14 / 55
14 緊急事態
しおりを挟む
「馬が駆けてきた跡を追えるか?」
「キュ!」
ホムンクスルに担がれたまま、屋敷を出る。
開いていた門を抜け、寂れた城下町を駆け抜ける。
後ろからは、ポーションを持ったホムンクルスたちが同行してくれていた。
「フェドナルンド様!???」
「――どちらに行かれるのですか!???」
町の外に繋がる門も開いたままだ。
その場にいる全員が、慌ただしく動いている。
「そのまま行けるな?」
「キュァ!」
誰何する門番を素通りして、そのまま門を抜けた。
冷静じゃない自覚はある。
だが、緊急事態なのは間違いない。
「あの兵が来たのは、こっちだな」
荒々しく踏まれた蹄の跡が、街道のわきに続いている。
そのさきにあるのは、森の中を進む細道。
どこに魔物がいるとも知れない通路だ。
「急ぐぞ」
「きゅっ!!」
そのまま進むように指示を出し、静かに目を閉じる。
他の者は、重症者を引いている。
あの兵は、そう言っていた。
「今日の討伐隊には、師匠もいる」
あの爺さんなら、重傷者を連れて森を進むことはない。
間違いなく、道の上にいる。
「駆け込んできた兵は、伝令で」
伝令には、確実に情報を伝えられる者を選ぶ。
そんな伝令が重傷者だったという異常事態。
「どう考えてもまずいだろ」
ホムンクルスに担がれながら思考を巡らせる。
嫌な予想ばかりが、脳内を過る。
そんな中で聞こえた、誰かのうめき声。
「急げるか!?」
「キュッ!!!!」
見えてきた光景に、俺は思わず息を飲んだ。
血を流す兵が、重傷者に肩を貸して歩いている。
重傷者を載せた荷馬車を、師匠が引いている。
「きゅぁ!」
動揺する俺を他所に、ホムンクルスは俺を運び続けてくれた。
嗅いだことのない血の臭い。
うめき声が大きくなる中で、師匠が顔を上げる。
「……こぞう?」
そんな師匠も、肩から血を流している。
日本では到底見ることのない光景に、俺はグッと奥歯をかみしめた。
「初級ポーションが12本あります!」
「承知した」
ホムンクルスから降りて周囲を見たが、兵士は20人ほど。
その全員が血を流している。
どう見ても、ポーションが足りない。
「儂にすべてを預けてもらえるか?」
「わりました」
師匠は、荷台に乗る重傷者に目を向ける。
右手を握り締めながら、周囲に指示を出す。
「助かる者を中心に使え!」
その言葉に、血の気が引いた。
「1人でも多くの者を救うように!!」
多くの兵が顔を俯かせる。
重傷者が乗る荷台に背を向け、歯を食いしばる。
「……全員は、たすからない」
そんな音が、俺の口から漏れた。
嗚咽が混じり、視界が歪む。
「グレリア! 自分の仕事は理解しておるな!?」
「……はっ、はい!」
慌てて動き出した1人の兵が、白い布にポーションを染みこませる。
太ももが抉れた者。
脇腹にキズを負った者。
それぞれの状態にあわせて、ポーションの使い方をかえる。
荷台の重傷者の前を、泣きそうな顔で通り過ぎた。
「冷静な判断が必要だ。儂が責任をとる。よいな?」
「……はい」
1年で300人くらいが、魔物の被害に遭う。
それが、ここの日常。
ミルトに聞き、数字として、知ってはいた。
「知った気に、なってた……」
治療される兵も、荷台の兵も、顔見知りばかり。
小太刀の練習中に、優しく話しかけてくれた人たち。
ホムンクルスと遊んでくれた新人が、荷台に乗せられている。
「……レン」
孤児院に恩返しがしたい。
そう言っていた。
「腹を……」
意識はなく、腹から血が溢れている。
傷は深い。
日本の医療でも、助けるのは難しそうに見えた。
「……」
震える歯を食いしばり、右手を握りしめる。
嗚咽を堪えながら、流れ出る血を見つめる。
「--きゅあ!!」
そんな中で、ホムンクルスが何かを指さした。
見上げた先にあったのは、見覚えるのある小さな草。
「……やくそう」
もつれる手足で近づき、やくそうを引き抜く。
ミルトに貰った物と同じだ。
周囲にも、大量に生えている。
「薬草を集めて潰して!」
「「「きゅっ!!」」」
大きな岩の上に薬草を乗せ、落ちていた石ですりつぶす。
手の震えは止まり、脳内のもやが消えていた。
「師匠! どれだけのポーションが必要ですか!?」
「--どれだけ作れる!?」
「どれだけでも!!」
薬草がある限り。
どれだけでも作ってみせる!
そんな思いを込めて、薬草をすりつぶす。
「水はありますか!?」
「飲み水でよいな!?」
「はい!」
師匠が持ち歩いていた水筒を受け取り、磨り潰した薬草を入れる。
ホムンクルスが潰した物も混ぜ、魔力を込めた。
「グレリアさん、これも使ってください!」
出来たばかりのポーションを衛生兵に渡す。
目を見開くグレリアさんの手から、師匠がポーションを抜き取った。
「効力を見る」
そう言って、意識のない新兵の腹に、ポーションを振りかけた。
痛ましい傷が、ほんの少しだけ塞がる。
流れ出す血の量は、確実に減っていた。
「どれだけでも作れる、そう言ったな?」
「はい!」
周囲には、薬草が雑草のように生えている。
唯一の問題は、魔力の残量。
「魔力がある人は、ホムンクルスに魔力と水を渡してください!」
借りれるものは、すべて借りよう。
「効能は落ちますが、ホムンクルスたちもポーションを作れます!」
劣化版だろうが、気絶しようが、数で補えばいい。
どよめく兵を尻目に、師匠が大きく手を叩いた。
「重傷者の治療を優先せよ!」
水筒と魔力をホムンクルスに渡しながら、周囲に目を向ける。
「全員、生きて帰るぞ!!」
力強い言葉に、心が震えた。
「キュ!」
ホムンクスルに担がれたまま、屋敷を出る。
開いていた門を抜け、寂れた城下町を駆け抜ける。
後ろからは、ポーションを持ったホムンクルスたちが同行してくれていた。
「フェドナルンド様!???」
「――どちらに行かれるのですか!???」
町の外に繋がる門も開いたままだ。
その場にいる全員が、慌ただしく動いている。
「そのまま行けるな?」
「キュァ!」
誰何する門番を素通りして、そのまま門を抜けた。
冷静じゃない自覚はある。
だが、緊急事態なのは間違いない。
「あの兵が来たのは、こっちだな」
荒々しく踏まれた蹄の跡が、街道のわきに続いている。
そのさきにあるのは、森の中を進む細道。
どこに魔物がいるとも知れない通路だ。
「急ぐぞ」
「きゅっ!!」
そのまま進むように指示を出し、静かに目を閉じる。
他の者は、重症者を引いている。
あの兵は、そう言っていた。
「今日の討伐隊には、師匠もいる」
あの爺さんなら、重傷者を連れて森を進むことはない。
間違いなく、道の上にいる。
「駆け込んできた兵は、伝令で」
伝令には、確実に情報を伝えられる者を選ぶ。
そんな伝令が重傷者だったという異常事態。
「どう考えてもまずいだろ」
ホムンクルスに担がれながら思考を巡らせる。
嫌な予想ばかりが、脳内を過る。
そんな中で聞こえた、誰かのうめき声。
「急げるか!?」
「キュッ!!!!」
見えてきた光景に、俺は思わず息を飲んだ。
血を流す兵が、重傷者に肩を貸して歩いている。
重傷者を載せた荷馬車を、師匠が引いている。
「きゅぁ!」
動揺する俺を他所に、ホムンクルスは俺を運び続けてくれた。
嗅いだことのない血の臭い。
うめき声が大きくなる中で、師匠が顔を上げる。
「……こぞう?」
そんな師匠も、肩から血を流している。
日本では到底見ることのない光景に、俺はグッと奥歯をかみしめた。
「初級ポーションが12本あります!」
「承知した」
ホムンクルスから降りて周囲を見たが、兵士は20人ほど。
その全員が血を流している。
どう見ても、ポーションが足りない。
「儂にすべてを預けてもらえるか?」
「わりました」
師匠は、荷台に乗る重傷者に目を向ける。
右手を握り締めながら、周囲に指示を出す。
「助かる者を中心に使え!」
その言葉に、血の気が引いた。
「1人でも多くの者を救うように!!」
多くの兵が顔を俯かせる。
重傷者が乗る荷台に背を向け、歯を食いしばる。
「……全員は、たすからない」
そんな音が、俺の口から漏れた。
