椿散る時

和之

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 だが待っても生駒は来ない。生駒は気付いて居るはずだ自分の正体を。その上で迷っているのか、間者と女とどちらに生きるか。
 この時に降りしきる雪ののれんが掛かる四脚門をくぐり抜ける蛇の目傘の人影を見つけた。彼は軒下伝いに社殿の角まで動いた。同時に社殿の角を折れた所、境内からは死角になる社務所から二つの浪人風の人影が動く。
 蛇の目傘の女は社殿の軒下に居る福島に向かって真っ直ぐ歩いて来る。女は三尺手前で足を止めて蛇の目傘を上げた。結い上げた髪に二つ、三つと雪が吸い込まれていった。生駒である。
「こんな所へ呼び出してすまない」
 数日前に勤王の志士が殺害された場所だった。
「あなたがこの場所を決めた時から覚悟をして参りました」
 もう祇園の生駒ではなかった。
「そうか」
 あの時『あての何処が気にいらんのどすか』と言った。その目をじっと見ると生駒は俺から目をそらした。やはりあの瞳はそうだったのかと福島は力なく答えた。
「あなたはわたしにとってただの人では有りません。だから口数の少ないあなたから一挙動も見逃すまいと努めて参りましたのが逆にあなたには仇になりました」
 祇園言葉が消えた生駒は別人の様であった。だが言葉遣いが変わっても生駒に違いない。その証拠に生駒の笑顔が福島の不審をすぐに 打ち消した。
「お一人で来られたのですね」
 福島は頷き「誰にも言ってない」と力なく言い添えた。
 生駒の仕草を見ても福島は尚も一抹の陰りを抱いた。
「知って居ながらなぜ来た」
「あなたは人を切っても女は切らない人です」
「相手による」
「ではわたしをお切りなさいますか」
「その前に、なぜ俺に近づいた。俺が新撰組だからか・・・」
「最初はそうどした。でも今は違います」
 雪は境内を真っ白に染めて降り止み、雲間から射す月の光が社殿と立ち木を際立たせた。
「どう違う・・・のだ」
 真綿を敷き詰めたように積もった雪が紅潮した二人を照らした。
「ひと言では言えません」と生駒は即答をさけた。
 
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