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第9章 (2)ヴァロンside

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『でも、あと少し……。
あと少ししか傍に居られない立場で、私はアンタに気持ちを伝える事は出来なかった。
アンタが誰よりも、愛を欲しがっているのを知っていた。
けど、将来アンタの傍にいるのは私じゃないから……。

なら、せめて……。
未来をアンタに託したかった。』

あと少し……。

あと少しなら、俺はあんたの傍に居たかったよ。

あんたの口から、本音を聴きたかった。


あの時、俺が欲しかったのは……。
他の誰でもない、あんたの愛だったから。


分かりにくいんだよ。

確かに当時の俺は、あんたと幸せに生きていて、突然それが消えたら……。
立ち直れなかったかも知れない。

あんたが突き放してくれたから、今があるのかも知れない。

……けど。
お陰でたくさん回り道したんだぞ?


『お互いに不器用過ぎて、たくさんすれ違っちゃったね。

初めて人生に後悔をした。
アンタとの最後の夜。
下剋上の日に、素直になれば良かった。って……。

意地を張る私に、アンタは優しくしてくれたね。

乱暴な口調とは反対に……。
優しく口付けてくれて。
優しく私に触れてくれた。

暖かくて、心地良くて……。
ずっとずっと、ひとつになって触れ合っていたかった。


ヴァロン、ありがとう。

アンタの腕の中でだけ、私は幸せな女の子でいられました。』

……俺も、たくさん後悔したよ。

この夜のリディアを、何故もっとちゃんと見なかったんだろう?

俺を見つめてくれて……。
抱き合って、あんなに互いを求め合ったのに……。


”好き”、”愛してる”……。
何故、大切な言葉を言い合わなかったんだろう?
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