愛情不信聖女と魔術ばか王子のまったり研究ライフ

ゆるゆる堂

文字の大きさ
7 / 19

第6話 魔法研究室魔封じ戦隊 魅了封じるんじゃー

しおりを挟む
 小さな礼拝堂、その祭壇の前で青年が手を組んで祈っている。
 朝焼けがステンドグラスに透けて、青年の真っ白な髪を鮮やかに染めていた。
 青年の他に人の影はないが、青年は誰かと話すように、ぼそぼそとつぶやく。

「ですから、ご自身でなさったことの後始末はしてください。かわいそうでしょう」

「でもでもだって…、ではありません」

「いいですね。仲介はしますから」

 しばらく言葉が途切れてから、青年はふぅ、と息を吐いて顔を上げた。
 どこか愛嬌のあるそばかすを、ぽりぽりとかいて、青年はため息を重ねる。

「まずは、テオに会いに行かないとなぁ…」





 
 次の日、準備できたからいつでも、なるべく早く来てくれたら嬉しいな!(要約)という手紙がビアンカの屋敷に届いた。

「は、早くないですか…?」
「…まあ、最優先事項にしたのでしょう」

 いつまでもアイラをビアンカの家に閉じ込めているわけにも行かない。それでも一週間くらいはかかると踏んでいたのだが、まさか翌日に連れてこいと言われるとは。
 おそらく、本当に急ぎのもの以外書類仕事を全部後回しにしたのだろう。次長が頭を抱えている様子が目に浮かんで、ビアンカは内心で小さくため息をついた。

「とりあえず、あなたを護送する馬車に魔封じを施してきます。昼食をとったら出かけましょう。…ああ、そうです」
「なんですか?」
「アイラは学校の寮に入っていましたよね。学校には、おそらく長く戻ることができません。なにか必要なものはありますか?」

 長く戻ることができない、という言い回しはきっとビアンカの優しさだろう。永遠に戻れないというほうが、きっと現実には近いはずだから、とアイラはビアンカの言葉の選び方に感謝する。

「その…」
「はい」
「鞄と、その中身をお願いしたいです…」
「鞄ですか?」
「はい。その中に、両親の写真と、形見が入っているものですから」

 両親が亡くなって家を出る時に、家のものを全て持っていくことはできず、父が愛用していた鞄と、母がいつもつけていたペンダント、そして全員で撮った写真を2枚。それだけを施設に持っていった。自分の罪を知らされるまでは、辛くて悲しくてどうしようもない夜は、いつも鞄に全部いれて抱きしめて寝ていた。

「わかりました。必ず届けましょう」

 ビアンカは優しく微笑んで、そう頷く。

(ビアンカ様って、よく笑う人だったんだな)

 アイラは感謝を述べながら、そんなふうに思った。
 




 
「ようこそ!国家魔法庁、魔法研究室へ‼︎」
「ぼくらが!」
「魔法研究室魔封じ戦隊」
「「「「「魅了封じるんじゃー!」」」」」

 研究室に通されたアイラとビアンカは、扉を開けたと同時に叫ばれたじこしょうかいらしき言葉と、謎のポーズと、その勢いと意味不明な言葉に固まる。

「せ、せんたい…?」
「ふうじるん、じゃー…?」

 中には五人の白衣を着た人がいて、そのうちの一人がアルトだ。アルトは中央に立ち右の拳を上に掲げるポーズでニコニコ笑っていた。

「別に物理的に戦うわけじゃないけどさ、研究ってまあある意味戦いだから、戦う研究隊員たちを略して戦隊!で、何と戦う?魅了だよね。あ、魅了封じるんじゃー!ってなんか語呂がよくない?って話になって、気がついたらポージングの練習に入ってた感じ」
「意味がわかりません、アルト様…」

 ビアンカがこめかみを抑えていると、五人のうち一番左にいた女性が、うふふ、と笑ってアイラに近づいてきた。

「初めまして、私はミィ。よろしくね」

 手を伸ばされて、一瞬躊躇したアイラに、ミィはまたうふふ、と笑う。

「大丈夫よ。さっき魔封じ戦隊って言ったでしょ?ここにいる私たち全員が魔封じの加護を持っているの」

 ミィの後ろから、吊り目の青年がひょこっと頭を出す。

「そうそう、だから僕らが君の魅了でメロメロになる可能性はほとんど0に近いからさ、安心していいよ!あ、僕はヴィック、よろしくねー」

 強引に手を取られて、アイラはかたまりつつ、はい、よろしくお願いします、と頷いた。

「おい、俺らも自己紹介したいんですけど!初めまして聖女ちゃん、俺はトール。で、こっちの同じ顔したメガネが俺の双子の妹で」
「リリーだよ。ボクたち双子で同一加護持ちっていうレア素材なんだー。聖女ちゃんと一緒!」
「こら、リリー、アイラを素材扱いしないでください」

 ビアンカに叱られて、ごめんごめん、とリリーは首をすくめた。
 だが、アイラは正直、怒涛の展開と自己紹介してきた人たちの勢いに飲まれて、いろいろ混乱していた。
 とりあえず、とミィが部屋をぐるり、とみてからアイラに向いて微笑んだ。

「この部屋が研究棟のうちの、アイラちゃんの魅了について研究するために貸し切った部屋になるわ。アイラちゃんの魅了は魔封じの加護を持つ人だけで対応することになったから、アイラちゃんには監禁生活を強いることにはなっちゃうんだけど…」
「大丈夫です。……むしろ、ありがたいです」

 出来るだけ、人には関わりたくない。今のアイラにとってそれが本心だった。
 自分が魅了魔法を使っていたと知った今、再びあの視線、自分を崇拝するあの視線を向けられるなんて、耐えられる気がしない。先ほどアイラに向けられた、研究対象として興味津々という視線に、どれほど安堵したのか、というのはきっとアイラにしかわからない。
 俯いたアイラをみて、アルトはじめ研究室のメンバーは顔を見合わせた。

「アイラ」
「ビアンカ様…」
「私は別の業務があるので、そばにはいませんが、何かあればアルト様を通して私を呼んでください」

(ビアンカ様は優しい。でも)

 ビアンカの態度が優しいものであればあるほど、効かないはずだとわかっていても、段々と不安になっていく。

「ありがとう、ございます」

 顔が、あげられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される

柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。 だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。 聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。 胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。 「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」 けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。 「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」 噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情―― 一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。

確かに愛はあったはずなのに

篠月珪霞
恋愛
確かに愛はあったはずなのに。 それが本当にあったのかすら、もう思い出せない──。

昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ
恋愛
 剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。  そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。  予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。  リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。 基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。 気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。 連載中のサイトは下記4か所です ・note(メンバー限定先読み他) ・アルファポリス ・カクヨム ・小説家になろう ※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。  https://note.com/mutsukihamu ※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女だと呼び出しておいて無能ですか?〜捨てられた私は魔王様に溺愛される〜

みおな
恋愛
 学校帰りにいきなり眩い光に包まれて連れて来られたのは異世界でした。  王子はこんなちんちくりんは聖女ではないと言い放ち、私を王宮から追い出しました。  元の世界に帰る方法は、魔王の持つ帰還の指輪が必要と言われ、途方にくれた私の前に現れたのは、美形の魔王でした。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...