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第十三話

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「理解できないな」
「……ですよねぇ」

 あれから約三十分後。
 ツェーンのベッドに腰かけ、色々言葉を選びながらたどたどしくも終了した俺の説明 (多少のごまかし付き)に対する、米津先生の反応はこんなものだった。

「……いや、理解できない、というよりも、理解したくない、の方が正しいかな」
「どういうことです?」
「まず、異世界云々は現状否定しようがないから納得するしかない。次に、召喚云々はまあ、百歩……いや万歩譲って『そういう世界なんだなあ』と無理矢理思い込もう。だが、その召喚対象が君というのが………………ね」
「いや、それはお約束と言う奴で」
「創作物のお約束を現実に持ち込まれてたまるか」

 そう言って、もう疲れたとばかりにため息をつく。
 態度がちょっと荒れていることを指摘してみたかったのだが、色々こじれそうだったのでその事実は心の内にしまっておいた。

「米津先生、生徒の前でとる態度ではありませんよ」

 ツェーンが思いっきり直球を投げたので、俺の自重は全くもって意味をなさなかったわけだが。
 指摘を受けた米津先生は、恥ずかしさ半分怒り半分と言った表情で俺を睨んできた。……俺の所為じゃないぞ。

「……倉田君」
「は、はい……?」
「今君は、何も見ていなかったし聞いていなかった。勿論米津誠司というとある物理教師の失態も君は知らない。いいね?」
「えっ」
「いいね?」
「……はい」

 俺はこの時、米津先生の本性と言うか、素を見たのかもしれない。
 まだ少し不満そうにしていた先生だが、やがて諦めた様に「まあ、いいでしょう」と言うと、一度座りなおして体をこちらに向けてきた。
 ……凍てつくような視線はそのままだが。

「……睨まないで下さいよ」
「もう……いい加減話を始めましょう?」

 ツェーンが、半ば強引に切り出す。そして、彼女が話し出したことと言えば、大体俺の予想通りの内容だった。
 まず初めに、数日かけてこの世界の通貨や挨拶と言った一般常識 (といっても、細かい違いしかないが)を学ぶ。次に、魔物や盗賊と言った外敵に対抗できるようになるための訓練。そして、万が一のために教会で創世神の加護――これを授かっていると、肉体や魂が完全に消滅した状況下でも一度だけ生き返れるのだ――を授かる事。
 主な所はこの三つだ。
 ……正直、俺としては修学旅行なのだからこんなことをする必要はないと思ったのだ。常識云々は大して変わらないのだからわざわざ学ぶ必要もないし、魔物や盗賊は現在仕事に事欠いている兵士に護衛についてもらえば良い。唯一、創世神の加護はあった方がいいと思うが……。
 まあ、予定の時点からして二か月の修学旅行なんて、そんなに時間があっても暇を持て余す輩が少なからず出てきてしまうかもしれないから、やるしかないだろう。
 それに、ツェーンが「少しぐらい夢を見させてあげましょうよ。自分も頑張れば戦えるんだ、って」と熱弁する(恐らく俺のラノベコレクションに影響されているのだろう)ものだから、やめようと言い出せないというのもあったりする。
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