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第2章 (1)アカリside

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【夜/自宅】

「もうすぐ、帰って来るかな?」

時計を見ると間も無く19時。
お風呂に入って、夕飯の準備をすませた私はソワソワしてヴァロンの帰宅を待っていた。

パン屋さんで働きたいって事。
どう話そうか……。
とりあえずキッカケを作ろうと、夕飯をシチューにしてパン屋さんで買ってきたパンを添える事にした。

ヴァロンが食べたら、感想を聞いて……。
良いリアクションだったら働きたいって押そうと思ってる。
上手く言えるかな。
ドキドキしながら猫リディアをソファーに座って抱き締めていると……。


「!……みゃ~っ!」

「!……ヴァロン?」

ヴァロンの帰ってくる気配を感じ取った猫リディアが玄関の方を向いて鳴き始めた。
猫リディアを放してやると、玄関にまっしぐら。
私はゆっくり後ろから付いて行くと、鍵が解除されて扉が開いた。


「みゃ~!」

「おっ?……ただいま」

跳び付く猫リディア。
帰宅したヴァロンはそれを受け止めて、とても優しい表情で抱き締める。


っ~~……。

その姿に、私は玄関に向かう途中の廊下で思わず立ち止まって見惚れてしまった。

今まで何度も見ているヴァロンの姿なのに……。
今日はまたいつもと違って見える。
彼を纏う優しい雰囲気に、鼓動が高鳴った。


「……アカリ?ただいま。
そんな所でどうしたんだ?」

私に視線を向けてクスクス笑うヴァロン。


っ……やだ、なんで……。
顔が、まともに……見れないっ。

どんどん熱くなっていく頬。
うるさい位に鳴る心臓。


「っ……お、おかえり……なさぃ」

声が震えてしまった。
恥ずかしくて俯く私。

ヴァロンは猫リディアを降ろして、床に鞄を置くと足早に歩み寄ってきて私を抱き締めた。
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