので、その方がありがたいのだが……
 侯爵令嬢である彼女が、このようなくだけた話し方をするのは意外だった。
 貴族の令嬢って言うのは、ウチの義姉妹みたいにもっと気取っているものかと思っていたんだけど。

「私は、アシルはとても頭が良いってソレイユに聞いたよ。勉強が好きなの?」

 あの父親は他所の家の子供にまでそんなことを言って回っているのか。
 恥ずかしくていたたまれない。
 俺は、動揺を顔に出さない様に、表情筋に力を入れた。

「ああ、勉強くらいしかすることがないんだ。あまり部屋を出るなと言われているから……」

 主に義母に。
 カミーユは俺の境遇に同情してくれるだろうか、もし俺に同情して手を差し伸べてくれたなら……こっちのものだ。
 しかし、やはり彼女は、俺の思い通りに動いてはくれなかった。

「せっかく、久々に外出できたんだしパーッと遊ばない?」

 何を思ったのか……
 カミーユは急に部屋に置いてあった箒に跨がり、俺に箒の後ろに乗れと言ってくる。
 彼女の思考回路が全く分からない。
 渋っていると、カミーユが俺の手を取って無理矢理箒の後ろに乗せる。
 俺が跨った途端に、箒がフワリと浮き上がった。

 カミーユと俺を乗せた箒は、窓から勢いよく外へと飛び出す。
 箒に跨がるカミーユは、遠慮なしにぐんぐん高度を上げた。
 彼女が、魔法が得意というのは本当のようだ。
 けれど、俺を巻き込まないで欲しい。
 慣れない浮遊する感覚には、流石の俺も戸惑ってしまう。
 それに、カミーユに翻弄されっぱなしというのは、ちょっと悔しい……

「アシル、しっかり箒につかまっていてね!」
「……」

 カミーユは箒につかまれと言ったけれど、急に飛び立った彼女への意趣返しの意味も込めて彼女の腰に腕をまわしてみた。別に変じゃないよね?
 カミーユは、他の貴族令嬢達のように恥ずかしがって真っ赤になってくれるだろうか……
 前を見て彼女の反応を伺うが、生憎少しも動揺してくれていない。
 面白くないな……

 城の庭は、ジェイド子爵邸なんかの比ではないくらい広かった。
 上空から見る景色はとても興味深い。
 箒の感覚にも、だんだんと体が慣れてきた。

「カミーユ……は、どこへ向かう気なの?」
「んー、決めてない。取りあえずお城の周りを大きく一周しようかな」

 無計画なのか……あれだけ威勢良く飛び出しておいて、それはない。
 しかし、考えようによっては都合がいい。
 折角なので、行き先について俺の希望を言ってみる事にした。

「そっか、じゃあ偉い人が住んでいる近くに寄ってみようよ。近づきすぎると警備の人間に狙われそうだから、少し離れて飛んでね」
「それは面白そう……でもどっちにあるのかな?」
「奥の方じゃない?」

 カミーユの誘導に成功した俺は、彼女と共に権力を持っていそうな人間がいそうな方へと向かった。



 綺麗な庭がある、白い噴水の周りにバラの花が咲き誇っていた。
 おそらく、後宮の近くにある中庭に出たのではないだろうか。
 ふと、誰かの声が聞こえた気がして下を向くと、同じ年頃の子供の姿が見えた。
 金色の綺麗な髪の小柄な子供が、少し年上の子供の集団に囲まれている。仲良く遊んでいる訳ではなさそうだ。子供の一人が、金髪の子供を突き飛ばした。
 前を見ると、カミーユが顔を顰めてその様子見ている。
 彼女は行動の読めない変人だが、正義感は強いようだ。

「あの子、助けてあげる?」

 ワザと耳元で話しかけてみると、カミーユは面白いくらいビクリと反応した。
 ヤバイ、奴の意外な弱点を見つけてしまった。

「降りてもいいの? アシルも巻き込んじゃうよ?」
「いいよ? あの金髪、たぶん王家の子供だ……俺にとっても接点を持てるいい機会かも」

 明らかに他の子供よりも高級そうな服を着ているし、王太子は確か金髪であのくらいの年頃だったはずだ。助けても損は無い。
 それに、巻き込まれるのは俺じゃなくてカミーユの方だ。俺の方は覚悟も出来ている。
 王太子を助ければ、彼と対立している王弟派を敵に回す事になる。
 この国の二大勢力の問題は子供でも知っていることだ。
 ……彼女は、何も考えていなさそうだが。

 カミーユは、俺の返事を聞くやいなや、倒れた王太子に馬乗りになっている貴族の子供に向かって箒で突っ込んで行った。
 箒の柄が見事にソイツの尻に刺さる。
 ……地味に痛そうだ。
 頭に血の上ったカミーユが、王弟派の子供達と言い争いをしている間に、俺は王太子に駆け寄った。

「立てますか?」
「うん、大丈夫……ありがとう」

 王太子を助け起こし、彼を虐めていた子供達から距離を取る。
 その時、子供のうちの一人がカミーユに殴り掛かろうとしているのが目に入った。
 助けようにも、ここからでは間に合わない……!
 すると、カミーユは魔法で透明な壁を張り、アッサリとそれを防いでしまう。完璧な防御魔法だ。
 その上、攻撃魔法で反撃までするつもりらしい。

「これでもくらえ!」

 しかし、王宮には強力な魔法封じの結界が貼られているはずだ。

「あれ? 魔法が出ないよ?」

 カミーユは戸惑ったように、キョロキョロと周囲を見回した。
 当たり前だ。

「防犯の関係上、ここでは許可された者しか攻撃系の魔法を使うことは出来ないんだ」

 王太子がご丁寧にカミーユに説明をしてやっている。
 カミーユの防御魔法に唖然としていた王弟派の子供達が、徐々に立ち直りこちらに詰め寄って来ているのが目の端に映った。
 それを確認した俺は、カミーユに箒に乗るよう声をかける。
 その声にハッとして、カミーユが駆け寄ってきた。急いで王太子も箒に乗せる。

「カミーユ。全員箒に乗れたから、飛んでいいよ!」
「分かった」

 カミーユは急速に高度を上げて、貴族の子供達から離れた。
 俺は、挑発的に笑いながら、王弟派の子供達の頭上でわざとらしく一周するカミーユに声を掛ける。

「魔法棟に戻ろう……父が戻ってきているかもしれない」

 彼女は、子供っぽいところがあるようなので、放っておくといつまでも挑発行為を続けていそうだ。
 他の人間が出てくる前にここを離れないといけない。
 カミーユは俺の言葉に素直に頷いて、箒の先を魔法棟へと向けた。
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