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第8章(1)マオside

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もし、また大切な人にそんな事言われたら……。


「っ……」

おかしいな。
外はこんなにも暑いのに、身体が……。
心から凍り付いていくように感じて、小刻みに震えてくる。

人に自分がどう思われているのか、知るのが……。
嫌われるのが、怖いーー。


だから、人との接触を避けてきた。
特別な感情を抱かないように、期待しないようにしてきた。


それなのに……。
さっき僕は、何を考えた?

少しだけ、アカリさんに自ら歩み寄ろうとしていた自分に怖くなる。


「っ……で、では。
そのっ……僕、っ……帰ります」

「!……え?マオさん?」

アカリさんの、驚いたような声が聞こえた。

でも、もう湧き上がった恐怖で顔が見れないし、まともに話せる自信もない。

逃げ出すように背を向けるとーー。


「おにいちゃん、かえっちゃうの?」

「!ッ……」

僕の手を、小さな手が握って止めた。


「おしごとなのー?
おしごとにいっちゃうのー?」

繋いだ手を少し揺らしながら、ヒナタちゃんが僕に尋ねてくる。


もう振り返らないつもりだったのに、僕は見上げるヒナタちゃんと目を合わせた。

少し瞳を潤ませて、つまらなさそうに眉毛を八の字にしているその表情が……。
僕に”行かないで”と、言っているように感じて仕方がない。


……何故だろう?
この子に、こんな表情をさせたくない。

会って2回目の少女に、僕はそう感じた。


「……ううん。
お仕事は、ないよ?今日は、お休みだから」

気付いたらそう言って、僕はヒナタちゃんの目の前に屈んでた。

そしたら……。


「じゃあ、いっしょにあそぼー!
ひろばにいって、いっしょにあそぼー!」

「ーーーっ」

パァッと表情を輝かせて、倒れ込むようにして、胸に飛び込んで来るヒナタちゃん。
僕はそれを、咄嗟に抱き止めていたんだ。

腕の中の小さなぬくもり。
それは初めてのはずなのに、僕の腕の中にしっかりと収まっていた。

……
…………。
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