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第20章(3)ローザside
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しおりを挟む男の存在は私の憧れ、そしてなりたい姿だった。
この男は素直で、嘘をつく事さえ嘘吐きで……。全部が全部、この男の本当の姿なのだ。
アカリ様がこの男と居て、お嬢様と召使いという身分差を超えて楽しそうにしていた理由がやっと分かった。
飾らず気持ちに寄り添って、相手の心を自然に解放させる事が出来る。
きっと仕事でありながら、仕事ではなく。他人なのに他人として扱わず、まるで日常が流れていくような穏やかな時の中で、次第に夢の中へ誘っていく。
これが、伝説の夢の配達人のヴァロン。
勝手にライバル視していた自分が恥ずかしい。
この男は使用人とではなく、また主人とではなく、アカリ様というただ一人の存在とずっと目線を合わせて過ごしてきたのだ。
そう分かったら悔しさよりも、私の大切なお嬢様を大切に想ってくれているこの男の存在を……心から嬉しく、同時に羨ましく思えた。
「……分かりました。貴方の処分はそのように致しましょう」
この時アルバート様の代理を任されている私の立場からしたら、もっと厳しい処分を下すべきだったに違いない。
使用人が主人に対して恋愛感情を持ち、それを秘める事が出来ないなど本来あってはならない事。
けれど、ヴァロンが私と同じ立場ではないのなら……。
アカリ様とヴァロンが互いを対等に見ているのならば、私の命令などでは決して引き離せないと思った。
だから……。
「コレ、あんたからアカリに渡してくれねぇか?」
アカリ様がモニカ様と企画しているクリスマスパーティーの前夜。
そう言ってヴァロンが私に差し出してきたのは、えんじ色に白い真珠で装飾された小さな宝石箱。
「頼まれてて、ようやく直ったんだ。
アカリの両親の形見。大事なもんだから頼むよ」
両親の大事な形見ーー。
そう言われた宝石箱に、私は見覚えがあった。
アカリ様がこの別荘に来たばかりの頃、昔の生活に未練を残さないようにとアルバート様の命令で、ほとんどの物を処分させた。その時……。
『やめて!その宝石箱だけは捨てないでッ……!!』
壊れて音が鈍いからただのガラクタのように、私達が扱った品。
アカリ様があまりにも必死だったから免れたものの、一歩遅ければゴミとなっていた品だった。
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