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第4章 (2)アカリside

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みんなの視線が私からヴァロンに向けられる。
私も少し顔を上げて彼を見ると、周りを鎮めるように優しく微笑んでいた。


私を、助けてくれた……。

助けてくれる為にそう言ってくれた。
……分かってる。


……でも。

『彼女なんていませんよ』……。

少しだけ、その言葉が悲しくて……寂しくて……。
ズキッと痛む胸を押さえて、私はまた俯いた。


すると……。

「だって、僕はもう結婚してますから」


!……。
……え?……っ……。

私の耳に、信じられない言葉が聞こえた。

ザワッと厨房内がまた騒がしくなる。


……ヴァロン?
い、ま……なんて……っ。

呆然と俯いたままの私の元に、聴きなれた愛おしい足音が近付いて来る。


「……ね?アカリ」

その呼び掛けにゆっくり顔を上げると……。
私の見上げた先には、いつもみたいに少し首を傾けて微笑むヴァロンの姿があった。


っ……う、そ……。

ドキンッと跳ね上がる鼓動。
こんな状況なのに、ヴァロンの言葉で沈んでいた心が暖かくなる。

でも、まだ信じられなくて……。
じっと見上げる私の肩をヴァロンはそっと抱くと、みんなの方を向いて口を開いた。


「ご挨拶が遅れました。
いつも、妻がお世話になっています。
まだまだ至らないところがあると思いますが……。
何事にも一生懸命な、僕の自慢の妻なんで仲良くしてやって下さい」

彼は一礼して、すぐ顔を上げてみんなに微笑んだ。

みんな驚いてる。
彼の正体がバレたら、大問題になってしまう。


……けど。
ヴァロンが言ってくれた……”僕の妻”。


っ……どうしよう。
嬉しくて、嬉しくて……笑顔が抑えきれない。

私はつい、幸せを堪え切れなくて笑顔になった。
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