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棚ぼた勇者

街で

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「ぉぉぉおおおーー!! すばらしいなっ!!」

 腹のそこから湧き上がってくる幸せに、思わず奇声を上げてしまった。
 そんな俺の様子に驚いたように、店主が目を白黒させている。

 さすがに、テンションをあげすぎたかも知れない。

 だが、いまはそんなことよりも、お米様を買う方が優先だろう。

「店主、これを精米したものはあるか?」

「あっ、いえ、申し訳ございません。事前に予約頂ければ精米後の物も準備できますが、なにぶん突然の事でしたので、現在お出しできるのはこちらのみになります」

 手の中にあるのは、茶色い皮で覆われたものばかり。
 どうやら玄米しかないらしい。

(まぁ、ないなら自分で精米すればいいだけだしな。たしか石臼とか使えばいいんだったか?)

 ミリアの創造魔法を頼れば大丈夫だろう。

 そう心に決めて、再び店主に視線を向けた。

「この店にはどれだけの在庫がある?」

 最低でも30キロは欲しい。

 この国の米袋がどのような形になってるのかはわからないが、1人10キロならもてるだろう。

「米の在庫でございますか? 申し訳ありませんが、いまお出ししたものがすべてでございます」

「なっ!??」

 驚きに視線を落とすも、そこにある玄米様は、両手で持てるほどしかない。

 精米して炊けば、お茶碗4杯にも満たないだろう。

「……そうか。わかった」

 それでどうやって商売するんだよ、と思ったが、よくよく考えればここは文房具屋だ。

 米がおいてあるだけでも驚きだろう。

「それを全部頂こう、いくらだ?」

 足りない分は別で買うとして、とりあえずは目の前にあるお米様はすぐに確保したい。

 そう思ったのだが、俺の言葉に、店主だけでなく、サラやクロエも不思議そうな目をこちらに向けてきた。

「こちらすべてですと、銅貨10枚になります。
 誠に失礼ではございますが、これだけの量でどのような魔方陣を御作りになる御予定ですか?
 さすがに、これだけの量を販売しますと、街長への届出が必要になりますので、出来ればお答え頂ければと……」

「ん? あ、いや。魔方陣は作らないよ。
 普通に炊いて食べようかと思っただけだ」 

 店主の申し訳なさそうな問いかけに胸を張って答えれば、彼だけでなくサラたちの表情までもが一瞬で凍りついた。

 どこか悲しげな雰囲気まで混じり合っているように感じる。

(あれ?? なんか、まずかったか????)

 そう思っていると、クロエが誰よりも悲しげな瞳を向けてきた。

「お兄ちゃん。いくらお腹が空いたからって、そんなの食べちゃダメだよ」

「……え??」

 たしなめるような声色で、ただをこねる子供をあやすような雰囲気すら感じる。

 あわてて視線をそらせば、困惑したような店主の瞳が見えた。

「……大変申し上げ難いのですが、お米を食べるのは牛や馬などでございます。こちらは糊用でも最高級の物で、餌用の物とは多少違いますが、御貴族様が口にされるものでは……」

 どうやら、そういうことのようだ。

 ドッグフードって美味しいよね。俺めっちゃ食いたいんだー!!

 って、俺は叫んでいたらしい。

「……届け出が必要ない範囲で、譲ってください」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 そう言われても、お米様をあきらめる訳にはいかなかった。

 ずっと冷ややかな視線にさらされながらも、お米様の入った袋をぎゅっと握りしめて、店をあとにした。
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