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第8章(1)雪side
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しおりを挟む「紫、夕……?」
「ッーー……。
……、っ…………ゆ、き」
雪ーー。
じんわりと耳から心に浸透するその響きは、もう、ずいぶんと聴いていなかったかのように懐かしく感じる。
……うん、そう。
やっぱり紫夕には、そう呼んでもらえた方が嬉しかった。
嬉しいーー。
そう感じたら暖かい気持ちが溢れて、オレは自然と微笑っていた。
すると、それとは反対に紫夕の瞳があっという間に潤み出して、溢れ出した涙が頬をつたり落ちた。
紫夕ーー……。
涙を拭ってあげたくて……。いや、紫夕に触れたくて手を伸ばそうとする。
が、身体が上手く言う事を聞いてくれない。
なんとか必死に左手を上げると、まるで想いが伝わったかのようにその手をぎゅっと、紫夕が両手で包み込んでくれた。
「ゆ、きっ……。ッ……雪っ」
涙に言葉を詰まらせながらも、何度も名前を呼んでくれる紫夕。
その呼び掛けに応えたい。
でも、身体を動かす事も、話す事さえも上手く出来なくて……。それどころか、せっかく目覚めたのに、また眠くなってきてしまう。
「……っ、ご……めん…………。ま、だ、うま……く、うごけ、な……」
「っ、いい!いいんだ、謝んな!謝んなくていいからッ……!
もう少し休め、なっ?無理しなくていい……ッ」
オレが謝ると、紫夕は首を横に振って、優しく頭を撫でながらそう言ってくれた。
それが心地良くて、余計に眠気を誘われる。
「傍に居る。
絶対に離れねぇからっ……安心しろ」
眠ってしまったら、また離れ離れになってしまうかも知れないーー……。
そんなオレの心にある不安を感じ取ってくれたかのように、紫夕はもう一度強く手を握り直してくれた。
ああ、大丈夫だーー……。
紫夕の言葉と温もりが、不安を溶かしてくれたかのように消える。
オレは、あっという間に意識を手放して、眠りに落ちていった。
自分を待ち受けているこの未来がどんなものかも知らずに……。
この時はただ、素直に紫夕の傍に居られる事が嬉しかった。
……
…………。
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