355 / 589
第18章(1)雪side
18-1-3
しおりを挟む煙草をやめて、お酒もあまり飲まなくなって……。守護神の仕事で留守にする時以外は、どんなに夜遅くても迎えに来てくれて、オレと一緒に過ごしてくれた。
ーー……ああ。
本当に、大好きだったなぁ。
過去を振り返れば振り返る程。思い出せば思い出す程、そう思った。心が、揺れる。
でも、このまま傍に居れば、自分はいつか魔物化して紫夕の事を喰い殺してしまう可能性もあるのだ。
それだけは、絶対に嫌だ。
だから、このタイミングで離れるのが1番良いんだ。
オレは自分に言い聞かせて迷いを払うと、パジャマから私服に着替えた。
洗面所で涙で濡れた顔を洗い、長い髪を簡単にまとめて身支度を整えると、羽織ったパーカーのフードを被って酷い顔を隠す。
……置き手紙なんてしたら、ウザいよね?
本当は、「ありがとう」って、一言だけでも伝えたかった。
でも、帰って来た紫夕がそれを見て、またオレの事を思い出して気分が悪くなるのは……嫌だった。
出て行く、って。
離れる、って……。
もう、会わないって決めたんだ。
それなら、もう何も、残さずに行こうーー……。
オレは、リュックを背負うと玄関で靴を履き、追って来ようとする紫雪をコテージ内に残すと、扉を閉めて外に出た。
……
…………。
眩しい太陽の光も、秋色に色付き始めていた自然の美しさも、目に入ってこない。
そして、自分に忍び寄って来ていた魔の手にも気付かない程に、オレの心は落ちていた。
「ーーこれはこれは、自ら目の前に出て来てくれるとは思わなかったよ。雪君」
その声にビクッと立ち止まり、俯いていた顔を上げる。
そこに居たのは、焦げ茶色の髪に瞳の……。
「っ、風磨……さん」
ドクンッと嫌な音を立てる鼓動。
止まっていたかのような時間が、静かだった空気が騒めき出す。
オレが名を口にすると風磨さんはニコッと微笑み、右手をオレに向かって差し出した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる