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第24章(4)マオ&ヴァロンside
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しおりを挟む『も、もうっ!
いきなり撮るから、絶対に変な顔してるよ~』
久々に再会出来てやっと訪れた家族の団欒。俺がいきなり写真撮ったら、そう怒ったっけ。
すぐ拗ねて、恥ずかしがって、泣き虫で……。でも、いつも俺に最高の笑顔をくれる。
「ヒナ……タ、ッ」
妻にそっくりな愛娘の名前。
愛おしい妻との間に産まれてきてくれた、大切な宝物。
ベビーベッドを覗き込むと、小さな手をいっぱいに伸ばして抱っこをせがんできて……。その姿を見たら、いつも仕事疲れなんて吹き飛んだ。
掴まり立ちをし始めたら、"危ない"って慌てて抱き抱える俺を見て、楽しそうに微笑ってた。
そんな、幸せな想い出が次々と……。まるで映像のように失っていた記憶が浮かんでくる。
ーー帰りたいッ!!
今すぐに、あの場所に戻りたいっ!!
痛い位に高鳴る鼓動。
心が悲鳴のような叫び声を上げて、俺に訴えていた。
「……っ!!」
でも、そう思うと同時にもう一つの想いが浮かぶ。
記憶を失くして何年も経ち、自分は家族にどれだけ悲しくて辛い想いをさせたのだろう?
そればかりか、幼い子供をたった一人で育ててくれた彼女と再会していながら、俺は……。
『アカリさんの気持ちには応えられません。
本当にごめんなさい』
……何度も何度も彼女を傷付けたあげく、自ら別れを告げたじゃないか。
そんな自分が今更、許されるものか?
彼女の元に……。家族の元に帰っても、いいのか?
こんな俺を、今も待っていてくれているんだろうか?
そんな疑問が浮かんで、今いる場から大事な一歩を踏み出す事に躊躇する俺。
その時。震える手から箱がすり落ちて、中に入っていた写真が宙を舞った。写真はヒラヒラとゆっくり落ちていき、裏面を見せて床に舞い落ちる。その、本来なら何の印刷もされていない真っ白の裏面には……。
「!……っ、え?」
記憶を失くす前の俺からの、今の俺へのメッセージ。
『過去の自分にも、未来の自分にも、言いたい事は変わらない。
"お前には、将来優しい奥さんと可愛い子供が家族になってくれて。
大切な人や大好きな人がたくさん出来て、必ず心の底から幸せだって笑える日がくる。
だから、何も心配せず、そのままのお前でいていいよ。"』
俺が、俺に言っていた。
ーーーそのままのお前で、いていいよーーー
そのメッセージを見た瞬間。
自分の中でつかえていた物が一気に、なくなっていくように感じた。
ずっと弱かった俺。
弱いから自分に自信がなくて、何も信じる事が出来なかった。
今いる場所から、抜け出す事が出来なかった。
でも、ようやく俺は俺自身を信じる事が出来のだ。
そのままでいいのだ、と……。
すると、まるで生まれ変わったかのように、心が軽い。
自らを受け入れられたら、もう何も怖くない。
迷いなんて消える。
アカリは今も、俺を待っていてくれている!
そう確信して床から拾った写真をもう一度見つめると、自然と笑みが溢れて……。暖かい涙が頬をつたり落ちていた。
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