68 / 195
第4章 (2)アカリside
2-3
しおりを挟むみんなの視線が私からヴァロンに向けられる。
私も少し顔を上げて彼を見ると、周りを鎮めるように優しく微笑んでいた。
私を、助けてくれた……。
助けてくれる為にそう言ってくれた。
……分かってる。
……でも。
『彼女なんていませんよ』……。
少しだけ、その言葉が悲しくて……寂しくて……。
ズキッと痛む胸を押さえて、私はまた俯いた。
すると……。
「だって、僕はもう結婚してますから」
!……。
……え?……っ……。
私の耳に、信じられない言葉が聞こえた。
ザワッと厨房内がまた騒がしくなる。
……ヴァロン?
い、ま……なんて……っ。
呆然と俯いたままの私の元に、聴きなれた愛おしい足音が近付いて来る。
「……ね?アカリ」
その呼び掛けにゆっくり顔を上げると……。
私の見上げた先には、いつもみたいに少し首を傾けて微笑むヴァロンの姿があった。
っ……う、そ……。
ドキンッと跳ね上がる鼓動。
こんな状況なのに、ヴァロンの言葉で沈んでいた心が暖かくなる。
でも、まだ信じられなくて……。
じっと見上げる私の肩をヴァロンはそっと抱くと、みんなの方を向いて口を開いた。
「ご挨拶が遅れました。
いつも、妻がお世話になっています。
まだまだ至らないところがあると思いますが……。
何事にも一生懸命な、僕の自慢の妻なんで仲良くしてやって下さい」
彼は一礼して、すぐ顔を上げてみんなに微笑んだ。
みんな驚いてる。
彼の正体がバレたら、大問題になってしまう。
……けど。
ヴァロンが言ってくれた……”僕の妻”。
っ……どうしよう。
嬉しくて、嬉しくて……笑顔が抑えきれない。
私はつい、幸せを堪え切れなくて笑顔になった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる