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1巻
1-3
しおりを挟む「悪いね。自分の領域に他人が入ってくるのが苦手で、ついつい一人で動いてしまうんだ」
「……だったら変に手伝わない方がいいのかしら? そもそも、部屋を借りてしまって大丈夫ですか?」
「君はいいんだよ、僕から声をかけたんだから」
「でも……」
「この城の中って、君の書く物語みたいにドロドロしていてさ。僕の地位を狙う者も多いから、部下や使用人に頼むと、変なものを仕掛けられたりするんだ」
「うわぁ。それは大変そうですね」
散々小説に書いてきた題材ではあるが、権力者はリアルに苦労しているのだと知ったミヤだった。
話しているうちに、簡単な家具の移動が終わる。ベッドや棚を置いたそこは、ワンルームマンションの一室のように快適になった。
「重ね重ね、本当にありがとうございます!」
「そんなに畏まらないで、普通に話してくれていいよ。その方が、僕も気が楽だ」
「えっと。じゃあ、お言葉に甘えて」
ミヤは敬語をやめて、普通の口調で彼と話すことにした。
「それに、元はと言えばこっちが悪いんだし。聖女様に対して不敬が過ぎるよね。この件に関しては神殿から、グレナード王国へ正式に抗議させてもらうよ」
そう述べるナレースにミヤは焦った。彼はミヤを、完全に聖女候補として扱っているようだ。
誤解されたままでは、後々問題が発生してしまう。
「ちょっと待って。私、本当に聖女じゃないの。自分のステータスを見て確認済みなんだから」
「君がさっき広間で言いかけていた話かな? 王子の声が邪魔して、よく聞こえなかったんだよね」
ナレースは困った顔でミヤを見た。
「それに私は、ステータス看破の能力を持っていて、相手の職業を見ることができるの。本物の聖女は、モモというもう一人の女の子の方よ。だから聖女じゃない私のために神殿を動かしてしまうと、後であなたに迷惑がかかるわ」
ここまで親切にしてもらったのだ。彼が困るようなことはしたくない。
「……ステータス看破って、すごく珍しい能力なんだけど?」
ナレースは、少し動揺している。
「君を疑っているわけではないよ。異世界人の君が、誰にも教わらない状態で、『ステータス看破』の能力名を正確に言えている時点で、嘘じゃないと分かるから」
「私の職業は守護者なの。広間ではそんな能力ないって否定されたけど、ステータスにはそう書かれているのよ」
ミヤが必死に伝えると、ナレースは静かに頷いた。
「でもね、僕も守護者という職業を知らないんだ」
人より知識が豊富そうな神官長が知らないということは、他の者も知らない可能性が高い。王も王子も、聞いたことがないと言っていた。
「そういえば、君の名前はなんというの?」
「あ、名乗り忘れてごめんなさい。私はソラノ・ミヤです」
「ソラノが名前?」
「いいえ、ミヤの方です」
「ミヤか。君が聖女じゃないとしても、しばらくは城で暮らす必要があると思う。これから仲良くしてくれると嬉しいな」
「こちらこそ、お世話になります。あなたに会えてよかった」
「嬉しいことを言ってくれるね。僕のことはナレースって呼んで」
「分かったわ。よろしく、ナレース」
こうしてミヤはナレースにだけ、わずかに心を開いたのだった。
※ ※ ※
翌日、ミヤはナレースの隣の部屋で目を覚ました。
ベッドでゆっくり眠れたからか、目覚めはスッキリしている。
いつもはもっと寝つきが悪いのだが、さすがに昨日は疲れの方が大きかったようだ。
(さて、しなければならないことがたくさんあるわね)
ここで生き延びるために、まずは情報を集める必要がある。
ミヤが頼れるのは、今のところ、親切な神官長のナレースだけ。
扉一枚で隔てられた彼の部屋へ出るが、そこにナレースはいなかった。
(外出しているのかしら? もしかして仕事?)
