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第十一話
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「それじゃー、無事到着したことを祝して、乾杯!」
そんな、威勢の良い声に追従するように『乾杯!』の合唱が室内に響く。
それに続き、各々の話し声や食器がぶつかり合おう音が、そこかしこで鳴り出し、あっという間に騒音で満たされた。
ここは『神木の吐息』の食堂。ギルドから帰ってきてすぐに夕食の時間になり、十分ほどロビーで過ごした後、今に至る。
俺は、初めて見るこちらの料理に目を輝かせているクラスメイトに、かつての自分を重ねて懐かしみながら、カップに残った茶を一気に喉へ流し込んだ。
よく冷えたそれは、日本でよく飲んでいた麦茶に近いが、ウーロン茶の様な苦みも混ざった独特な味だ。
日本では味わえない(前に一度麦茶とウーロン茶を混ぜてみたのだが、何故だかあまり似た味にはならなかったのだ)、旅の記憶を思い起こさせる味に、ほう、と息を付く。
そして、目の前に鎮座する夕食に手を出した。今晩のメニューはホーンラビット――よくいる魔物の一種――の照り焼きと、マンドラゴラ――様々な用途で使われる植物――の葉のお浸し、薄塩味の野菜スープに黒パンだ。
日本の食事に比べるとわずかに質は劣るのだが、その事を言及するのは野暮というものだ。そもそも、質が劣るとはいえそれは少し高いレストランとファストフード程度の差で、薄味が平気なら普通に美味しく食べられる。
それに、野菜スープと黒パンはともかく、ホーンラビットの照り焼きとマンドラゴラのお浸しは、日本ではまず食べられない独特な味付けだ。
そんな、久しく忘れていた味に感動を覚えていると、隣の空席に一人、やってきた。
ツェーンだ。
「食事はどう? 美味しい?」
「ん……ッ、…美味しいよ、椿紅先生」
「そう、それは良かったわ」
先生としての口調で話しかけてくる彼女に返事をすると、それは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。そして、「他の生徒にも声掛けしなくちゃ」と呟きながら立ち去っていく。
その時、さりげなく手を突き出された。彼女の目を見ると、至極真面目な顔で頷いたので、何かあるのかと手に視線を戻すと、そこには一枚の紙きれが握られていた。
受け取れ、と促してくるので、さっとそれを受け取って食事に向き直る。俺が紙を取るとツェーンも表情を崩し、近くのクラスメイトの元へと歩いて行った。
「……何かあったのかな?」
口内の肉を咀嚼しながら、渡された紙をゆっくりと開く。
そこには、少し丸まった柔らかい字で『今晩教師用の部屋に来てほしい』と言う旨の事が書かれていた。
こちらの世界に関する知識がある者が少しでも多く欲しいと、米津先生からの要望らしい。
少し面倒ではあるし、米津先生に俺の秘密が知られると考えると少し憂鬱だが、ツェーンがいるなら、と考え直して、残った夕食を目いっぱい味わった。
そんな、威勢の良い声に追従するように『乾杯!』の合唱が室内に響く。
それに続き、各々の話し声や食器がぶつかり合おう音が、そこかしこで鳴り出し、あっという間に騒音で満たされた。
ここは『神木の吐息』の食堂。ギルドから帰ってきてすぐに夕食の時間になり、十分ほどロビーで過ごした後、今に至る。
俺は、初めて見るこちらの料理に目を輝かせているクラスメイトに、かつての自分を重ねて懐かしみながら、カップに残った茶を一気に喉へ流し込んだ。
よく冷えたそれは、日本でよく飲んでいた麦茶に近いが、ウーロン茶の様な苦みも混ざった独特な味だ。
日本では味わえない(前に一度麦茶とウーロン茶を混ぜてみたのだが、何故だかあまり似た味にはならなかったのだ)、旅の記憶を思い起こさせる味に、ほう、と息を付く。
そして、目の前に鎮座する夕食に手を出した。今晩のメニューはホーンラビット――よくいる魔物の一種――の照り焼きと、マンドラゴラ――様々な用途で使われる植物――の葉のお浸し、薄塩味の野菜スープに黒パンだ。
日本の食事に比べるとわずかに質は劣るのだが、その事を言及するのは野暮というものだ。そもそも、質が劣るとはいえそれは少し高いレストランとファストフード程度の差で、薄味が平気なら普通に美味しく食べられる。
それに、野菜スープと黒パンはともかく、ホーンラビットの照り焼きとマンドラゴラのお浸しは、日本ではまず食べられない独特な味付けだ。
そんな、久しく忘れていた味に感動を覚えていると、隣の空席に一人、やってきた。
ツェーンだ。
「食事はどう? 美味しい?」
「ん……ッ、…美味しいよ、椿紅先生」
「そう、それは良かったわ」
先生としての口調で話しかけてくる彼女に返事をすると、それは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。そして、「他の生徒にも声掛けしなくちゃ」と呟きながら立ち去っていく。
その時、さりげなく手を突き出された。彼女の目を見ると、至極真面目な顔で頷いたので、何かあるのかと手に視線を戻すと、そこには一枚の紙きれが握られていた。
受け取れ、と促してくるので、さっとそれを受け取って食事に向き直る。俺が紙を取るとツェーンも表情を崩し、近くのクラスメイトの元へと歩いて行った。
「……何かあったのかな?」
口内の肉を咀嚼しながら、渡された紙をゆっくりと開く。
そこには、少し丸まった柔らかい字で『今晩教師用の部屋に来てほしい』と言う旨の事が書かれていた。
こちらの世界に関する知識がある者が少しでも多く欲しいと、米津先生からの要望らしい。
少し面倒ではあるし、米津先生に俺の秘密が知られると考えると少し憂鬱だが、ツェーンがいるなら、と考え直して、残った夕食を目いっぱい味わった。
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