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第2章(3)紫夕side
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しおりを挟む「骨髄液よりも、龍の涙の方が入手難易度が高いのは間違いねぇな。痛め付ける、ってのは拷問みたいであんまやりたくないが……。他に方法がなかったら、やるしかねぇな」
「なら、とりあえず体力奪って弱らせて、罠使って動きを封じるのが最優先ッスかね~」
「だな。体力奪うのも罠に引っ掛けるのも一筋縄にはいきそうにねぇが、今回の討伐で絶対に最後にしたい」
ーーそうだ。
今回の討伐で、絶対に最後にする。
響夜と会話する内に冷静さを取り戻した俺は、そう心に決めてここへ来た事を改めて自分に言い聞かせた。
今朝、家を後にする際に近くに生えている桜の木を見たら、その花の蕾は今にも咲きそうだった。
「桜の花はね、写真でしか見た事ないんだ。
風に吹かれて花びらが散ると、雪みたいなんでしょ?見てみたいなぁ~。
……えっ、本当っ?春になったら?約束だよ?」
雪の言葉と笑顔が、俺の中で今でも鮮やかに浮かぶ。
魔物によって自然が破壊された上に気候が歪んだこの世界で、桜の花を見る事も簡単じゃなくなった。だから約束したんだ、「一緒に桜の木を探して、春になったら見に行こう」って……。
そしたら、まるで運命かのようにそこに在ったんだ。俺が住処に決めた、森の中の一軒家の近くに……。
ーーもう一度、雪の笑顔が見たい。
その為には今回で全ての必要部分を持ち帰って、雪が目覚めるように早急に橘に処置をしてもらう必要があった。
風磨との再会で緩みかけていた気を引き締め直して、俺は思う。
橘達の考えは理解出来ねぇ。
でも、今は奴等くらい冷酷にならねぇときっとダメな時だ。とーー。
何よりも私欲を優先し、それを達成する為ならば手段を選ばない橘達のような心持ちで挑まなければならないのだ。
そう、例え、どんな試練が待ち受けていようともーー……。
俺達がキャンプを張ろうとしていた地点が見えた瞬間、"ある光景"が目に映って足を止めた。
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