慣れない場所に緊張しつつ、ミヤはプッチーを部屋に残して神殿へと向かった。
神殿は、廊下を歩いた先にある巨大な空間だ。
(昨日通ったから、覚えているわ)
一本道なので、ミヤは迷わず入り口へと辿り着くことができた。
中を覗くと、人とは思えないほど整った顔立ちの美青年が膝をつき、熱心に祈りを捧げている。
それは、絵のように神々しい光景だった。
(こうして見ると、普通に神官っぽいのよね)
祈りを捧げ終わったのか、美青年――ナレースは、優雅な動作で立ち上がり、ミヤの方を振り返った。
(うっわ、お腹まで丸見え……)
今日もナレースは神官服を着崩している。ミヤに気がついた彼は、微笑みながら手を振った。
「おはよう、ミヤ。昨日は眠れた? 僕は今、君の気配で目覚めたよ。いやあ、朝の礼拝は神官長としての義務だけれど、途中で眠くなっちゃうんだよねえ」
……前言撤回。祈っていたわけではなく、居眠りをしていただけらしい。
寝ているだけでも様になるなんて、あんまりだ。
「ええと、おはよう。昨夜は、あなたのおかげでゆっくり眠れたわ。ありがとう」
「それは、どういたしまして」
神官服の長衣をずるずると引きずりながら、ナレースは神殿を出て行こうとする。ミヤは慌てて彼の後に続いた。
「あ、あの! もし可能なら、あなたに聞きたいことがあるの。大丈夫かしら?」
振り返ったナレースが、萌黄色の瞳でじっとミヤを見つめる。
彼の考えは分からないが、そわそわと酷く落ち着かない気分になった。
「もちろん、いいよ」
ナレースは、ふんわりと優しく微笑んでみせる。その笑みに、ミヤの張り詰めていた緊張感は溶けていった。
「何も分からないまま、知らない場所に放り出されて不安だったでしょう? 僕に教えられることなら、なんでも答えるから安心して?」
「……ありがとう。本当に助かるわ」
ファンタジー小説などの前知識があったおかげで、パニックを起こすことだけは避けられたが、不安は常に付きまとっている。
(ナレース以外、誰も気づいてくれなかったけど!)
ミヤは、自分の考えを相手にうまく伝えることが苦手だ。
それは、何を主張しても周囲の目が兄にしか向かなかったからかもしれないし、空気として長く生きすぎたせいかもしれなかった。
「そうだね、今日は大した予定もないし、君に付き合うよ。まずは……何から話そうかな」
少々気だるげなナレースは、ミヤを促して部屋へと戻る。ダラダラと動く様子は神官長らしく見えないが、これが彼の通常運転らしい。
ナレースが指示したのだろうか。しばらくすると、部屋の前の廊下に、二人ぶんの朝食を載せたカートが届けられていた。パンやサラダなど、元の世界と変わらない食事内容だ。
部屋の中央に置かれた白いテーブルに、二人で朝食セットを運ぶ。
自らお茶の用意をして、椅子に腰掛けたナレースは、ミヤにも向かいの席に座るよう促した。
昨夜はマンションの部屋でコンビニおにぎりを食べたきりだったので、食事を用意してもらえるのはありがたい。プッチー用に、細かく刻んだ肉まで手配されていた。
「いただきます」
「ちょっと待って、ミヤ」
「え……?」
食べ始めようとしたミヤを止め、ナレースは朝食の上に手をかざす。
(何かしら?)
彼の手の下が光った気がしたが、角度のせいでよく見えなかった。
「はい、もういいよ」
「何をしたの? 食べる前のお祈り?」
「そんなところかな。ミヤと僕が毒に当たりませんように。食事の中に異物が入っていませんように……って」
割と現実的なお祈りの内容だ。
おののくミヤを尻目に、プッチーの餌にも同じお祈りをしたナレースは、普通に食事を始めた。彼の様子を見て、ミヤも料理にそっと手をつける。
「まずは、昨日説明し損ねた、この国の文化と国民性について話をしようか。きっとミヤは、皆の対応に腹を立てていると思うし」
食事をしながら、ナレースが話を始める。食欲旺盛なプッチーは、この時点ですでに餌を完食していた。
「その通りよ。でも、それよりも不可解だという思いの方が強いわね」
そう答えると、ナレースは萌黄色の瞳を細めて苦笑いした。整った顔立ちの彼は、どんな表情をしても美しく見える。
「グレナード王国では、『人気』というものが、何より重要視されているんだよ」
「『人気』って?」
意味は分かるが、具体的にどういうことなのかが、いまいちピンとこない。
「うーん、簡単に言うと、見た目の印象や雰囲気が国民の好感度に直結しているということかな。そして、国民たちは『人気』のあるなしで露骨に人を区別する。昨夜のように」
最初に召喚された際のあの冷たい対応は、悪意からではなく、国の風習による自然なものらしい。
「その人の外見に、好意が左右されるということ?」
