スノウ2

☆リサーナ☆

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第1章(5)紫夕side

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「っーー……絶対に、目覚めさせるッ」

もどかしい、悔しい気持ちが溢れて右手に拳を作るように強く握り締めれば、腕から二の腕にかけて巻いていた包帯に血がジワジワと滲む。スノーフォールを討伐する際に負った傷だ。

閃光玉で目眩しした後、地面に倒れ込んだスノーフォールが再び飛び立つ事が出来ないよう、俺は溜め斬りでその翼を切り落とそうとした。が、スノーフォールが体勢立て直すのは思った以上に早くて……。満足な溜め斬りが放てなかった結果、翼を切り落とせる迄には至らなかった。
翼に深い傷を負ったものの、スノーフォールは鋭い鉤爪かぎづめで反撃。ひるんだ俺を長い尻尾で弾き飛ばすと、すぐに飛び立ち逃げて行った。

ゆきを目覚めさせる為にはスノーフォールを討伐し、そいつから必要な部分パーツを手に入れなくてはならないーー。

それが、ゆきの父親であり、人型魔物であるゆきの母親サクラさんを造り出したたちばなが出した結論だ。
もちろん当初は、たちばなの力を借りるつもりなんてなかった。俺は研究室から盗み出した人型魔物の身体の仕組みなどが書かれた資料を元に、必死に自分だけでゆきを救ってやろうとした。
……でも。元々研究員でもない俺がやれる事には限界があって、ゆきを目覚めさせる事は出来なかった。

だから、俺はたちばなを頼った。
親父への恨みや憎しみ、ゆきの母親サクラさんに託された想いを封じて……。ゆきが生きられる人生みちを選んだ。

でも、それはーー……。

「……俺を軽蔑してもいい。目覚めたら、怒ってくれてもいい。っ……それでも、いいんだ」

今俺が歩んでいる人生みちは、ゆきが望んでる人生みちでない事が分かってる。
最後に俺に微笑ったアイツは、自分がどうなるか知っていて、覚悟を決めて、俺に未来を託していたのだから……、……。

それでも、無理だったんだ。
ゆきがいない毎日なんて、俺には耐えられない。
ゆきが目覚めて、動いて、俺に語り掛けてくれるならーー……。

「ーー俺を嫌いになってくれてもいい。
それでも俺は、お前に生きててほしいんだよ。ゆき

歪んだ愛だと思われても、構わないーー。

「……次こそ、スノーフォールやつを狩ってくる。
この家の近くにな?桜の木があるんだ。きっと、もうすぐ咲くから……絶対に一緒に見よう」

その瞬間まで、絶対に泣いたりしないーー。

ゆきが倒れて涙を流したあの日を最後に、何度も溢れそうになる想いを、俺は今日も封じたーー……。

……
…………。
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