片翼を君にあげる①

☆リサーナ☆

文字の大きさ
118 / 172
第6章(4)ツバサside

4-4

しおりを挟む
***

「……、……。
……これでよし。どう?痛くない?」

「うん、大丈夫。ありがとう」

自宅に着いて、シャワーを浴びて着替えた俺は、居間のソファーに座りながら母さんの手当てを受けた。
お礼の言葉を聞いて母さんは微笑んで頷くと、テーブルの上の救急箱の蓋をパタンッと閉めて、俺の隣に腰を降ろす。

優しい母さん。
俺が話しやすいように、おかしな前置きもせず、そっと寄り添ってくれた。
そんな母さんの事、俺は……。

「俺が夢の配達人になりたかったのはね、初恋の人に喜んでもらいたかったからなんだ」

「え?」

大事な話、と言っていたのに、俺の言葉が予想外だったのか、母さんは顔をこっちに向けると、まるで幼い子供のような表情で呆然としていた。俺は続ける。

「その人はね、いつもある人の記事や写真を俺に見せながら嬉しそうに語るんだ。ほんっとに、幸せそうに。
……俺には、その人の笑顔が世界で1番輝いて見えた」

「……」

「その人が大好きって言う人になりたくて。その人に、1番の笑顔を向けてほしくて……俺は、夢の配達人になろうって思ったんだ」

「……っ、そ……その人、って、もしかして……」

俺の言葉に勘づいた母さんは、少し動揺して、少し恥ずかしそうにして……照れながら微笑った。
俺は答える。

「そう。
俺の初恋の人はね、母さんだよ」

「っ、も、もう……!いきなり何言ってるのっ?
親を揶揄からかうんじゃありません!」

口ではそう言ってるけど、まんざらでもない様子の母さんの笑顔。
俺はこの瞬間、ようやく久々に母さんの本当の笑顔を見た気がした。俺が父さんの仮面を被って、自分を隠して嘘を吐いていた時には決して見られなかった笑顔。

ようやく見られて、安心した。
だから、もう大丈夫だって確信した。
母さんも、俺も……。

だから、ゆっくり口にしたんだ。

「ーーだから父さんが亡くなった時、辞めても良いと思ったんだ」

俺は初めて、父さんの死を、声に出して言った。
胸がドクッて、一瞬締め付けられる。でも、続けた。

「母さんの為になろうと思った夢の配達人だから、辞めるのも母さんの為でいいと思った。
それで、母さんが、微笑って……くれる、なら……」

「!……ツ、バサ?」

言葉が自然と、途切れた。
俺を見ていた母さんがハッとした表情をして、戸惑いながら、俺の頬にそっと触れる。

おかしいな?
左だけじゃなくて、両目とも熱いーー?

優しい母さんの親指に頬を滑るようにされれば、さっき雨粒で濡れたような感覚がして……。次第に、目の前の母さんが歪んでいく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

処理中です...