「外見だけではなく、地位や功績も複雑に絡まりあって『人気』が決まる。ステータス画面を見れば、自分の『人気』が現在どのくらいかが分かるはずだよ」
「そういえば……!」
ミヤは自身の『人気』の項目が、最低だったことを思い出した。
「異世界から来たばかりのミヤは、分かりやすく見た目で判断されたのだろうね。別にミヤの外見が悪いと言うわけではないよ。この国で好まれる女性のタイプは、華やかな美人や美少女だというだけで」
ナレースは、微妙なフォローを入れた。
「無理に気を使わなくて大丈夫よ。私の外見は、元の国でもパッとしない方なの」
現在は女性向けの神官服を借りているので、服のセンスだけは向上したかもしれない。
「僕は、君の外見が悪いとは思わない。むしろ、清楚で……」
「あ、そういう慰めは、いらないわ」
優しい彼の言葉は、ミヤにとっては気休めにもならない。
まだ何か言いたそうなナレースだったが、ミヤの視線を受けて脱線していた話を戻した。
「グレナードは、国が大衆を操りやすいよう、積極的に『人気』を利用している。それが行きすぎて、あんな風におかしなことになっているんだ。この国が特殊なだけで、世界中が『人気』に左右されているわけではないよ」
「そうなの……。とにかく、私はグレナードで『人気』がないのね?」
「残念ながら」
分かってはいたが、人からはっきり言われるとショックである。女心は複雑なのだ。
「ところで、この国は大きいの?」
そう尋ねると、ナレースは首を横に振った。
「大陸の中央にある小国だよ。歴史は古いけれど、国力は弱い。聖女に頼って宗教的な権威を得ることで、なんとか威厳を保っているだけだ」
「異世界から聖女を呼び出せるくらいだし、もっと大国なのかと思っていたわ」
「聖地を所有しているから、宗教的な意味での力が強いだけだ。僕はここで神官長をやっているわけだけど、実質貧乏クジだしなあ……」
「神官長なのに?」
「言ったでしょう? 僕は本部から派遣されている身だって」
ナレース曰く、彼はもともと本部で働く高位の神官だったそうだ。
「なんで貧乏クジなの?」
「危険だからだよ。この時期グレナードに送られる神官は、聖女の巡礼の旅に同行しなければならない。それに、ここは田舎で保守的なお国柄だからつまんないし」
「……確かに。それは、嫌よね」
「何事もなく仕事を終えられることも多いけど、中には道中で魔物に襲われ死亡した神官もいる。現に、前回と前々回に派遣された神官長は亡くなっているんだ。詳しい死因は不明だけれどね。それを調べるという理由もあって、今回の派遣は早いうちから決まっていた。で、魔法の力が強く、後ろ盾のない若手で二十九歳の僕が監視役に選ばれた」
上層部に強いコネを持つ者は、グレナード行きを免除されるらしい。
「高位の神官がそんな危険な役目をするの? 他の人じゃダメなのかしら」
「ある程度の地位がないと、グレナードの神官長に任命できないんだ。なんたって、聖女と直に対面する可能性があるわけだからね」
確かに信仰対象である聖女のもとへ、下っ端を派遣するわけにはいかないだろう。
「そこで、ナレースに白羽の矢が立ったのね?」
この若さで高位の神官になるのは、きっと大変だったはずだ。
ミヤは、努力の報われないナレースが気の毒だと思った。
「僕は庶民出身で神殿で育った孤児だし、さらにはちょっとしたミスをした直後だったから」
「ミスって?」
「上司の娘との結婚を断って、相手を怒らせた」
「……どこから突っ込んでいいのか分からないわ。そもそも、神官って結婚できるものなの?」
「もちろん。ラウラ教の神官は結婚できる。上司の娘との結婚が、後ろ盾を得て出世するための手段という認識も一般的だよ」
住む世界が違いすぎる話を聞いたミヤは、あんぐりと口を開けた。
「けど、断ったのよね? ナレースは、政略結婚をしたくなかったということ?」
そう聞くと、彼はふるふると首を横に振る。野心がないわけではないらしい。
「相手のお嬢さんが、地元で悪名高い尻軽女だったんだ。親の方も、本当は庶民になんて嫁がせたくなかったみたいだけれど、そんな娘だから他に嫁ぎ先がなくてね。僕に押し付けるしかなかったんだよ。で、断ったらこれだ」
「酷い話ね……」
「勤務態度に多少難はあるけれど、僕は強力な魔法の使い手だし、神殿の中でも優秀な方だ。問題児の引き取り先として、ちょうどいいと思われたんだろうね」
「いや、勤務態度は改めようよ」
神官として優秀かどうかの判断には、仕事における能力はもちろん、持っているスキルの種類や高さでも評価されるらしい。
(……そんなにやる気がないのに、本当に、どうして神官をやっているのかしら?)
彼の行動は、いまいちよく分からない。じっとナレースを見ていると、彼が急に質問してきた。
「聖女を信仰って、ぶっちゃけ妙だと思わない?」
「へ? 変って?」
「こんなことを言うなんて神官長失格だけど。いくら異世界出身とはいえ、普通の人間を神格化するって、どうなのと思うわけよ。ミヤたちを見て、余計にそう思った」
「……それは、私も同感だけど」
やる気こそないが、彼の感覚はいたってまともだ。
気持ちを切り替えたミヤは、今度は聖女の仕事について質問する。
自分のためにも、内容を詳しく知っておきたい。
「ナレース、聖女の仕事の詳細を教えてもらっていいかしら? 国王が言ったように、聖地を浄化するために旅をするのよね?」
そう尋ねると、彼はもちろんだと頷いてみせた。
「僕らはその旅を『聖地巡礼』と呼んでいる。聖地巡礼は、グレナード国内にある三ヶ所の聖地を回って、そこに建てられた石碑を浄化するんだ」
「浄化しなきゃならない場所って、三ヶ所もあるの?」
「うん。北、中央、南の三つ。それを全部回るんだよ」
「危険な仕事なのよね? あの国王は魔物が出る過酷な旅だと言っていたわ」
「そうだね。昔に比べて格段に安全にはなったけれど、絶対とは言えないし。僕も、できれば同行を遠慮したい……まあ、無理だけど」
ナレースの淹れてくれた紅茶を飲みつつ、ミヤは大きな溜息をついた。
(やっぱり、危険なのね)
ナレースは、さらに詳しい話を続ける。
「移動手段には、転移用の魔法陣を使用する。大昔の聖女が聖地巡礼で使ったものが、そのまま城内に残されているんだ。たぶん、彼女の持っていた能力で作ったものなんだろうね。能力は、聖女によって毎回異なるみたいだから」
「……魔法陣?」
首を傾げるミヤを見て、彼は説明を付け加えた。
「ええと、魔法陣っていうのは、転移魔法を使える者が作った円形の陣のことで……」
ミヤの知るファンタジー知識とあまり相違はないようだ。
(ステータスの能力欄で『魔法』を使える人がいたけれど、魔法は能力の中の一種なのかしら? この世界では、やっぱり普通に魔法が使われているのね)
ナレースは、少し困った風に尋ねてくる。
「ミヤの世界に、魔法はなかった?」
「魔法はないけれど、そういう概念はあるわ。あくまで空想の産物だけれどね」
「なら、理解が早いかも。ステータスも、ある意味魔法の一つだよ。それ以外の魔法は、小さな魔法陣を自分の前に作り出して、そこから放つものなんだけど。魔法陣を出している間だけ――つまり一時的にしか使えない。一方、過去の聖女が作った城内の魔法陣は、なんらかの能力で石に直接陣を刻み込んであって、半永久的に使うことができる。魔法陣の上に立つと、一瞬で聖地の近くへ移動することができるんだ。けれど、その先は徒歩だから、移動中に魔物に遭遇することもある」
「なるほど。だから国王は、道中で魔物が出るって話をしていたのね」
「理解が早くて助かるよ。そういう物語を書いているからかな? 僕が読んだあの話は、聖女に関する内容のようだったし」
「あれは架空の物語だから。私のいた世界では、魔法なんて使えないと分かっていても、魔法のある世界に憧れて、そういう話を読んだり書いたりしている人がたくさんいたの。私もその一人だった。でも、こんな展開を望んでいたわけではないわよ」
「面白そうな世界だね。ミヤ、本物の魔法を見てみたい?」
「え……?」
「ステータスは使えたみたいだけれど、それ以外の……能力としての魔法はまだ見たことがないでしょ?」
ミヤが瞬きをした瞬間、軽く手を振ったナレースの手のひらに小さな魔法陣が現れた。
「これが、魔法?」
「うん、僕が使える種類は限られているけれど」
続いて、彼の手のひらから小指の大きさほどの炎が噴き出す。
「すごい、手品みたいね」
ナレースのステータスが気になったミヤは、彼に『ステータス看破』を使ってみた。
(ステータス看破の能力も、魔法なのかしら)
近くに出ている赤い光に集中すると、四角い画面にナレースの情報が並ぶ。
〈ステータス〉
種族:人間
名前:ナレース・アルテーラ
年齢:二十九歳
職業:ラウラ教本部所属高位神官・グレナード王国担当神官長
能力:炎属性攻撃魔法・回復魔法(解毒などの状態異常回復を含む)
人気:高
相変わらず親切設計のステータスは、補足説明まで書かれていて分かりやすい。
(この世界の基準でいうと、ナレースはかなり優秀な部類ではないかしら。回復魔法が使えるなんて、神官だけでなく、お医者さんとしてもやっていけそう……!)
すでに何人もの情報を勝手に覗いていたミヤだが、ここまで優れたステータスを見たのは初めてだった。
「ねえ、『自分のステータスを見る』以外の魔法を使える人は珍しいの?」
「そうだね。魔法は『能力』の一種だけれど、能力を持っている人物自体が珍しいから」
にもかかわらず、彼は二種類もの魔法を所持している。これはすごいことではないのだろうか。
「さっき言っていた通り、あなたはとても強いみたいね。炎の攻撃魔法と回復魔法、二つも使えるなんて……!」
それを聞いたナレースは、まじまじとミヤを見つめた。
「……本当に、他人のステータスを見ることができるんだねぇ」
「ええ、見えているわ」
「ミヤ、君の能力はステータス看破だけなの?」
「ええ、他に魔法は使えない。でも、加護に物理攻撃強化・身体能力強化があるわ。どんな効果かは分からないけれど、体が強くなったりするのかしら?」
「加護を持っているのは異世界人だけみたいだよ。僕は聖女の加護として有名な浄化能力しか知らないから、その質問には答えられない。ごめんね?」
殊勝に謝る美形神官を見て、ミヤは焦る。
「い、いいの! 前例がないことなら仕方ないし」
「ミヤには、何か特別な役割があるのかもしれないね。できれば、君が聖女ではないと証明できればいいんだけれど。国王が言った通り、ステータス看破はとても珍しい能力なんだ。僕も君以外でその能力を持つ人間に会ったことがない」
「そうなのね……」
「残念だけど、もし君が他人の能力を言い当てても、さっきみたいに相手にされないか、認められないと思う。証明するための時間すら取ってもらえないだろう。僕がお膳立てしても同じだろうね。国王はすでに結論を下してしまったし、やっぱり君が『守護者』であるという証明は難しいから……一回は巡礼に出ないといけないかも」
「確かに、そうよね……うう、理不尽」
モモを聖女だと証明することはできても、ミヤ自身の職業を証明する方法はない。
「けれど、君に浄化ができないと分かれば、少なくとも聖女でないことは周りも納得せざるを得ない。聖女なら聖地の石碑に触れるだけで、その場を浄化できるはずだから」
つまり、最低一度は危険な旅に出なければならない。
嫌だと逆らったところで、相手はグレナード王国の頂点に立つ権力者たちだ。きっと力ずくでも連れて行かれることになるだろう。しかし、危険な魔物の巣窟へ向かうのは嫌だ。
「ああ、どうしよう。今からでも逃げた方がいいかしら?」
本気で脱走を考え始めたミヤを見て、ナレースが焦った表情を浮かべる。
「落ち着いて、ミヤ! まず、城を出ること自体が難しいから! それに、一人じゃ生活できないでしょう!? 住むところや食べ物はどうするの!?」
ナレースの言葉に、パニックになりかけていた頭が冷える。
そうだ、自分でも「知識をつけるまでは、迂闊に城を出ない方がいい」と判断していたのに。
「……そうだったわ、ごめんなさい。今逃げ出したら、あなたにも迷惑をかけてしまうところだった」
「いや、それはいいんだけど。僕だって、同じようなことを考えた時期もあったし」
「ナレースだって聖地に行きたくないのに、ここで働いているんだものね。私、自分のことしか考えていなかったわ」
ミヤの言葉に、ナレースは小さく溜息を吐くと、彼女の肩をポンポンと叩いた。
(彼なりに、慰めてくれているのかしら……?)
異性に触れられているというのに、不思議と嫌な感じはしなかった。
「僕はともかく、ミヤは一応聖女候補でしょ? 逃げたら追っ手がかかって、下手をすると牢屋に監禁されるかもしれない」
「監禁……!?」
部屋は用意してくれないくせに、牢屋はしっかり用意するなんて……!
(酷い!)
ミヤは、再びグレナード王国に腹を立てた。
「最初の聖地は、魔法陣から石碑までの距離が一番近い。そこで聖女じゃないと証明するのが一番安全だと思うよ。もちろん、僕も同行するし」
ナレースが一緒に来てくれるのは心強い。ミヤは静かに頷いた。
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