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ぼっちの危機2

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「戦闘能力が皆無の勇者ってありえないでしょ。どうやって魔王を倒すつもりなのよ?」

 口調こそいつも通りだが、明らかに怒っているアリスの質問には、先の戦闘以上にアタフタするしかない。

 だって、俺、勇者じゃないんだもの。

 それと同時に1つだけわかったことがある。やっぱ、魔王はいるんだな。

 とりあえずはごねてみるか……。

「アリスは俺が勇者だって納得してくれたんじゃないのか?」

「はぁ? 納得? 
 なに勝手にアリスの気持ちを決め付けちゃってんの? 納得なんてしてないわよ。
 城のときは、と・り・あ・え・ず、信じてあげただけじゃない。とりあえずよ、とりあえず!!
 いまは、その信用が出来なくなったってだけじゃない」

 まぁ、たしかに、アリスの言うことも十二分にわかる。
 あの立ち向かうことも逃げることも出来ない戦闘を見たら、誰も俺のことを勇者だなんて思わないよな。

「……けど、ほら。髪の毛、黒いぞ。確かめるために、なでても良いぞ」

 歴代の勇者はみな、黒髪だったらしい。
 つまり黒髪は勇者の証と言っても過言じゃない、……とうれしく思う。 

「なによ、なで……、いいの?
 ……じゃなくて、なでないわよ!! ……今は。
 あ、後でなでるんだから、覚えときなさい。今は髪の毛じゃなくて、戦闘の話よ」

 その場で思いついた話しすり替え作戦は、残念ながら失敗したようだ。

 ってか、予想以上にうまくいきそうで逆にびっくりした。

 けどもうダメだな、良い作戦が思い浮かばない。

「……戦闘がどうかしたのか?」

「どうもこうもないわよ。あんたが、勇者だって証明できるだけの武力を示しなさい。
 なんか、勇者らしい特殊能力とかあるんでしょ?」

 ……勇者らしいものってなんだ?

 勇者の剣とか? 破邪の剣?

 魔法なら、雷系って勇者っぽいよな?

 とりあえず、トラブルの匂いを感じたら、行ってみたくなる性格が一番勇者っぽいかな?

 ってか、ちょっと待て。

 サラに召喚されたときに、異世界召喚系ライトノベルのテンプレ的な話をしたな。

「あー、なんだ。俺は、勇者らしく、特殊能力として、召喚魔法を持っている」

 こっちの世界に来た当初の話を思い出して伝えたが、召喚魔法って勇者っぽいのだろうか?

 正直、微妙じゃないか? 

「へー、召喚魔法ねぇ……。なんか、あんまり勇者っぽいって気がしないんだけど……」

 うん、俺もそう思う。
 けど、俺が持っているらしい能力はそれだけだもの。

 嘘付くわけにもいかないし……。

「まぁ、いいわ。何もないよりはマシだから、とりあえず、勇者らしく特殊能力を持っているって事で、及第点にしておいてあげるわよ」

 ふぅ、なんとか同盟破棄の危機は去ったようだ。

 冷や汗の量は狼戦よりも多かった気がする。

 ホッと額の汗を拭えば、アリスの鋭い目に射抜かれた。

「それじゃぁ、召喚してみなさいよ」

「…………え?」

「え? じゃないわよ。勇者らしく物凄い召喚魔法が使えるって言うんだし、使ってみなさいって言ってんの。
 まさか、嘘でしたなんてこと、ないわよね?」 

 ……どうやら、危機は去っていなかったようだ。
 物凄いとか、知らない間にハードルがあがってる気がする。

「い、いや。あれなんだよ。うん。
 えっと、そう。勇者らしく、特殊な物が必要だから、今すぐにってのは、無理だなー。いやー、残念だね、うん」

「はぁ? なに言ってんのよ。魔法系で物が必要って、魔玉が必要ってことでしょ?
 魔玉なら、そこにあるじゃない」

 アリスが指し示す場所には、先ほどまで戦闘を繰り広げていた狼が横たわっている。

 その後も捲くし立てるように話すアリス曰く、この世界の魔法は自分の中にある魔力を使うタイプと、魔物の心臓である魔玉を使うタイプの2種類しかないらしく、歴代の勇者達でも例外はなかったそうだ。

 つまり、準備がないから無理、と言った逃げ道は、即行で封じられたらしい。

 ってか、さっきの狼、魔物だったんだな。

 普通、魔物との初戦闘って、スライムとかじゃないの? このゲーム難易度高すぎない?

「いやいや、そこにあるって、どうやって取り出すんだよ」

 そこにあるものは狼であり、魔玉ではない。

 そんな疑問を予測していたのか、アリスは迷うことなくクロエの方を向いた。

「クロエ。あんたなら、そこの犬、解体できるわよね?」

「うん、だいじょ、……ばない‼
 むりだよ。私、解体なんて出来ないよ」

 瞬間的に俺の視線を読み取って、否定方向に変更してくれたらしい。

 さすがクロエ、空気の読み方も優秀だ。

 だが、そんなクロエに、アリスの魔の手が忍び寄る。

「さっきの戦闘じゃ、かなり手馴れた感じだったじゃない。……クロエ。あんた、解体出来るわよね?」

「……えっと、あのね、わたー」

「出来るわよね?」

「…………」

「クロちゃん、アリスの目を見てみよっかー。
 ……出来るわよね?」

「……うん。……できる。ごめんなさい」 

 アリスの粘着質な責めにクロエが敗北した。
 どうやら、逃げ出すことは不可能なようだ。

 戸惑いながらも、クロエが手際よく狼を解体していく。

「うまいじゃない。どこかでやったことあるの?」

「うん、昔、猟師のおじさんの所で、アルバイトさせて貰ったてたの。給金は安かったけど、お肉が貰えたから楽しかったよ」

 話しながらも、見る見るうちに毛皮が外される。

 身と骨、そして、心臓部分から緑色の玉が出てきた。

 残念ながら、魔法を使う準備が整ったようです。
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