252 / 589
第12章(3)紫夕side
12-3-4
しおりを挟む「へ~そりゃすご……」
「ーー見ててね?」
俺の言葉を遮ると、雪はコップに入っていた水を指さして……。「ほらね!」と、得意気に言った。
ーー……は?
俺は、凝視した。
コップの中に入っていた水が、一瞬で、凍ったからだ。
冷や汗が、出た。
信じられない現象を目の当たりにして、頭の中が真っ白になった。
今は初夏、気温は真夏とまではいかないが暖かい方だ。自然に水が固まるなんて、まず有り得ない。
っ……雪が、本当にーー?
「ねっ?すごいでしょっ?」
戸惑う俺に、雪がまるで子供のように無邪気に微笑む。
その表情を見て、胸がドクッと締め付けられながらも……。俺は、何とか笑顔を作って、雪の頭を撫でてやった。
「っ、ああ。すごいすごい!
ごめんな~、あんまりすごいからビックリしちまったよ!」
返事をするまでに出来てしまった間を、俺は驚いた、って事にして、そう言った。
すると雪は、
「オレ、紫夕に迷惑かけないように頑張るからね!」
って、笑って……。
再び、朝食の続きを頬張り出した。
「……わりっ、雪。俺、ちょい用を足してくるな」
「うん、いってらっしゃい」
そんな雪を残して、俺は理由をつけてその場から離れた。
……、っ……バカ。
あれくらいの事で、何動揺してんだよっ。
乱れた心が歩みに表れ、ついつい早足になる。
少し離れた場所まで来て、俺は俯いて拳をギュッと握り締めた。
どんな雪でも愛してる。
どんな雪でも受け入れてやる。
魔物でも構わない、って誓ったんだ。
……それなのに。
さっき雪の力を目の当たりにした時。俺は一瞬、感じちまったんだ。
強力な魔物と対面した時の恐怖をーー……。
本能的に。無意識に咄嗟に感じてしまった感情とは言え、俺はそんな自分が許せなかった。
……
…………。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる