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序章 ツバサside
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…………そして案の定。
終わりの時間が近付いて来ても鬼が俺達を見付ける気配はなかった。
陽の傾きや辺りの薄暗さ、そして俺の中の体内時計がもうすぐ18時だと告げている。
「レノア、ゆっくり降りよう?」
普段あまり高い場所に登ったりしない人にとって、登る時よりも降りる時の方が恐怖も大変さも勝る事を知っていた俺はそう提案した。
でも、レノアは倉庫の上で膝を両腕で抱えたまま、俯いている顔を横に振った。
「……いや」
「レノア?」
「っ……帰りたくないッ」
ーー困ったな。
自分は同世代の子供達よりも身体能力に自信があった。けど、さすがに女の子を抱えてこの高さから降りるのは難しい。
何とかして説得しなくては、と僕はもう一度語りかけてみた。
「レノア、帰ろう?」
レノアが首を横に振る。
「そんなにかくれんぼ楽しかった?
なら、また次にかくれんぼやろうよ!」
レノアは首を横に振り続けた。
そして……。
「またすぐに会えるよ!だからさ……」
「ーー私はもう、ここには来られないのっ」
えっーー?
18時の鐘がゴーン、ゴーン……と鳴り響く中で、レノアが言った。
「お母様がっ……結婚するの。っ……そしたらッ、もう……みんなとは遊べなくなる、って……お母様が……っ」
涙声で、その呟きのような彼女の言葉は鐘の音に消されてしまいそうなのに……。俺には、何よりも心に響いた。
聞けば、レノアの母親が結婚する相手はこの国では1、2を争う程の財閥の主人。
元々俺達の中でもズバ抜けて身分が高かった彼女は、俺の父親とレノアの母親との友人関係という繋がりがあったから遊び相手でいられただけで……。本来ならば、知り合う事すらなかったかも知れない相手。
そんなレノアの身分が更に高くなり、これから少女から大人になっていく事を踏まえて、彼女の母親は"今日が最後"と告げていたのだ。
「私……嫌だ!」
「レノア……」
「みんなと、もうっ……遊べないなんてッ。
ツバサと会えなくなるなんてッ……嫌っ!」
そう訴えながら顔を上げたレノアを見て、ドキッとした。
だって、その泣き顔は今まで自分が見てきた彼女とは全く違って……。上手く言えないけど、"友達"に見せる表情とは違うように感じた。
不意を突かれて、レノアに飛び付かれた俺は支えきれなくて尻餅を着く。
背丈も体格も小さい俺は、まだ覆い被さるように泣き付く彼女を抱えきれなくて……。でもいつか、今は自分の身体が倒れないように支えているこの両手を地から離して、抱き締めてやれると思っていたんだ。
そして、レノアの直向きな想いにも、応えてやれるって……思ってた。
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