418 / 589
第20章(4)紫夕side
20-4-4
しおりを挟むでも……。
「こらこら、二人とも!「ぼく」と「わたし」、じゃ誰なのか分からないだろ?」
二人に言い聞かせる年配の女性の声がした。
その声は、和希のお袋さんであり、尋ねて来た二人の祖母である亜希さん。
二人を叱咤した彼女は声を整えると、雪に優しく語り掛けた。
「サクラさん、いきなり訪ねて来てすまないねぇ~。
私は二人の祖母の亜希。昨日二人がお世話になったそうで、お礼に伺ったんだけど……。
良かったら、コレだけでも受け取ってもらえないかね?」
その声に、後ろ髪を引かれるように振り向く雪。
「あ!このにおいスコーン?」
「おばあちゃんのスコーン、わたしもたべたーい」
「!……これっ!あんた達のはお家にあるから!」
楽しそうな、賑やかな三人のやり取り。
雪は迷いつつも、ゆっくり扉に近付いて覗き穴から外の様子を覗いた。
そして、暫く考えた後。鍵を解除して、ゆっくり扉を開けて、控え目に顔を覗かせる。
心優しい雪が、わざわざ訪ねて来てくれた人を追い返せる筈がないーー。
今なら冷静にそう思える自分が、憎らしかった。
「あ!サクラちゃん!」
「おはよう!サクラちゃん!」
「お、おはよう。ハル君、リンちゃん」
雪が姿を見せると二人はすごく喜んで、可愛い笑顔を見せていた。
その無邪気な姿を見て、雪は胸を痛めるようにまた戸惑っている。きっと「もう来ないで」って、俺の為に言おうとしていたんだ……。
けど、なかなか話を切り出せないでいる雪の前に、口を開いたのは亜希さんだった。
「こりゃあ、驚いたねぇ……。本当に妖精さんみたいじゃないか」
雪を見て驚く亜希さん。春来と鈴夏は「でしょでしょ!」と得意気な顔で微笑ってた。
その様子からも、雪が俺を決して裏切っていた訳ではないと、気付く。
一緒に仕事をしていた職人が「美人な奥さん」と噂していたのは、子供達が雪の事を大人達に話していたからだった……、……。
雪は、その言葉に喜ぶ、と言うよりは後ろめたさを感じているようだった。
魔物の力が増す度に人間離れしていくような自分を隠したいかのように、俯く。
すると、その様子に気付いた亜希さんが言う。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる