6 / 8
(6)
しおりを挟む
だが待っても生駒は来ない。生駒は気付いて居るはずだ自分の正体を。その上で迷っているのか、間者と女とどちらに生きるか。
この時に降りしきる雪ののれんが掛かる四脚門をくぐり抜ける蛇の目傘の人影を見つけた。彼は軒下伝いに社殿の角まで動いた。同時に社殿の角を折れた所、境内からは死角になる社務所から二つの浪人風の人影が動く。
蛇の目傘の女は社殿の軒下に居る福島に向かって真っ直ぐ歩いて来る。女は三尺手前で足を止めて蛇の目傘を上げた。結い上げた髪に二つ、三つと雪が吸い込まれていった。生駒である。
「こんな所へ呼び出してすまない」
数日前に勤王の志士が殺害された場所だった。
「あなたがこの場所を決めた時から覚悟をして参りました」
もう祇園の生駒ではなかった。
「そうか」
あの時『あての何処が気にいらんのどすか』と言った。その目をじっと見ると生駒は俺から目をそらした。やはりあの瞳はそうだったのかと福島は力なく答えた。
「あなたはわたしにとってただの人では有りません。だから口数の少ないあなたから一挙動も見逃すまいと努めて参りましたのが逆にあなたには仇になりました」
祇園言葉が消えた生駒は別人の様であった。だが言葉遣いが変わっても生駒に違いない。その証拠に生駒の笑顔が福島の不審をすぐに 打ち消した。
「お一人で来られたのですね」
福島は頷き「誰にも言ってない」と力なく言い添えた。
生駒の仕草を見ても福島は尚も一抹の陰りを抱いた。
「知って居ながらなぜ来た」
「あなたは人を切っても女は切らない人です」
「相手による」
「ではわたしをお切りなさいますか」
「その前に、なぜ俺に近づいた。俺が新撰組だからか・・・」
「最初はそうどした。でも今は違います」
雪は境内を真っ白に染めて降り止み、雲間から射す月の光が社殿と立ち木を際立たせた。
「どう違う・・・のだ」
真綿を敷き詰めたように積もった雪が紅潮した二人を照らした。
「ひと言では言えません」と生駒は即答をさけた。
この時に降りしきる雪ののれんが掛かる四脚門をくぐり抜ける蛇の目傘の人影を見つけた。彼は軒下伝いに社殿の角まで動いた。同時に社殿の角を折れた所、境内からは死角になる社務所から二つの浪人風の人影が動く。
蛇の目傘の女は社殿の軒下に居る福島に向かって真っ直ぐ歩いて来る。女は三尺手前で足を止めて蛇の目傘を上げた。結い上げた髪に二つ、三つと雪が吸い込まれていった。生駒である。
「こんな所へ呼び出してすまない」
数日前に勤王の志士が殺害された場所だった。
「あなたがこの場所を決めた時から覚悟をして参りました」
もう祇園の生駒ではなかった。
「そうか」
あの時『あての何処が気にいらんのどすか』と言った。その目をじっと見ると生駒は俺から目をそらした。やはりあの瞳はそうだったのかと福島は力なく答えた。
「あなたはわたしにとってただの人では有りません。だから口数の少ないあなたから一挙動も見逃すまいと努めて参りましたのが逆にあなたには仇になりました」
祇園言葉が消えた生駒は別人の様であった。だが言葉遣いが変わっても生駒に違いない。その証拠に生駒の笑顔が福島の不審をすぐに 打ち消した。
「お一人で来られたのですね」
福島は頷き「誰にも言ってない」と力なく言い添えた。
生駒の仕草を見ても福島は尚も一抹の陰りを抱いた。
「知って居ながらなぜ来た」
「あなたは人を切っても女は切らない人です」
「相手による」
「ではわたしをお切りなさいますか」
「その前に、なぜ俺に近づいた。俺が新撰組だからか・・・」
「最初はそうどした。でも今は違います」
雪は境内を真っ白に染めて降り止み、雲間から射す月の光が社殿と立ち木を際立たせた。
「どう違う・・・のだ」
真綿を敷き詰めたように積もった雪が紅潮した二人を照らした。
「ひと言では言えません」と生駒は即答をさけた。
10
あなたにおすすめの小説
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
ちはやぶる
八神真哉
歴史・時代
政争に敗れ、流罪となった貴族の娘、ささらが姫。
紅蓮の髪を持つ鬼の子、イダテン。
――その出会いが運命を変える。
鬼の子、イダテンは、襲い来る軍勢から姫君を守り、隣国にたどり着けるか。
毎週金曜日、更新。
人生最後のときめきは貴方だった
中道舞夜
ライト文芸
初めての慣れない育児に奮闘する七海。しかし、夫・春樹から掛けられるのは「母親なんだから」「母親なのに」という心無い言葉。次第に追い詰められていくが、それでも「私は母親だから」と鼓舞する。
自分が母の役目を果たせれば幸せな家庭を築けるかもしれないと微かな希望を持っていたが、ある日、夫に県外へ異動の辞令。七海と子どもの意見を聞かずに単身赴任を選び旅立つ夫。
大好きな子どもたちのために「母」として生きることを決めた七海だが、ある男性の出会いが人生を大きく揺るがしていく。
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
神楽囃子の夜
紫音みけ🐾書籍発売中
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。
年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。
四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる