スノウ2

☆リサーナ☆

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第18章(4)雪side

18-4-2

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「親父からの命令は「コイツの奪還」だった筈だ。それなのに……」

そう言った響夜きょうやが顔だけこちらに向けてオレを見てきて、ドキッとした。
でも、視線が交わる事がなく、響夜きょうやが見ていたのはもう少し下。ベルトを緩められて乱れた、オレの着衣。
それに気付いたオレがカアッと顔に熱が高まって慌てて隠すのと、響夜きょうやの怒りが込もった声を放つのは同時だった。

「何勝手な事してんだよ、てめぇッ……!」

その声の鋭さは、まるで"返答次第では殺す"と言っているかのようだった。
けど、風磨ふうまさんは態度を崩す様子はなくさらりと答える。

「いいじゃないか。遅かれ早かれ、彼は僕の物になるんだから。
たちばなさん……。"君のお父さん"から、そう許可はもらっているよ」

君のお父さんーー。

橘さん父さんの名前を出して、強調して、勝ち誇ったように風磨ふうまさんは笑った。
そう言われた響夜きょうやは、黙って……。でも、ギュッと拳を握り締めていた。まるで、悔しがっているみたいに……。
その様子に、やはり響夜きょうやでも橘さん父さんに逆らう事は出来ないのだ、と。絶対的な権限があるのだと思い知る。

……やっぱり。
オレは、このまま風磨ふうまさんに……。

目を伏せながら着衣を直す手が震える。

こんなんで、この先オレは本当に1人で赤ちゃんを護れるのーー……?

弱音を吐いてはいけない。
けれど、橘さん父さん風磨ふうまさんの手の中にあるこの状況で、無事に子供を産めるのか不安が過った。

勿論、全くの考えなしで飛び込んだ訳ではなかった。
橘さん父さんに近付けば、自分にとっても良い情報が入ってくるんじゃないか?と、オレは少し期待していたんだ。
赤ちゃんの事、出産の事……。何より、オレは今自分の身体がどんな状態なのかすら知らない。
だから、橘さん父さんの側に行く事で、少なからず自分にも利益があると思っていた。

けど、やはり自分は父親にとって実験動物でしかなくて……。それを改めて痛感し、危険な場所である事に落胆する事しか出来なかった。
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