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第12話 婚約成立
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婚約を申し込まれた後に面会をしたからといって、その場ではいじゃあ婚約成立ね!とは行かないのが王族との婚約である。
とりあえず、私たちは控えてくれていたお父様を呼び、改めて婚約への申し込みを受け、それを受け入れたという話をした。
「リーアはそれでいいのかい」
「はい。らしくなくとも貴族の娘です。王子からの求愛を無下にあしらうような真似はできませんし、なによりジェイク様は、とても誠実な方ですので」
「そうか」
現時点で、王子に恋だ愛だという感情は全くない。
あまりの美しさにドキドキはしたが、それは恋愛感情というより人間という生物の本能的なものに近い気もする。
私の心情に関してはジェイク様も先ほどの会話で確認済みだからかで、妙に慌てていた人と同一人物とは思えない落ち着き…多分こちらが通常運転であろう態度で、柔らかく微笑んでお父様に言った。
「幸せだと、リーア嬢が思うような夫になれるように努力すると共に、ひとまずリーア嬢を全力で口説かせていただこうと思う。よろしいか」
お父様は後半のセリフに面食らったのか少し目をパチクリさせて、笑った。
「ジェイク様は、そういうところ、国王にそっくりですね」
現国王は、元王国騎士であった現王妃様をそれはもう、口説いて口説いて口説き落としたらしい。有名な話で、絵本や舞台にもなっている。
「そうか?」
「ええ。うちのリーアは手強いですよ」
「もう、お父様!」
そんなやりとりをした後、正式な書類が揃い次第自宅へ送るといわれ、王城を後にした。
帰りの馬車の中でもう一度、本当にいいんだね?と聞かれたので、はい、と返事をした。
***
「お母様、今すこしいいかしら」
帰宅して一通りの身支度を自宅用に整えてから、お母様の自室を尋ねた。
「ええ、良いわよ」
「失礼します」
お母様は刺繍をしていたようで、机の前に座っていた。
我が母ながら、そういう貴族的な趣味をしている姿がとても絵になる。
容姿はそれほど際立って美しいとは思わないのだけど(お父様に怒られそうだ)多分、所作のひとつひとつが美しいのだと思う。
そんなお母様の前に椅子とひとつ用意して座り、目を見てお願いをする。
「ねえ、お母様、私に戦い方を教えて」
「まあ」
お母様は基本は穏やかな女性だが、ギムソン家の当主であるお父様の又従兄弟にあたるため、血が濃くなりすぎるからと反対された結婚を、外堀から埋めまくって勝ちとった、情熱的で計算高い女性でもある。
社交が苦手で、夜会の場は壁の花に徹していた、そして今まではそれを許されていた私だけれど、王子と婚約するのであればそうはいかない。
私の失態は、ジェイク様の隙になってしまう。
現時点でいくら愛や恋心はなくとも、婚約の申し込みを受けた以上、私は彼にとって誠実で、良き婚約者にならないといけないのだ。
「ふふ、ジェイク様に惚れちゃった?」
「お母様、その言い方は不敬じゃない?」
「あら、違うの?」
「違うわ」
「まあ、残念」
娘が王子に見初められ、自分も王族と親族になるというのに、我が母ながら軽い。
くすくすと笑いながら、髪を結わせて、というお母様のもとに素直に近寄る。。
「よりにもよって、あのジェイク様に気に入られちゃうなんて、大変ね」
誰が王子妃になるのか、と言われていた絶世の美形王子。
ギムソン家という後ろ盾があるにしても、ほかの貴族の未婚女性からすれば、私の存在は疎ましいものだろう。
「そうね。でも、ギムソン家にとって、良い縁の結婚ができるのは、私にとってはかなりポイント高いのよ」
「そういう考え方は、貴族としてはそんなに間違いじゃないけれど、やっぱり親としては双方に愛のある結婚してほしいんだけどねー」
「それに関しては、ジェイク様が全力で私を口説いて下さるそうですよ」
他人事のように言うと、お母様はまあ、と声を上げて笑った。
「現国王様そっくりね」
「それ、お父様も言っていたわ」
私の髪の毛が、凝った編み込みに仕上がっていく。
お母様はふと、真面目な口調になった。
「この結婚に、前世の貴方は絡んでない?」
「…、なんとも、言えない」
ジェイク様の『一目惚れ』も、口説きたいというその根拠も、私にはわからない。心が読めるような能力は、私にはない。
その理由を聞きそびれたのは、知らず知らずのうちに動揺していたということかもしれない。
「もし、貴方の心がどうしても結婚したくないと言ったなら、その時は絶対に私たちに言いなさい。母の全力を持って婚約破棄させてあげる」
「ありがとう、お母様」
そうこうしているうちに、華やかな髪型に仕上がって、そのあとお母様は私に化粧をした。
いつもみたいに薄化粧ではなく、きちっとした、綺麗な化粧。
貴族としての私が、仕上がっていくような感覚になる。
「とりあえず、ね。“女”として戦うには、化粧とドレスは武器であり防具よ、リーア。敵だと認識した人には、隙を見せちゃいけない」
「はい」
「覚えなさい。美しくあることを」
「はい」
「マナーや、教養に関しては、やろうと思ったら出来る貴方は問題ないから、胸を張って、堂々としているの」
「はい」
やろうと思えばできる…、今までやらなかったのを暗に叱られてしまった。
お母様は、ひとつひとつ、重く呟く。
「まあ、身だしなみに関しては、基本はメイドたちに任せなさい。自分でやりたくなるだろうけど、任せるのも一つの嗜みだから」
「…、はい」
「大丈夫。貴方がそのへんの女に負けることはないわ」
「お母様、そのへんの女って」
「あら、有象無象のほうがいいかしら?」
「お母様ったら」
2人で笑う。
魂が綺麗だからひとりぼっちだった、と占い師が言った。
私のそばには下心を持った人は集まりにくかった、とエレナは言った。
けれど、これから先はそうもいかないだろう。
王族と繋がると言うことは、そういうことだ。
化粧と髪型で仕上がった私になったあと、私はいろいろお母様から教えてもらう。
そうして戦い方を胸に刻んだことで、王族の婚約者として戦う覚悟が、改めて固まった。
とりあえず、私たちは控えてくれていたお父様を呼び、改めて婚約への申し込みを受け、それを受け入れたという話をした。
「リーアはそれでいいのかい」
「はい。らしくなくとも貴族の娘です。王子からの求愛を無下にあしらうような真似はできませんし、なによりジェイク様は、とても誠実な方ですので」
「そうか」
現時点で、王子に恋だ愛だという感情は全くない。
あまりの美しさにドキドキはしたが、それは恋愛感情というより人間という生物の本能的なものに近い気もする。
私の心情に関してはジェイク様も先ほどの会話で確認済みだからかで、妙に慌てていた人と同一人物とは思えない落ち着き…多分こちらが通常運転であろう態度で、柔らかく微笑んでお父様に言った。
「幸せだと、リーア嬢が思うような夫になれるように努力すると共に、ひとまずリーア嬢を全力で口説かせていただこうと思う。よろしいか」
お父様は後半のセリフに面食らったのか少し目をパチクリさせて、笑った。
「ジェイク様は、そういうところ、国王にそっくりですね」
現国王は、元王国騎士であった現王妃様をそれはもう、口説いて口説いて口説き落としたらしい。有名な話で、絵本や舞台にもなっている。
「そうか?」
「ええ。うちのリーアは手強いですよ」
「もう、お父様!」
そんなやりとりをした後、正式な書類が揃い次第自宅へ送るといわれ、王城を後にした。
帰りの馬車の中でもう一度、本当にいいんだね?と聞かれたので、はい、と返事をした。
***
「お母様、今すこしいいかしら」
帰宅して一通りの身支度を自宅用に整えてから、お母様の自室を尋ねた。
「ええ、良いわよ」
「失礼します」
お母様は刺繍をしていたようで、机の前に座っていた。
我が母ながら、そういう貴族的な趣味をしている姿がとても絵になる。
容姿はそれほど際立って美しいとは思わないのだけど(お父様に怒られそうだ)多分、所作のひとつひとつが美しいのだと思う。
そんなお母様の前に椅子とひとつ用意して座り、目を見てお願いをする。
「ねえ、お母様、私に戦い方を教えて」
「まあ」
お母様は基本は穏やかな女性だが、ギムソン家の当主であるお父様の又従兄弟にあたるため、血が濃くなりすぎるからと反対された結婚を、外堀から埋めまくって勝ちとった、情熱的で計算高い女性でもある。
社交が苦手で、夜会の場は壁の花に徹していた、そして今まではそれを許されていた私だけれど、王子と婚約するのであればそうはいかない。
私の失態は、ジェイク様の隙になってしまう。
現時点でいくら愛や恋心はなくとも、婚約の申し込みを受けた以上、私は彼にとって誠実で、良き婚約者にならないといけないのだ。
「ふふ、ジェイク様に惚れちゃった?」
「お母様、その言い方は不敬じゃない?」
「あら、違うの?」
「違うわ」
「まあ、残念」
娘が王子に見初められ、自分も王族と親族になるというのに、我が母ながら軽い。
くすくすと笑いながら、髪を結わせて、というお母様のもとに素直に近寄る。。
「よりにもよって、あのジェイク様に気に入られちゃうなんて、大変ね」
誰が王子妃になるのか、と言われていた絶世の美形王子。
ギムソン家という後ろ盾があるにしても、ほかの貴族の未婚女性からすれば、私の存在は疎ましいものだろう。
「そうね。でも、ギムソン家にとって、良い縁の結婚ができるのは、私にとってはかなりポイント高いのよ」
「そういう考え方は、貴族としてはそんなに間違いじゃないけれど、やっぱり親としては双方に愛のある結婚してほしいんだけどねー」
「それに関しては、ジェイク様が全力で私を口説いて下さるそうですよ」
他人事のように言うと、お母様はまあ、と声を上げて笑った。
「現国王様そっくりね」
「それ、お父様も言っていたわ」
私の髪の毛が、凝った編み込みに仕上がっていく。
お母様はふと、真面目な口調になった。
「この結婚に、前世の貴方は絡んでない?」
「…、なんとも、言えない」
ジェイク様の『一目惚れ』も、口説きたいというその根拠も、私にはわからない。心が読めるような能力は、私にはない。
その理由を聞きそびれたのは、知らず知らずのうちに動揺していたということかもしれない。
「もし、貴方の心がどうしても結婚したくないと言ったなら、その時は絶対に私たちに言いなさい。母の全力を持って婚約破棄させてあげる」
「ありがとう、お母様」
そうこうしているうちに、華やかな髪型に仕上がって、そのあとお母様は私に化粧をした。
いつもみたいに薄化粧ではなく、きちっとした、綺麗な化粧。
貴族としての私が、仕上がっていくような感覚になる。
「とりあえず、ね。“女”として戦うには、化粧とドレスは武器であり防具よ、リーア。敵だと認識した人には、隙を見せちゃいけない」
「はい」
「覚えなさい。美しくあることを」
「はい」
「マナーや、教養に関しては、やろうと思ったら出来る貴方は問題ないから、胸を張って、堂々としているの」
「はい」
やろうと思えばできる…、今までやらなかったのを暗に叱られてしまった。
お母様は、ひとつひとつ、重く呟く。
「まあ、身だしなみに関しては、基本はメイドたちに任せなさい。自分でやりたくなるだろうけど、任せるのも一つの嗜みだから」
「…、はい」
「大丈夫。貴方がそのへんの女に負けることはないわ」
「お母様、そのへんの女って」
「あら、有象無象のほうがいいかしら?」
「お母様ったら」
2人で笑う。
魂が綺麗だからひとりぼっちだった、と占い師が言った。
私のそばには下心を持った人は集まりにくかった、とエレナは言った。
けれど、これから先はそうもいかないだろう。
王族と繋がると言うことは、そういうことだ。
化粧と髪型で仕上がった私になったあと、私はいろいろお母様から教えてもらう。
そうして戦い方を胸に刻んだことで、王族の婚約者として戦う覚悟が、改めて固まった。
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