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第5章 (2)アカリside

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『おめでたですよ。
貴女のお腹には赤ちゃんがいます』……。

先生の言葉が一瞬理解出来なくて、私は喜びよりも驚きと信じられない気持ちでいっぱいになった。


「……え?……え?
だ、だって……私、今月……」

「それはおそらく、着床出血と言って赤ちゃんが子宮に着床した際に起こる出血です。
妊娠初期に起こる為、生理の血と判断し辛くて初めて妊娠される方は分かりませんよね」

今月の初めに確かにあった出血。
それが月のものではなく、着床出血というものだと先生は私に説明してくれた。

そう言われてみれば、普段より出血の量も少なくて短い期間だったら……おかしいとは思っていた。
いつもなら生理が終われば収まる胸の張りも、不調も……続いていた。


「……ほ、本当……に?」

私は半信半疑で自分のお腹に触れた。


「はい、間違いありません」

先生はハッキリとした口調で、笑顔で頷いてくれた。


……赤ちゃん。
ヴァロンの赤ちゃんが、お腹に?
……。……っ。

次第に喜びが湧き上がってくる。
まだお腹を触っても何も分からないけど、急に自分の身体が愛おしく大切に思えてきた。

嬉しくて嬉しくて、今すぐヴァロンに伝えたい。


『俺の夢、叶えて?
アカリと子供と……。ずっと家族で、幸せに暮らしたい』……。

自分の事には無欲な彼が私に願ってくれた夢。
絶対に喜んでくれる。


ついさっきまでの不調や不安が少し晴れて、私は幸せいっぱいだった。

……
…………。
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