嗚咽が混じり、視界が歪む。
「グレリア! 自分の仕事は理解しておるな!?」
「……はっ、はい!」
慌てて動き出した1人の兵が、白い布にポーションを染みこませる。
太ももが抉れた者。
脇腹にキズを負った者。
それぞれの状態にあわせて、ポーションの使い方をかえる。
荷台の重傷者の前を、泣きそうな顔で通り過ぎた。
「冷静な判断が必要だ。儂が責任をとる。よいな?」
「……はい」
1年で300人くらいが、魔物の被害に遭う。
それが、ここの日常。
ミルトに聞き、数字として、知ってはいた。
「知った気に、なってた……」
治療される兵も、荷台の兵も、顔見知りばかり。
小太刀の練習中に、優しく話しかけてくれた人たち。
ホムンクルスと遊んでくれた新人が、荷台に乗せられている。
「……レン」
孤児院に恩返しがしたい。
そう言っていた。
「腹を……」
意識はなく、腹から血が溢れている。
傷は深い。
日本の医療でも、助けるのは難しそうに見えた。
「……」
震える歯を食いしばり、右手を握りしめる。
嗚咽を堪えながら、流れ出る血を見つめる。
「--きゅあ!!」
そんな中で、ホムンクルスが何かを指さした。
見上げた先にあったのは、見覚えるのある小さな草。
「……やくそう」
もつれる手足で近づき、やくそうを引き抜く。
ミルトに貰った物と同じだ。
周囲にも、大量に生えている。
「薬草を集めて潰して!」
「「「きゅっ!!」」」
大きな岩の上に薬草を乗せ、落ちていた石ですりつぶす。
手の震えは止まり、脳内のもやが消えていた。
「師匠! どれだけのポーションが必要ですか!?」
「--どれだけ作れる!?」
「どれだけでも!!」
薬草がある限り。
どれだけでも作ってみせる!
そんな思いを込めて、薬草をすりつぶす。
「水はありますか!?」
「飲み水でよいな!?」
「はい!」
師匠が持ち歩いていた水筒を受け取り、磨り潰した薬草を入れる。
ホムンクルスが潰した物も混ぜ、魔力を込めた。
「グレリアさん、これも使ってください!」
出来たばかりのポーションを衛生兵に渡す。
目を見開くグレリアさんの手から、師匠がポーションを抜き取った。
「効力を見る」
そう言って、意識のない新兵の腹に、ポーションを振りかけた。
痛ましい傷が、ほんの少しだけ塞がる。
流れ出す血の量は、確実に減っていた。
「どれだけでも作れる、そう言ったな?」
「はい!」
周囲には、薬草が雑草のように生えている。
唯一の問題は、魔力の残量。
「魔力がある人は、ホムンクルスに魔力と水を渡してください!」
借りれるものは、すべて借りよう。
「効能は落ちますが、ホムンクルスたちもポーションを作れます!」
劣化版だろうが、気絶しようが、数で補えばいい。
どよめく兵を尻目に、師匠が大きく手を叩いた。
「重傷者の治療を優先せよ!」
水筒と魔力をホムンクルスに渡しながら、周囲に目を向ける。
「全員、生きて帰るぞ!!」
力強い言葉に、心が震えた。
108
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~
軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。
そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。
クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。
一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
ファンタジー
学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる